■朝日新聞社・LINEヤフー「ニュース健診2024」
俳優で声優の春名風花さんは9歳でSNSの発信を始め、多数の誹謗(ひぼう)中傷を経験しました。いじめ問題にも取り組む春名さんに、経験をもとに、SNSに何かを投稿する前に考えてほしいことを聞きました。
――小学生の時から、オンライン上でいろんな誹謗中傷を受けられてきたことを明かされています。
9歳でツイッター(現X)を使い始めました。ニュース番組を見て色々と「ぼやく」両親を見て育ったので、そのうち自分もニュースについてつぶやくようになりました。ユーザーも増えて発言が話題になると、中傷を含めたいろんなコメントがつくようになりました。
誹謗中傷は小4~6の頃が特にひどく、毎日のように「死ね」「消えろ」「キモい」といった言葉をぶつけられ、朝も夜も携帯の通知が鳴りました。警察に相談しましたが、当時はほぼ理解されませんでした。
――面と向かって同じことを言われることとの違いは。
もちろん、SNSがなかった時代から、悪口やいじめはありますよね。
ただ、相手の顔が見えず、自分が特定されないと思って匿名で書き込んでいる悪口というのは、気が緩んで、エスカレートしがちです。
言われている方としても、誰に言われたかわからないのは恐怖です。もしかしたら身近な人かもしれないと疑心暗鬼になってしまう。
僕も、「殺害予告」を受けてつらかった時期は、朝、学校や仕事に行こうとして玄関を開けた時に目が合った人が書いているかもしれないとまで思ったことがあります。
――裁判まで踏み切った理由は。
「実害」があったからです。
高校生の時は、SNS上で、私に対して「うそつき」などと書かれた投稿が、多い時で1日数十件されるようになりました。
自分だけならまだしも、友達や家族、部活の先輩や、仕事で少し共演した人の投稿のリプライ欄にまで同じような書き込みがされ続けたのが一番困りました。これ以上巻き込めないと思い、弁護士に相談して裁判という形をとりました。
――長い時間がかかりましたね。
今年5月にようやく出た横浜地裁の判決では、6年以上にわたり、「風花を合法的に葬り去りたい」などの投稿を1千件以上した男性の行為が名誉毀損(きそん)にあたると認められました。
法改正によって少し改善されたものの、被害を受けた側が高額なお金や時間をかけて発信者の情報開示を求めなければいけない現状は理不尽です。
裁判で明らかになったのはほんの一部。「殺したい」という感情をぶつけてきた人たちが同じ社会の中にいるという状況は怖いです。
――今は、どうですか。
TikTokを見ているような若い層ではコメント欄で「数の暴力」が起きやすいように思います。「ブスじゃね?」みたいな直接的な書き込みが、一度盛り上がると止まらない。
激しく心をえぐってくるような内容のコメントをするのは、アカウントのプロフィルなどを見る限り、中高年の世代も多いように思います。
――近著では「SNSいじめ」の実態にも言及しています。
著書の中で当事者からいじめの相談を受ける探偵の方と対談した際、いじめで万引きを強要されたり辱めを受けたりするだけでなく、その様子を動画にとられて拡散されたケースを聞きました。
被害だけでも苦しみは一生続くのに、SNS上にも映像記録や写真として残ると、実害も一生続きます。特に、精神的にも発達途中でこじれた人間関係の直し方もわからない子どもにとっては、余計に重荷でしょう。
――どんな対策が必要でしょうか。
SNSやネットをやらなければいい、とよく言われますが、現実的ではないと思います。本人や親がつながる機器を持っていなかったとしても、同級生は持っていて、恥ずかしい情報がばらまかれることもあります。
トラブルが起こることを前提に、法律を変えて発信者の特定や削除をもっと速くする制度を整えてほしいです。
- 《いじめている君へ》春名風花さん
――短いコメントやリプライでも相手を深く傷つけてしまう可能性を考えると、発信する側が気をつけるべきことは。
小6の時、朝日新聞の「いじめている君へ」という企画で話したのは、あなたがゲームのような感覚でいじめているその人には、その誕生を心から祝い、自分より大事に思っている人がいて、その人の思いを踏みにじる行動をしているんだよ、ということでした。
スマホに指1本で入力した言葉だとしても、その発した言葉の先には生身の人がいる。後で見返して、1ミリも心が痛まずに生きていけるのか。大人になってからその発言が職場や家族にばれた時、胸を張って生きていけるのか。発信する前に自分に問いかけてほしいです。
その一言によって、相手を死に追い込んだり、自分が将来の職を失ったり、家族を不幸のどん底に落としたりすることもある。自分ごととして考えてほしいと思います。(聞き手・田渕紫織)
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