知っておくべきこと:
・企業の経営幹部や投資家は「バーチャルお試し」テックに改めて関心を示している。この技術への関心は数年前に大きく高まったが、広く普及するには至っていない。
・自動スタイリングチャットボットや生成AIによるコーディネートの提案など他のAIスタイリングツールが、パーソナライズ化をさらに進め、購入を促す可能性がある。
バーチャルお試しテックはかつて、ファッションや美容などの買い物の特効薬としてもてはやされた。
服や美容品が似合うかをデジタル上で確認できるこの技術は、ネットショッピングへの移行に対応し、返品を減らす解決策だと期待された。
資金調達額が急増し、米小売り最大手ウォルマートや米衣料品大手ギャップ、英ブランド衣料品EC(電子商取引)のファーフェッチなどがバーチャルお試しテック企業を買収してから数年たつが、小売りやブランドはこのツールをこぞって導入してはいない。買い物客の体形は様々で好みのフィット感も異なることなどを考えると、バーチャルお試しは一筋縄ではいかないようだ。
もっとも、ここにきて経営幹部の間でバーチャルお試しテックに関する発言が再び増えている。
米グーグルはこの初夏、広告主のROI(費用対効果)を理由に挙げ、自社のバーチャルお試しツールを広告に拡大する方針について触れた。
資金調達もこの分野の勢いが再燃していることを示している。バーチャルお試し企業による資金調達は21年以降明らかに減速していたが、この9カ月で6社が新たに資金を調達するか、インキュベーターと提携している。
バーチャルお試しは今後どうなるのか。新たなAIツールはさらにパーソナライズ化されたデジタル体験をどう推進するのか。
バーチャルお試しのアーリーステージ(初期)企業、主なカテゴリーとオムニチャネル(店舗とECの統合)に狙い
最近資金を調達した企業のうち、3社が美容品とアクセサリーのバーチャルお試しツールを手掛けている。買い物客の体の小さな部分(多くは頭部)に特化でき、体形の違いによる影響を受けにくいため、これらのカテゴリーではバーチャルお試しは比較的成功している。
例えば、スロバキアのオーグリオ(Auglio)は商品の3D画像と買い物客の顔の3Dマスクを作成し、眼鏡や化粧品、アクセサリーが似合うのかを確認できる。米パルポAR(PulpoAR)のお試しツールはユーザー数の追跡や成約率の測定も可能だ。同社の美容関連の顧客はフランス発のセフォラ、香港のドラッグストア大手ASワトソン、米グーグルの美容品広告のお試し用など多岐にわたる。
一方、米アルゴフェース(Algoface)はメーキャップや髪形を試せるクロスプラットフォームツールを提供する。同社の2Dと3Dの顔認識システムはECサイトのほか、店舗のタブレット端末やスマートミラーなどのデバイス上でも利用できる。
洋服のフィットに特化する米フィットマッチ(Fit:Match)も、オンラインと実店舗の双方で展開できるツールを開発している。20年にはショッピングモール「ブルックフィールド」の独立型キオスクで3Dボディースキャンサービスの提供を始めた。今では店内のスマートミラーで買い物客の体を素早くスキャンし、その店舗にある顧客にぴったりの商品やサイズをおすすめする。自分のスマートフォンでこのツールを使うことも可能だ。米アパレルブランド「サベージXフェンティ」はアトランタの店舗にこのツールを導入している。
デジタルスタイリングの次:生成AIによるコーデ画像とAIスタイリスト
バーチャルお試しテックへの関心が再び高まり、資金調達も活発化しているとはいえ、この分野には企業がひしめいている。買い物客に似合うかを支援するだけでは十分とはいえない。
24年に資金を調達したバーチャルお試しテックなどの企業数社は、デジタル上で消費者とさらに深く関わり、購入を促すAIツールを提供している。以下では、AIがこの分野の未来に及ぼす影響を示す3つのトレンドを紹介する。
バーチャルお試し+スタイリング
フランスのフィットテック企業ビジュアル(Veesual)は4月のシードラウンドで370万ドルを調達した。AIを活用して様々なサイズや体形のモデルを生成し、洋服が合うかを示すバーチャル試着ツールに加え、服の提案や、買い物客が自分でコーデを作成できる機能も提供している。調達した資金は、米アパレルブランドのアイリーン・フィッシャーとの提携など米国での事業拡大に使う。
自動スタイリングチャットボット
韓国のスタイルボット(StyleBot)は3月と4月の2度のシードラウンドで資金を調達した。同社のツールは小売りやブランドのECサイトに組み込まれ、オンラインやスマートミラーなどのデバイス上で商品に合うコーデを提案する。同社のチャットツール「AIジェニー」を使えば、手持ちの服を含む仮想ワードローブを作成して服をおすすめしてくれる。スタイルボットは韓国サムスン電子と提携しており、米国で開催されたテクノロジー見本市「CES 2024」ではサムスンのスマートミラー上で自社ツールを展示した。
一方、サウジアラビアのタフィー(Taffi)が手掛けるAIスタイリスト「アミラ」は、100人以上のスタイリストのデータで学習しており、ライフスタイルや行事、しきたりなどに基づいてスタイリングを提案する。小売りやブランドは自社のECプラットフォームでアミラを展開できる。
生成AIで個々に応じたスタイリング
米ファインドマイン(FindMine)はアイテム探しとAIパーソナライゼーションの老舗だ。4月のシリーズAで890万ドルを調達した。同社のプラットフォームでは生成AIを使って顧客に様々なスタイルのおすすめやイメージを提供する。メールや広告、店舗、ECサイトのほか、カスタマイズされたダイナミック商品ディスプレーや(広告などから流入してきたユーザーが最初に閲覧する)ランディングページなどでも個々の買い物客に応じたスタイルを提案する。調達した資金は新規顧客の開拓や生成AIモデルの強化に充てる。
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