エネルギー政策の長期指針となる「エネルギー基本計画」を見直す議論が近く始まる。世界規模で異常気象が頻発し、気候変動対策の加速は待ったなしだ。ロシアのウクライナ侵略や中東情勢の緊迫に伴い、エネルギー安全保障の重要性も増している。
深まる分断の下で脱炭素の取り組みを加速し、安価で安定的なエネルギー供給と両立する戦略を描かなければならない。
エネルギー基本計画は約3年ごとに見直す。
AIで増える電力需要
4月に開いた主要7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合は、温暖化ガスの排出削減対策を講じていない石炭火力発電所の段階的廃止など、気候変動問題について一段の深掘りを確認した。G7の一員である日本もさらに高い野心を示すことが求められる。
次期基本計画が2021年につくった現行計画と大きく異なるのは、エネルギーをめぐる国際環境の変化だ。ロシアのウクライナ侵略によりエネルギー供給のサプライチェーンは分断され、石油や天然ガス価格が高騰して国内でも電気や都市ガス料金が上昇した。
加えてデジタル経済の急進展に伴うデータセンターや高性能半導体の需要拡大や、生成AI(人工知能)の普及が、電力需要を押し上げるとの見方が強まっている。国内需要は50年に、足元の需要に比べて1.3〜1.5倍に増えるとの試算がある。
需要が増えるほど脱炭素の道は険しさを増す。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは脱炭素時代の主力電源であり、最大限伸ばす必要がある。電源に占める再生エネの比率は現在約20%だが、電力需要が1.3倍に増え、再生エネ比率を60%に引き上げるなら再生エネを約4倍に、70%なら5倍近くに増やさねばならない。
排他的経済水域(EEZ)での洋上風力発電の整備や、耕作放棄地の太陽光への活用など適地を掘り起こす必要がある。一方でメガソーラーや風力発電所の建設をめぐり地元とのトラブルも増えている。地域の理解を得ながら導入量を増やし、コストを最小化するポイントを探ることが大切だ。
原子力発電所は運転中に温暖化ガスが出ず、脱炭素の実現には安全を最優先に活用することが欠かせない。岸田政権は老朽化した原発の建て替えに道を開くなど、抑制的だった原発政策を転換した。
しかし電力需要が増え、現行計画での目標と同様に50年時点で電力の2割を原発で確保しようとするなら、10基を超す新増設が必要となる。簡単な数字ではない。どこまで原発をあてにできるのか冷静に見極める必要がある。使用済み核燃料の最終処分を含め、国民の信頼回復へ政府がより積極的な役割を果たさなければならない。
水素やアンモニアなど燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない燃料や、CO2を回収・処理する技術と組み合わせた火力発電を活用することも大切だ。
脱炭素と安定供給の両立には、再生エネや原発、脱炭素火力の「どれか」ではない。「すべて」を使う総力戦で、実現可能な道筋を探らねばならない。半導体のさらなる微細化や次世代通信技術といった電力の使い手側の消費を抑えるイノベーションも不可欠だ。
総力戦で道筋探れ
脱炭素と安定供給の両立は世界共通のテーマだ。そこに道を開く技術で先行し、市場で優位に立とうと、国家や企業の大競争が熱を帯びつつある。新技術の確立は脱炭素の実現だけでなく、安定供給や産業競争力の礎となるからだ。
イノベーションを促す資金供給が欠かせない。脱炭素時代の覇権をかけて、投資を呼び込み、自国市場を守る保護主義的な動きが加速する。米国のインフレ抑制法(IRA)は税控除などの方法で脱炭素技術の開発・導入を後押しする。欧州連合(EU)の国境炭素調整措置(CBAM)は温暖化対策が十分でない国からの製品輸入に多額の関税をかける。
日本も20兆円の政府資金を呼び水に、脱炭素技術へ150兆円を投じる「グリーントランスフォーメーション(GX)」の絵を描く。次期エネルギー基本計画は産業・通商政策との連携をより密にすることが条件になる。
世界の太陽光パネル市場では中国が8割超のシェアを押さえる。風力発電機や電気自動車(EV)でも存在感を高めている。米欧との新冷戦が深まるなかで、脱炭素技術の中国への過度の依存を回避するためにも、エネルギー安保と資源外交の重要性はこれまで以上に増すと認識すべきである。
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