独自開発の分子でバイオ薬を腫瘍まで届ける技術を開発した=ナノ医療イノベーションセンター提供

ナノ医療イノベーションセンター(iCONM、川崎市)のオラシオ・カブラル客員研究員らの研究チームは、がんの周囲に存在する免疫細胞を活性化させる薬剤を開発した。薬剤は特殊な分子で覆った構造で、大腸がんを発症したマウスで効果を確認した。副作用を抑えた抗がん剤などの開発につなげる。

東京大学との共同研究で、成果をまとめた論文は米国化学会誌「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー」に掲載された。

体内で発生するがん細胞は免疫によって取り除かれる。この仕組みを応用したのが「がん免疫療法」で、免疫細胞を刺激してがん細胞への攻撃性を高めたり、がん細胞が免疫反応を抑えるブレーキを解除したりして治療する。近年の研究開発によって、様々なバイオ医薬品が開発されている。

カブラル氏らは、バイオ薬をがんに届ける独自の分子を開発した。この分子で覆ったバイオ薬を体内に投与すると、がんが持つ独特の酸性環境に反応して内部のバイオ薬を放出する仕組みで、正常な組織に対する反応を抑えられる。

今回の研究ではこの独自分子と、免疫細胞のがん細胞への攻撃性を高めるたんぱく質「インターロイキン15」などを組み合わせた。大腸がんを再現したマウスに投与したところ、投与後20日程度で5匹中4匹の腫瘍がなくなり、炎症反応といった副作用は見られなかったという。

反応が見られなかった1匹については様々な原因が想定されるとした上で、「投与量を増やせば治療できる可能性がある」(カブラル氏)。独自開発した分子は、体内で壊れやすいたんぱく質の複合体などを保護でき、安定して患部に届けることができる。がん治療だけでなく、内部に搭載するバイオ薬を炎症を抑える薬剤などに変更すれば関節リウマチといった自己免疫疾患などにも応用できるとみている。

カブラル氏などは研究成果を基に創薬スタートアップのレッドアローセラピューティクス(米マサチューセッツ州)を2021年に設立している。今後は開発した薬剤について、動物を用いた前臨床試験で有効性と安全性を評価し、同社を通じて実用化を目指す。

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