東京大学の小沢孝拓助教と福谷克之教授は大阪大学などと共同で、材料の内部にある水素の位置を可視化する手法を開発した。水素は非常に小さく、正確な位置を把握するのが難しかった。水素を貯蔵する材料開発や、効率的な燃料電池の開発につながる。
成果は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載した。
水素は将来のエネルギー源として注目される。軽くて小さいために金属原子の結晶の隙間に入り込む性質があり、水素貯蔵の手法に利用される。ただ一方で金属の強度を落とす「水素ぜい化」という現象を起こす。そのため水素の利用に関わる材料の開発では、水素がどこに存在するかを把握するのが重要だ。
原子を可視化するにはX線や電子線を使うのが一般的だが、水素は非常に小さいため解析が難しかった。他の手法でも材料の中のどこに水素があるかを正確に把握することはできなかった。
研究チームは加速器で加速した窒素イオンを使う手法を開発した。窒素イオンのビームは結晶を構成する原子の隙間を通る。結晶の中で水素に衝突すると出るガンマ線を捉え、水素の位置を把握する。試料を回転させて結晶構造に合わせてビームを適切に当てれば、正確な位置が分かる。
チタン水素化物の薄膜で水素原子の位置を特定できた。これまで予想していた場所以外にも水素が入り込んでいた。また水素の同位体である重水素と水素も見分けられた。水素の貯蔵や放出を効率的にできる材料の開発につなげる。
また水素が動きやすい構造が分かれば、高効率な燃料電池の電解質が開発できる。現在は数十ナノ(ナノは10億分の1)㍍ほどの深さまでしか観察できないため、より深い場所の水素やリチウム原子などの可視化も目指す。
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