免疫を抑制する「制御性T細胞」の維持に重要なたんぱく質を発見した=大阪大学の市山健司特任准教授提供

大阪大学の市山健司特任准教授や坂口志文特任教授らは、免疫を抑制する「制御性T細胞」の維持に重要なたんぱく質を発見した。別のたんぱく質と結合して働いており、この結合を妨げると制御性T細胞の働きを抑えられた。がんや自己免疫疾患など、免疫に関わる病気の治療に応用できる可能性がある。

免疫細胞の一種の制御性T細胞は坂口特任教授が1995年に特定した。他の免疫細胞に働きかけて機能を抑える。制御性T細胞が十分に働かないと免疫が過剰になって、免疫が自分の体を攻撃する自己免疫疾患につながる。逆に制御性T細胞が働きすぎると免疫ががん細胞などを攻撃できなくなる。制御性T細胞の働く強さを変えられれば、病気の治療につながるとして世界で研究開発が進んでいる。

制御性T細胞が働くには「Foxp3」というたんぱく質が必要になる。研究チームはFoxp3が細胞内で別のたんぱく質と結合して働くことに着目し、こうしたたんぱく質の一つ「Ikzf1」の働き方をマウスで調べた。Ikzf1の構造を変えてFoxp3と結合できなくすると、マウスは重い自己免疫疾患を起こして死亡した。

詳しく調べると、このマウスの制御性T細胞は免疫物質の一種を多く出すようになっていた。制御性T細胞がこの物質の刺激を受けると機能が不安定になり、自己免疫疾患が起きるとみられる。

今回の知見はがん治療などに応用できるとみている。活性化した制御性T細胞は免疫物質の刺激を受けて不安定になりやすい。2つのたんぱく質の相互作用を薬剤で妨げられれば、活性化した制御性T細胞の関わるがんなどを狙って治療できる可能性がある。自己免疫疾患の治療ではこの相互作用を強める手法が考えられるという。

Foxp3自体の働きを妨げると、がんなどにいる活性化した制御性T細胞だけでなく全身の制御性T細胞が影響を受けて自己免疫疾患が起きうる。Ikzf1はB細胞など別の免疫細胞でも働くため、Ikzf1の働きを妨げるのも悪影響が大きいとみる。

今後はヒトのがんや自己免疫疾患で、2つのたんぱく質の相互作用が病気に強く関わっているか調べる。大塚製薬や米ハーバード大学との共同研究で、成果をまとめた論文が米医学誌「イミュニティ」に掲載された。

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