2024年のノーベル化学賞を受賞する米グーグルの人工知能(AI)開発部門グーグルディープマインドのデミス・ハサビス氏は21日、日本経済新聞などの取材に応じ、急速に発展するAIの安全性やリスクについて「悪用を制限する一方で、善良な用途を全て可能にすることが社会にとっての大きな課題だ」との認識を示した。
ハサビス氏は囲碁AI「アルファ碁」で有名になった旧ディープマインドの共同創業者で、現在はグーグルディープマインドの最高経営責任者(CEO)を務める。たんぱく質の立体構造を予測するAI「アルファフォールド」の開発を主導し、20日に慶応医学賞を受賞した。同僚のジョン・ジャンパー氏らと24年のノーベル化学賞も受賞する。
24年のノーベル物理学賞は「AIのゴッドファーザー」と呼ばれるカナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授らに贈られる。グーグルに属していたヒントン氏は近年、AIが人類の脅威となる可能性を懸念し、安全対策を訴えている。
ハサビス氏はヒントン氏のような悲観論者も米メタでAI研究を率いるヤン・ルカン氏のような楽観論者もいるとした上で「私の考えは中間だ」と述べた。AIは創薬や医療のほか、エネルギーや素材の開発などに広く役立つ一方、AIの活用と悪用の制限を両立させる方法について「まだ誰も良い答えを持っていない」と指摘した。AIには未知の部分や研究すべきリスクがあり、国際社会が連携した議論も必要だと語った。
アルファフォールドは医学や生物学の研究に革新をもたらした。同氏は「今のところAIは顕微鏡や望遠鏡のような研究ツールだが、将来的にAIは創造的なものになる可能性がある」とし、AI自体が重要な科学的発見を生む可能性も展望した。ただ、ノーベル賞のような科学賞はAIではなくAIの設計者に与えられるべきだとの考えも示した。
AI技術の発展には東京大学の甘利俊一名誉教授ら日本の研究者も貢献してきた。ハサビス氏は得意分野とAIを組み合わせることが重要だと指摘し、日本に強みがあるロボット工学やゲームへのAIの応用は「日本にとって非常に良い機会になる」と語った。英国には金融や生命科学といった産業分野でのAI活用を勧めているという。
ハサビス氏は有力な科学賞を相次いで受賞し、ノーベル賞の有力候補と目されていた。「アルファフォールドがノーベル賞委員会が求めるようなインパクトを与えたという予感はしていた」と明かす一方、24年の受賞は想定していなかったという。知らせを聞いたときは「シュールな気分」で実感が湧かなかったと振り返った。
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