欧州の大学と連携して半導体や人工知能(AI)など先端分野の人材育成に取り組む大学院を支援する事業で、文部科学省は12日までに、筑波大や慶応義塾大など10校を支援対象に決めたと発表した。2028年度までの5年間補助する方針で、支援総額は年1億円程度となる見込みだ。
選定された大学は山形大、筑波大、東京海洋大、金沢大、豊橋技術科学大、東京工業大、京都工芸繊維大、岡山大、広島大、慶応大。24年度は10校に計1億3000万円が助成される。
筑波大はフランスやドイツ、ベルギーなどの5大学と手を組み、量子や情報、生命分野融合の国際連携教育プログラムを展開する。広島大は海洋経済安全保障と持続可能性を支えるAI分野の人材育成プログラムを始める。イタリアやオーストリアなどの5大学と連携する。
金沢大は半導体とAIの開発や量子技術の基礎となる数物科学分野をけん引する人材を育成する。同大は「チェコやスウェーデンなどの大学と協力し、数物科学分野で日本と欧州の交流拠点となることを目指す」とコメントした。
支援対象の10校は今後、欧州の大学の修士課程に留学するプログラムを設ける。渡航前にオンラインを活用した事前学習を組み込んだり、キャリア形成に向けた日本と欧州連合(EU)の研究機関や企業でのインターンシップを導入したりする。連携する大学から学生の受け入れも進めるため、言語や生活環境などのサポート体制を整備する。
経済安保で重要になる先端分野の人材は不足している。電子情報技術産業協会の推計によると、半導体に関わる人材は今後10年間で国内主要メーカーだけで少なくとも4万人が追加で必要になる。
欧州への日本からの留学生は学部生が83%と大半で、修士(8%)と博士(6%)は少ない。文科省は修士段階での留学を増やし、先端分野の研究力底上げとともに高度人材の育成を目指す。
同省は欧州だけでなく、米国やオーストラリアなどのトップクラスの大学院で学ぶ日本の理系学生を対象にした奨学金を充実させる。
日本学生支援機構が特別枠を新たに創設し、9月に公募を開始。留学先の対象は米ハーバード大や米スタンフォード大など。地域ごとに支援額が異なるが、米国なら月額83万円の支援が受けられる見込みだ。
日本の大卒者のうち、自然科学分野の学位取得者の割合は35%で、英国(45%)やドイツ(42%)と比べて低い。支援の拡充を通してデジタルや脱炭素など成長分野をけん引する人材を育て、科学技術力を高めたい考えだ。
(大元裕行)
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