これまでで最も古いオタマジャクシの化石が発見された。外見はおなじみのオタマジャクシとそっくりだが、1つだけ違いがある。巨大なのだ。場所はアルゼンチンのサンタクルス州で、研究チームは10月30日付けで学術誌「ネイチャー」に論文を発表した。化石は1億6800万〜1億6100万年前のものだと推定されており、これまでの記録を3000万年ほど上回る。
この発見は、カエルが少なくとも1億6100万年の間、オタマジャクシの段階を経てきたことを示す確かな証拠だ。「多くの専門家が考えていたことが見事に証明されました」とドイツのボンにあるライプニッツ研究所の爬虫両生類学者アレクサンダー・ハース氏は話す。ハース氏らは現代のオタマジャクシの多様性に基づき、この時期にはすでにオタマジャクシが存在したと予測していた。
えら、目、神経が細部まで石に
この化石は、古生物学者のフェデリコ・アニョリン氏らが偶然発見したものだ。アニョリン氏らはアルゼンチン、サンタクルス州のマチルダ層で恐竜の化石を探していた。ジュラ紀の岩石を形成した細かい堆積物や火山灰が、これまで発見されたことがない軟組織の痕跡を保存しているかもしれないと期待していた。
しかし、次々と見つかったのは恐竜ではなく、カエルだった。カエルはすべて、絶滅種Notobatrachus degiustoiのおとなだった。そのため、当時はまだオタマジャクシの段階がなかったのではないかと推測する研究者もいた。
ところが、2020年1月、チームのメンバーが休憩中に石を拾い上げると、15センチを超えるオタマジャクシの痕跡が残されていた。えら、目、さらには神経が細部まで石に刻まれていた。
アニョリン氏はカエルの専門家ではないため、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるアサーラ財団の同僚で、オタマジャクシの成長について研究していた生物学者のマリアナ・チュリバー氏に協力を求めた。
チュリバー氏が顕微鏡で化石を観察したところ、えらを支える軟骨が現代のオタマジャクシと驚くほど似ていることがわかった。
現代のオタマジャクシと同様、このオタマジャクシも水を吸い込んでからえらで排出する過程で餌をろ過し、酸素を吸収していたと思われる。このことから、同じ岩石で化石として発見されている小さな貝や昆虫、甲殻類ではなく、水中に浮遊する微生物や有機物を食べていたのではないかとチュリバー氏は考えている。
オタマジャクシとカエルのアベコベ
太古のオタマジャクシはおそらく、大きさも食性も一部の現生種と似ていたのだろう。ウシガエルのオタマジャクシは石に付いた藻をこすり落として吸い込む。そして時折、巨大に成長する。
一方、アルゼンチン原産の興味深い種アベコベガエル(Pseudis paradoxa)は、おとなは5センチほどなのに対し、オタマジャクシは25センチにも成長する。
ほとんどのカエルは、おとなの段階で最も大きくなる傾向にある。N. degiustoiのオタマジャクシがなぜこれほど成長し、巨大化したのかは不明だ。
「このオタマジャクシの保存状態が非常に良好なことに驚いています」とアベコベガエルについて研究するアルゼンチン、サルタ国立大学の動物学者マリッサ・ファブレジ氏は話す。「巨大なオタマジャクシの大きさを説明するのは難しいのですが、彼らの進化を理解するうえで重要な発見です」
化石には発達した軟骨、さらには骨格の一部まで刻まれており、オタマジャクシは変態直前の状態だったとチュリバー氏は述べている。つまり、オタマジャクシがおとなより大きかった可能性は低い。
マチルダ層で見つかったおとなは、このオタマジャクシとほぼ同じ長さのものが多い。それでも、N. degiustoiの巨大なオタマジャクシと現代のアベコベガエルには何か関連があるかもしれない。
アベコベガエルは、マチルダ層で化石として発見されたカエルたちと同様、雨量が少ないと干上がってしまう水たまりに暮らしている。おかげで、魚類による競争や補食の心配があまりない。その結果、オタマジャクシはオタマジャクシの段階に長くとどまり、おとなになる前に、大きく成長できる。そして、地上の餌に移行する前に、水たまりの餌を最大限に活用できる。
1億6000万年以上前のオタマジャクシが発見されたことは、カエルの生き方が成功を収めた証拠だとアニョリン氏は述べている。しかし現在、多くのカエルが苦境に立たされている。カエルは水陸両方の生息地に依存しているため、人のかく乱に対して二重の影響を受けることになる。「彼らを成功に導いた変態が今、彼らを絶滅へと導いています」
文=Tim Vernimmen/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年10月31日公開)
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