検索サービスの覇権争いはやんではおらず、この分野に君臨する米グーグルも安穏とはしていない。
米裁判所は8月上旬、グーグルの検索サービスが違法に独占を維持しているとの判決を下した。同社はこうした規制の圧力に加え、トップの座を守るためにAIの導入を迫られ、5月には米国でAIが検索結果を要約する機能「AIオーバービュー」の提供を開始した(編集注:8月からは日本などでも利用可能になった)。
一方、対話型AI「Chat(チャット)GPT」を手掛ける米オープンAI(Open AI)はAI検索ツール「サーチGPT」の試行に乗り出し、スタートアップ各社も生成AIを次世代の検索エンジンに搭載している。
この分野で最も注目すべき企業の1つは、パープレキシティだ。同社は勢いを増している。4月にはユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)になり、企業価値は2023年10月から倍増した。24年に入ってからの売上高は年率換算で3500万ドルと、23年通年の500万ドルの7倍に増えている。
同社の勢いはグーグルの牙城に挑めるほどなのだろうか。
この疑問に答えるため、CBインサイツの分析機能を活用してパープレキシティの戦略の4つの柱をまとめた。
・複数の大規模言語モデル(LLM)を駆使し、回答の質を向上
・提携を通じてユーザー基盤を拡大
・収益源を多角化するため、ビジネスモデルを進化
・質の高いコンテンツにアクセスするため、メディアと提携
以下では、この4つの戦略とAI検索の先行きについて解説する。
複数のLLMを駆使し、回答の質を向上
パープレキシティの主な差別化要因は、オープンAIの「GPT-4」、米アンソロピック(Anthropic)の「クロード」、米メタの「ラマ3」など複数のLLMを駆使している点だ。
これにより、各モデルの強みと弱みに基づいて回答の質を高め、有料版のユーザーは用途に応じて好きなLLMを選択できる。
米生成AI検索スタートアップのユー・ドット・コム(You.com)も同じ戦略をとっている。一方、米マイクロソフトの「Bing(ビング)」(オープンAIのLLMを使用)やグーグルのAIオーバービュー(自社開発したLLM「Gemini=ジェミニ」を使用)などは、1つのモデルを使っている。
提携を通じてユーザー基盤を拡大
パープレキシティはユーザー基盤を拡大するため、提携戦略を繰り広げている。携帯電話会社のユーザーに自社サービスへのアクセスを提供したり、自社の検索システムに音声アシスタントを搭載したりしている。
例えば、ソフトバンクは4月に締結したパープレキシティとの提携の一環として、格安ブランド「LINEMO(ラインモ)」と傘下の格安ブランド「ワイモバイル」の利用者にAI検索サービス「パープレキシティ・プロ」を1年間無料で提供している。
パープレキシティの月間ユーザーは4月に1500万人に達した。最近の提携により、ユーザーはさらに増える見通しだ。もっとも、オープンAIのチャットGPTのように、サービスの提供開始から2カ月足らずで月間アクティブユーザーが1億人に達し、23年11月時点の週間アクティブユーザーが1億人に上るトップの生成AIアプリケーションにはなお及ばない。
収益源を多角化するため、ビジネスモデルを進化
生成AIの開発には多額のコストがかかる。パープレキシティの調達総額は1億7200万ドルに上るが、オープンAIの135億ドルや、グーグルがAIに投じている数十億ドルに比べれば大きく見劣りする。
このため、製品を収益化する力が一段と重要になっている(その一方で、パープレキシティは2億5000万ドルの調達を進めているとされる)。
同社は月額20ドルの有料版の提供に加え、最近ではオープンAIに追随し、法人向けサービスを推進している。
7月には、グーグルの戦略にならって無料ユーザーから収益を得るため、検索の回答とともに広告を表示する方針も発表した。これは利益率の高い新たな収益源になる可能性があるが、成功するには既に関心を示している広告主に、既存のデジタルチャネルよりも高いリターンが得られると納得させる必要がある。
質の高いコンテンツにアクセスするため、メディアと提携
パープレキシティは広告分野への参入の一環として、広告収入をメディアと分配するプログラムを始めると発表した。AI検索エンジンでメディアのコンテンツが広告収入を生み出した場合には、メディアに報酬を支払う。米誌タイムや米誌フォーチュンなどが既にこのプログラムに参加している。
オープンAIによる英紙フィナンシャル・タイムズや独アクセル・シュプリンガーなどとの提携と同様に、メディアと提携する目的は2つある。質の高いコンテンツにアクセスしてできる限り優れた回答を提供できる点、コンテンツの盗用や違法な利用に対するメディアの懸念に対処できる点だ。
パープレキシティの広告収入分配の仕組みは、オープンAIが採用している各メディアとの個別契約戦略との差異化や、より持続可能なエコシステム(生態系)の構築につながる可能性がある。
今後の見通し
グーグルの牙城を切り崩したAI検索企業はまだなく、グーグルはなお90%以上のシェアを維持している。しかも、同社はパープレキシティなどが目指しているAI機能の多くを既に導入している。
その一方で、検索がパーソナライズ化し、さらに直感的になるなか、自ら判断して動く「AIエージェント」のような新たな闘いの場が既に登場しつつある。
最近インタビューしたパープレキシティのある法人顧客は、未来の検索は情報の検索にとどまらず、文脈を理解してウェブサイトとやり取りし、ユーザーの代わりに行動してくれるようになるとの見方を示した。
高度なAIエージェントの開発競争により、従来の情報検索の域を超えた未来の検索を制する企業が決まる可能性がある。
パープレキシティとライバル各社は、オープンAIやAIエージェント開発プログラム「プロジェクトアストラ」を手掛けるグーグルなど、AIエージェントを組み込んだ業務フローの開発に取り組むテック大手に対抗するため、イノベーション(技術革新)を急がなくてはならないだろう。
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