生成AI(人工知能)利用の拡大やそれに伴うデータ量の増大によって、情報インフラであるデータセンター(DC)市場にも変化が生まれている。そんな中、注目を集めているのが、コンテナ型のDCだ。
「コンテナ型DCはこれまでも何度かブームがあったが、今また波が訪れている。AI需要の影響で(比率が)伸びそうだ」。3月に米半導体大手エヌビディアと提携したフランス電機大手シュナイダーエレクトリックの担当者はそう展望を語る。コンテナ型DCはサーバーなどのIT(情報技術)機器をあらかじめ小型コンテナに組み入れ、それを建設地に設置していく仕組み。工場で製造されるため、主流であるビル型のDCに比べて短納期で、増設や移設も容易だ。国内では2010年ごろから、日立製作所やインターネットイニシアティブ(IIJ)などが手掛けてきた。
従来はクラウドサービス利用や災害時などの事業継続計画(BCP)のためのバックアップといった用途を主体として導入されてきたコンテナ型DCだが、今では生成AIブームの波を受けて事業者や研究機関が導入・利用するケースが増えているという。
新たな冷却技術も導入しやすい
コンテナ型DCがAI開発の現場に支持されているのは、ただ単に納期が短く、需要拡大に即応しやすいという理由だけではない。消費電力量や発熱量が格段に多い生成AI向けサーバーを扱うための、新しい冷却技術を導入しやすいという面からも優位性があるからだ。
生成AIの処理に使われるGPU(画像処理半導体)サーバーは膨大な電力を消費し、その分、発熱量も多い。シュナイダーによれば、例えば消費電力を800キロワット(kW)として考えた場合、従来のサーバーであれば100〜150ラック分に相当していたところ、AI向けサーバーではたった8ラック分ほどで同程度の電力を消費することがあるという。
そうしたサーバーを効率よく冷却する設備も必要となる。従来型のDCでは、冷たい空気と入れ替える空冷方式が主流だ。だが、1ラックあたりの消費電力が約15kWほどに達すると、空冷では対応が難しい。いわゆる「空冷限界」だ。それでも高密度でサーバーを置くために、空冷の代わりにチップへ冷たい液体を配管で送る液冷方式や、サーバーごと液体に浸す液浸冷却方式といった新たな技術の開発が進められている。サーバーを設置する密度を高めながら効率よく冷却することはDCにとって喫緊の課題となっている。
こうした新たな冷却技術に対応するためにビル型DCを新設するならば、数年ほどかかるともいわれる。一方、コンテナ型は比較的工数が少なく納期を数カ月から半年ほどに短縮できるという。新たな冷却技術を取り入れながら、急激に高まる生成AI需要に素早く応えていくこともできるというわけだ。
IIJ基盤エンジニアリング本部で本部長補佐を務める久保力氏はコンテナ型DCについて「小規模で、(ビル型に比べ)作り替えることが容易なため、技術の変化に対応しやすい。まずはコンテナ型で試してからビル型を導入する方が合理的だ」と説明する。
急増するコンテナ型DCが抱える課題
調査会社のモードーインテリジェンスによると世界のコンテナ型DCの市場規模は24年に144億6000万ドル(約2兆2000億円)と推定される。24〜29年までの年平均成長率(CAGR)は18.49%に達する見通しだ。
国内でもAI需要の追い風を受けて、コンテナ型DCを導入する動きが見られる。エヌビディアのGPUをクラウドで使えるサービスを提供するさくらインターネットは、北海道石狩市の拠点に液冷対応のコンテナ型DCを新設する計画だ。約170億円を投じ、25年、26年と2期に分けて完成させる。
IIJはAI開発を手掛けるプリファードネットワークス(PFN、東京・千代田)や北陸先端科学技術大学院大学(石川県能美市)と組み、直接水冷技術コンテナ型DCを開発中だ。25年以降に千葉県白井市にあるIIJのDCに設置し、実証実験を始める予定だ。また8月にはシステム開発のピクセルカンパニーズがGPUサーバーに特化したコンテナ型DCの提供を始めた。
ただ今後、コンテナ型DCがDC全体の主流になるかといえば、そうとも言い切れない面もある。コンテナ型はビル型に比べて地面に対して縦に積むことが難しいため、設置には広大な敷地が必要となる。そして敷地に制限があれば拡張も難しい。またDCを構築する事業者から見ると、電気設備や空調設備のコストはコンテナ型でもビル型とさほど変わらないという。
コンテナ型DCは、急激に浸透してきた生成AI需要へ機動的に対応したり、冷却設備などでの新たな技術を小規模に試したりするには確かに有用だ。一方、拡張性やコスト面には課題も抱える中で、ビル型とどのように使い分けていくのかが、今後の焦点となりそうだ。
(日経ビジネス 中西舞子)
[日経ビジネス電子版 2024年11月6日の記事を再構成]
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