京都大学iPS細胞研究所の吉田善紀准教授らはヒトのiPS細胞から心筋細胞の増殖や血管の新生をうながす「心臓周皮細胞」に似た細胞の作製に成功した。心筋細胞とともに移植することで、心不全の治療効果が増す可能性があるという。5年以内の実用化をめざす。
心臓周皮細胞は主に胎児期に心臓の外側を覆う心外膜細胞から分化して生まれ、心筋を増殖させたり血管を新たに作ったりして心臓をつくる働きをする。成人の心臓ではほぼ分化は止まっているが、心臓が傷ついた時などに再び分化が盛んになり、心臓の機能を回復させることがある。
大阪大学や慶応大学発のスタートアップなどが心不全の患者に対し、iPS細胞から作った心筋細胞を移植する臨床試験(治験)を実施している。同時に心臓周皮細胞を移植すると治療効果を高めることが期待できるため、人工的に作る方法が求められていた。
吉田准教授らは心外膜細胞が分化する際に活性化する遺伝子を突き止めた。iPS細胞から作った心外膜細胞でこの遺伝子の発現を抑えると、常識的には分化が進まなくなるはずが、心臓周皮細胞によく似た細胞ができた。この細胞の遺伝子を網羅的に調べたところ、心臓周皮細胞に特徴的な遺伝子が多く発現していた。心筋細胞などとともに培養すると、毛細血管を新たに作ったり心筋細胞の増殖を促したりする働きがあった。
今後は効率的な作製法を探し、5年以内の実用化をめざす。吉田准教授は「平滑筋細胞や繊維芽細胞など心臓の他の細胞の作製法も見つけ、心不全や心筋梗塞の効果的な治療法を確立したい」と話す。成果は米科学誌「ステム・セル・リポーツ」に掲載された。
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