慶応義塾大学の古市宗弘助教や本田賢也教授らは、腸炎の一種である炎症性腸疾患の治療に使える可能性のある腸内細菌を特定した。腸炎の起きたマウスの腸内に投与すると悪玉の細菌が減って症状が改善した。抗菌薬の効かない悪玉細菌による炎症性腸疾患や感染症への対策になるとみている。今後、臨床研究に取り組み、実用化を目指す。

大腸菌の一種や「クレブシエラ」などの悪玉細菌は、難病の一つである潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を悪化させたり、血液に侵入して感染症を引き起こしたりする。通常は抗菌薬を使えば減らせるが耐性を持つ細菌も存在する。また抗菌薬の不適切な使用によって、薬に耐性を持つ菌が生まれるリスクもある。

研究チームは腸内に悪玉細菌を定着させたマウスを使って実験した。健康な人から採取した便をマウスに投与すると腸内の悪玉細菌が減った。この便に含まれる多様な菌のうち31種類の培養に成功した。細菌を減らす効果が特に高い18種類を特定した。

特定した菌を使えば炎症性腸疾患を治療できる可能性がある。大腸菌を多く含む炎症性腸疾患の患者の便をマウスに投与して腸炎を起こさせ、特定した18種類の細菌を投与した。するとマウスの腸内の大腸菌が減り、腸炎が抑えられた。抗菌薬への耐性を持つ悪玉細菌も減らす効果があるという。

仕組みを詳しく調べると、投与した18種類の細菌は体内にある「グルコン酸」という物質を活発に消費し、悪玉細菌の利用できるグルコン酸を減らして増殖を抑えると分かった。

集中治療室(ICU)に長期入院する患者や免疫不全患者の治療にも活用できるとみる。こうした患者には薬剤耐性のある悪玉細菌を持つ人が多い。今回発見した細菌群を投与すれば悪玉細菌による感染症などを予防できる可能性がある。古市助教は「実用化を急ぎ、患者に届けたい」と話す。研究成果をまとめた論文は英科学誌ネイチャーに掲載された。

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