佐賀大学の野出孝一医学部長や田中敦史特任教授らは慢性心不全の治療薬「エンレスト」が急性心不全にも効果があり、安全性にも問題がないことを国内の臨床試験で示したと報告した。薬の効果を示すデータは米国などでの臨床試験のものにとどまっていた。急性心不全では容体急変のリスクが高く、薬の選択肢が増えれば予後の改善につながる。

心不全は血液を全身に送る心臓の機能が落ちた状態で、日本人の死因の上位を占める。機能が急激に落ちるのが急性心不全で、呼吸困難などの症状が起きる。慢性心不全では機能が慢性的に落ち、疲れやすくなったり息苦しくなったりして生活に支障が出る。医療現場では急性と慢性とで一部の薬を使い分ける。

エンレストはノバルティスファーマが販売する薬で、血管拡張などの作用を通して治療効果を発揮する。国内では2020年に慢性心不全向けに承認されたが、急性心不全への効果は不明だった。研究チームは急性心不全で入院した国内の患者約400人の半数にエンレストを投与し、もう半数のグループには心不全向けの既存薬「ACE阻害薬」などを投与した。

その結果、エンレストを投与した患者では心不全の状態を示す検査値が既存薬のグループよりも改善した。エンレストには降圧作用もあるが、臨床試験では過剰な低血圧などの副作用も少なかった。

海外と国内では医療提供体制や医療制度が異なる。治療薬の効果を確かめるには海外からの報告に頼るだけでなく国内でも確認するのが重要とされる。

田中特任教授は「これまで主に慢性心不全患者へ投与してきた薬について、急性心不全への治療効果を検証する研究がここ数年世界で注目を集めている」と話す。研究成果をまとめた論文は欧州心臓病学会の学術誌「ヨーロピアン・ハート・ジャーナル」に掲載された。

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