グリーンランド北西部、ボウドインフィヨルドの氷河が解けている様子=JAMSTECの永塚尚子氏提供

海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究グループは、海で氷河の底から解け出した水が、海面に生物の栄養源を運ぶ原理の一部を解明した。塩分濃度が異なる氷河の水と海水とがかき混ぜられて植物プランクトンの増殖を促す。ただ、地球温暖化に伴い氷河が後退すれば、その効果が著しく低下するという。

海洋機構は東京大学や国立極地研究所、北海道大学と共同で、氷河が接する海中の流れ、栄養分の起源やプランクトンなどの動きをコンピューターでシミュレーション(模擬実験)できる新たなモデルを開発した。グリーンランドの北西部にある「ボウドインフィヨルド」のデータを用いて詳細を解析した。

氷河から解け出す水の塩分濃度は淡水に近く、密度が海水と比べて低い。従来は、氷河の底から勢いよく上昇して栄養が豊富な水を巻き込みながら海面に届ける効果が大きいとされてきた。夏のボウドインフィヨルドの氷河の水は水深200メートルから1秒間に約5万リットルが海に出る。

シミュレーションによる計算の結果、下からの水の巻き上げよりも氷河から出る水と、大西洋から来る栄養が豊富な海水とがぶつかってかき混ぜられる効果の方が大きいと分かった。

氷河末端から出る水が海に流入している=JAMSTECの永塚尚子氏提供

温暖化が進んだ場合に植物プランクトンが光合成で生産する有機物の変化量も予測した。氷河が海から陸上へ後退すると、土砂が光合成に必要な光を遮り現在よりも生産できる有機物が88%減少することが分かった。

成果は英科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された。今後は開発したモデルを使って、地球温暖化に伴う氷河の後退と消失が、フィヨルドの生態系に与える影響を予測する研究を進める。

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