11月11日は「チンアナゴの日」でした。細長い姿で砂地に林立するさまが、数字の「1」が並んでいるように見えるからとのこと。
強引だと感じますが、子どもたちに人気のチンアナゴで入館者を増やしたいとの水族館の思惑があったようです。2013年にすみだ水族館(東京都墨田区)が働きかけて制定されました。各地の水族館でも、チンアナゴが主役の子ども向けの歌やアニメがよく流されています。抱き枕の代わりにもなるぬいぐるみも人気です。
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チンアナゴは温暖な海の砂地に集団で暮らしています。「引っこ抜いてみたい」という衝動に駆られるヒトも多いようで、ウェブ検索の上位に「チンアナゴ、引っこ抜く」ということばが出てきます。面白いですね。気持ちはよくわかります。
「砂の中でつながっているから、一匹を引っこ抜けば芋づるのように全てを引っ張り出せるよ」などと、初心者をからかうダイバーも。もちろん真っ赤なウソですが、そんな冗談が生まれるほど、奇妙で愛らしい姿と生態です。
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ウナギ目アナゴ科に属するれっきとしたサカナで、ヘビではありません。国内だと沖縄周辺で見かけます。日本犬の「チン」に似ていることから、和名がつけられました。
太さは1センチほどなのに全長は40センチにもなります。丸みのある顔つきと大きな目で周囲を見回し、流れてくる動物プランクトンを食べようと待ち構えています。近くに来れば体を伸ばして、ぱくり。
通常は体の3分の2以上を砂の中の巣穴に隠し、危険を感じるとさらに引っ込みます。臆病なのです。ダイバーやサカナなどが近づくと、球に当たったボウリングのピンが手前から倒れていくように、順々に「消滅」します。その後は近くにいるはずなのに待っていても現れず、離れた場所からしか撮影できないという、カメラマン泣かせの被写体です。
水中は陸上と違って浮遊物や海水そのものが遮蔽(しゃへい)物となるため、離れるほど視界がぼやけます。望遠レンズではなく、焦点距離の短いレンズで近づいて撮影することが原則なのです。
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水族館での展示では、流れてきたエサを追いかけて互いに絡んでしまったり、ケンカしたりすることもあるらしい。集団で暮らしていますが、協力し合うことはないとのこと。ただ、相手を傷つけることはなく、口を開けて威嚇し合うだけの平和な争い方のようです。
自然環境下では巣穴の間隔が広いためか、絡んだりケンカをしたりすることはないようです。少なくとも私は見たことがありません。この写真は密になっているように見えますが、レンズの圧縮効果を利用し、多くのチンアナゴを1枚の写真に収めたもの。各個体の間隔は1メートルほどです。全身を巣穴から出しても、お隣さんと接触することはありません。
適度な距離は必要なのでしょう。密が過ぎるのはよくなさそうです。なんだかヒトにも似た集団生活だなあと、思ってしまいます。(沖縄県座間味村で撮影)【三村政司】
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