東京大学の西林仁昭教授らは、常温常圧でアンモニアを安価に合成する技術を開発した。反応物を砕いて反応しやすくし、高価な有機溶媒を使わずに合成する。コストを抑えた実用的なアンモニア合成手法の開発につながると期待される。
アンモニアは医薬品や肥料など窒素原子を含む化合物の原料として使われる。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないため、発電や船舶の燃料として使える。水素に比べて容易に貯蔵や運搬ができ、「水素キャリア」としての役割も期待される。アンモニアを化石燃料に混ぜて燃やして、CO2排出量の削減を目指す取り組みも進む。
アンモニアは窒素ガスと水素ガスを用いて合成する。ただ、原料の窒素ガスは化学反応しにくいため、工業的なアンモニア合成で用いられる「ハーバー・ボッシュ法」では、セ氏約500度の高い温度と100気圧以上の非常に高い圧力を必要とする。さらにもう1つの原料である水素ガスの製造には化石燃料を用いるため、環境負荷が大きい。
西林教授らは、2019年に金属元素のモリブデンを含む特殊な触媒を使い、常温常圧でのアンモニア合成に成功した。水素ガスの代わりに水などを用い、窒素ガスと還元剤のヨウ化サマリウムを有機溶媒の中で反応させる。ただ、反応物を溶かすための有機溶媒が非常に高価だった。
研究チームは新たに「メカノケミカル反応」を利用し、有機溶媒を使わないアンモニア合成に成功した。メカノケミカル反応は固体か少量の液体同士の化学反応で、反応物を砕くなどの機械的な刺激を与えて反応しやすくする。
研究チームは水と固体のヨウ化サマリウムとモリブデン触媒を反応装置の中で機械的な刺激を与えて反応させた。水だけでなくセルロースも水素原子の供給源として使えた。セルロースは植物に大量に含まれる物質で豊富に存在する。
メカノケミカル反応で用いる反応装置はそのまま大型化するのは難しい。ただ、高価な有機溶媒を使わないため、研究チームは製造コストを約100分の1に抑えられる可能性があるとみている。西林教授は「窒素と水からアンモニアを合成できれば窒素循環社会の実現につながる」と語る。
環境負荷の小さいアンモニア合成の実現に向けて、企業でも取り組みが進む。出光興産などは、西林教授の技術を用いて実証プラントでの研究に取り組んでいる。その他にも東京科学大学発スタートアップのつばめBHB(横浜市)では、科学大の細野秀雄栄誉教授らが開発した「エレクトライド触媒」を利用したアンモニア合成技術の開発を進める。
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