西山朋佳女流三冠のプロ編入試験の第1局は、10日午前10時に東京の将棋会館で始まりました。

第1局の試験官は高橋佑二郎四段(25)で、振り駒の結果、先手となった高橋四段が初手で飛車先の歩を突いたのに対し、後手の西山女流三冠は角道を開けて応じ、その後、得意の「振り飛車」の戦型を取りました。

将棋のプロ棋士になるには、原則として日本将棋連盟の「奨励会」に入り、対局で上位の成績を収めて「四段」に昇段する必要がありますが、これまでプロになった女性はいません。

西山女流三冠は大阪出身で、2010年に「奨励会」に入り三段まで昇段したものの、3年前に退会して女流棋士となりました。

その後は女流タイトルを通算16期獲得するなど、トップ女流棋士のひとりとして活躍し、ことし7月、プロへの編入試験を受ける条件を満たしたため日本将棋連盟に受験を申請しました。

編入試験は、四段の棋士との五番勝負で3勝すれば合格で、これまでに3人がこの制度でプロになっています。

女性では福間香奈女流五冠(32)がおととし編入試験を受験しましたが、結果は0勝3敗でプロ入りはなりませんでした。

今回の五番勝負で西山女流三冠が3勝して合格すれば、女性初のプロ棋士となります。

第1局の勝敗は10日夕方から夜にかけて決まる見通しです。

西山朋佳女流三冠とは

西山朋佳女流三冠は、大阪府 大阪狭山市出身の29歳。

得意戦法は「飛車」を横に移動させる「振り飛車」で、積極的な攻めの姿勢から“剛腕”の異名で呼ばれています。

6歳のころに将棋を始め、地元の将棋教室に通いながら頭角を現し、中学生の14歳の時に日本将棋連盟の棋士養成機関、「奨励会」に入りました。

そして20歳で最後の関門、三段リーグに女性としては2人目かつ最年少で昇段しました。

三段リーグでも健闘し、24歳の時には14勝4敗という好成績をあげます。

女性初のプロ棋士誕生が期待されましたが、同じ成績で3人が並び、過去の成績などから西山女流三冠は3位となって、四段に昇段することはできませんでした。

そして、3年前、26歳の年齢制限を前に「奨励会」を退会し、女流棋士に転向しました。

その後は女流のタイトルを次々に獲得し、これまでに獲得したタイトルは通算16期、女流の永世称号「永世女王」の資格を持つトップ女流棋士として活躍しています。

プロ棋士との公式戦でも、去年、2つのタイトル戦に登場した佐々木大地七段や「王位」のタイトルを獲得したこともある木村一基九段に勝利する金星をあげ、今回、女流棋士としては福間香奈女流五冠(32)に続いて2人目となるプロ棋士への「編入試験」の受験資格を獲得しました。

プロ棋士への「編入試験」とは

今回、西山朋佳女流三冠(29)が臨むプロ棋士への「編入試験」は、2006年に設けられた制度で、公式戦でプロ棋士を相手に直近の対局で「10勝以上」かつ「6割5分以上の勝率」などの条件を満たした女流棋士やアマチュアが受験資格を得られます。

試験では試験官を務める四段の棋士5人と対局し、3勝すれば合格で、プロ棋士となります。

この制度で合格してプロ棋士になったのは、今泉健司五段(51)と折田翔吾五段(34)、それに小山怜央四段(31)の3人です。

また、おととしには福間香奈女流五冠(32)が女性として初めて「編入試験」を受験しましたが、合格はなりませんでした。

佐藤康光九段「実力的にはプロ棋士になってもおかしくない」

「竜王」や「名人」など数々のタイトルを獲得し、日本将棋連盟の会長も務めた佐藤康光九段(54)は、西山朋佳女流三冠について「実力的にはプロ棋士になっても全くおかしくない」と評価しています。

佐藤九段は西山女流三冠の編入試験への挑戦について「受験資格は公式戦でプロ相手に勝率6割5分ですが、その成績を取ること自体が本当に難しく、それだけでもすごいことだと思います。プロ棋士としての実力を十分に持ち合わせていると思いますが、今回の試験では五番勝負を勝ち越さないといけないので、ふだんどおりの実力を出せるかどうかが1つの見どころになると思います」と話していました。

佐藤九段は、去年12月の公式戦で西山女流三冠と対局し勝利しましたが、その時の対局について「“振り飛車党”で終盤が特に強いイメージがありますが、実際の対局では序盤から積極的に新たな工夫が見られ、私が苦しい形勢の時間も長く、負けてもおかしくない局面が続きました」と振り返りました。

そのうえで「実績を残している棋士相手にも臆することなく堂々とした内容で結果を積み重ねられていて、年々強くなっているなという印象です。特に終盤戦の強さというのが非常に光るところがあり、勝ちが見えるとよどみなく勝つ技術が本当にすばらしいと思います」と持ち味を評価しました。

また、女性のプロ棋士がいまだ誕生していないことについては「ことしはちょうど日本将棋連盟の創立100周年ですが、女流棋士の誕生から50周年の節目でもあります。女流棋士の歴史とプロ棋士の歴史で50年の開きがあるわけで、最初のころはその差が大きかったと思います。それから女流棋士の数も増えて、西山女流三冠や、女流タイトルを分け合っている福間香奈女流五冠の活躍などもあり、その差は急激に埋まっていて、いずれ女性のプロ棋士が誕生すると思いますが、そうした中で今回の編入試験は非常に注目される勝負という気がしています」と話していました。

そして、「今回の編入試験は試験官の棋士も非常に強く、プライドを持って挑むので合格の確率は五分五分では」としたうえで、「西山女流三冠の方が女流タイトル戦で大勝負を数多く経験していて、そこはひとつの強みだと思います。西山女流三冠に憧れて女流棋士やプロ棋士を目指すという方も多いと思うので、目標をより高く上げてくれる存在としての期待もありますし、先駆者として実績を積み上げてほしい」と話していました。

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