早稲田大学や東京女子医科大学などはウシの腱(けん)を使い膝前十字靱帯を再建する臨床試験(治験)を始める。これまでは患者の太ももの腱などを採取し手術していた。2年後をめどに患者の負担が少ない治療の実用化を目指す。

炎症反応を起こす細胞を取り除いたウシの組織が入ったチューブ状の容器

靱帯や腱は何層にもわたる複雑な構造をしており、人工材料がない。スポーツなどで前十字靱帯が断裂すると、患者から正常な腱を採取するしかなかった。ただ、採取の影響で神経まひや痛みが起こったり、再発すると腱が不足したりするなどの問題があった。

研究チームはウシの腱に着目した。そのまま移植すると炎症反応が起きるため、原因となるウシの細胞を腱から取り除く手法を開発した。細胞を溶かす液体を一定の圧力で拍動させながら流し、マイクロ波を照射すると、腱から細胞成分がほぼなくなった。さらに凍結乾燥やガスなどを使って滅菌する手法も確立した。

開発した腱をヒツジに移植すると、1年後には靱帯と骨がしっかりとくっつき、ヒツジの細胞が腱に入り込み靱帯の再生を促す様子が観察された。ヒツジの腱を使った場合と比べると、開発した腱はより早期にヒツジの靱帯に置き換わった。

東京女子医科大学でまず5人の患者に手術で開発品を移植し安全性を確かめる。その後、全国6施設で約60人を対象に従来の手法と新手法で機能性などを比べる無作為試験を実施する。早稲田大学の岩崎清隆教授は「患者の組織を採る必要がなく、治癒を早められる可能性がある」と強調する。

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