渦巻き模様のタテキン幼魚。小笠原や沖縄などを除けば国内で冬を越せないため成魚になれない。ここには成魚がいないのに、岩陰でビクビクしている姿ばかり=和歌山県串本町で、三村政司撮影

 前回に続き、幼魚(Yg)です。初秋の海中は少し成長したちびっ子たちが目立つようになり、とてもにぎやかです。

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 今回は「タテキンYg」を取り上げます。

 正式名称は「タテジマキンチャクダイ」ですが、長い上に舌をかみそうなので、ダイバーの多くは「タテキン」と呼び、幼魚は「ウズマキ」、成魚と幼魚の中間は「ウズキン」と呼ばれることもあるそうです。

タテキンの成魚。派手な色合いで幼魚とは全く違う姿形だ=東京都小笠原村で、三村政司撮影

 確かにこのサカナの幼魚、ぐるぐるの渦巻き模様です。成魚は鮮やかな青色と黄色のしま模様。目の周囲はマスクのような黒い帯に彩られ、南国のサカナそのもの。とても同じ種には見えません。

 この連載で取り上げた、ナポレオンやアジアコショウダイ、ミナミハコフグも同じように親子で模様や色が違います。成長するにつれ変化するサカナは少なくなく、その代表格がタテキンです。

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 容姿の異なる理由はそれぞれですが、タテキンの場合、「親の性格に問題があるから」とされます。荒っぽく攻撃的なうえ、縄張り意識が強く、同属や同種のサカナが縄張りに侵入すると、追い払ってしまうのです。強引にヒトに例えると、ネグレクト(虐待)を繰り返す「毒親(どくおや)」でしょうか。いじめられてエサ場を追われれば、コドモは生きていけません。

 そこで、幼魚は縄張り内に侵入しても攻撃されないよう、模様を変えて別種に化けている、というのです。面白いことに近くに成魚がいると、幼魚は体が大きくなっても模様が変わらず、近くにいなければ体が小さくても「タテジマ」になる、という報告があります。よほど怖いに違いありません。

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 一見横向きなのになぜ、「タテジマ」なんだろう、と不思議に思われるかもしれません。理由は、サカナは頭を上にしてタテヨコを分類する決まりがあるから。泳いでいる状態で横じまに見える模様は、実は縦じまなのです。

 渦巻きが縦じまになる、という変わり方も面白いですね。でも、渦が伸びて真っすぐになるのではなく、渦巻き模様は少しずつ薄くなり、変化の途中で現れた黄色や青の縦じまが目立つようになっていくのです。さらに、しまのところどころにある枝分かれ部分が、ファスナーのように動いたり、つなぎ替わったりすることで、しまの数が増えます。

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 この模様の変化、「チューリングの反応拡散波理論」と呼ばれる、数学の方程式で計算できるのだとか。第二次世界大戦中、敵対するナチスドイツの暗号解読を成し遂げ、連合国側の勝利に大きく貢献したとされるイギリスの天才数学者、アラン・チューリングが1952年に生み出した理論です。チューリングは電子計算機やコンピューター概念も生み出し、その伝記が2014年に米国で映画化されています。

 95年、世界で初めてこの理論を実証したのが大阪大大学院の近藤滋教授。その研究対象が、タテキンことタテジマキンチャクダイでした。(和歌山県串本町と東京都小笠原村で撮影)【三村政司】

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