6700万年前、南米のパタゴニア中部に生息していたと思われる新種のティタノサウルス類の復元図。(ILLUSTRATION BY GABRIEL DÍAZ YANTÉN)

南米のパタゴニアで、新種の恐竜が見つかった。ティタノマキア・ギメネジ(Titanomachya gimenezi)という学名がつけられたこの恐竜は、長い首を持つ巨大な草食恐竜ティタノサウルスの仲間だ。ただし、この恐竜は成長しても大型のウシほどの大きさにしかならない。論文は、4月10日付けで学術誌「Historical Biology」に発表された。

新種の恐竜は、アルゼンチンにあるエジディオ・フェルグリオ古生物博物館の古生物学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるディエゴ・ポル氏の研究チームが発見した。同氏らは、南米における恐竜時代の終焉(しゅうえん)を探る研究を行っており、それが今回の発見につながった。恐竜時代の最後である白亜紀末期についての現在の知識は、ほとんどが北半球、とりわけ北米の化石から得られている。

ポル氏をはじめとする南米の古生物学者たちによって、南米大陸には未知の新種を含む重要な化石のホットスポットが点在することが示されている。隕石(いんせき)の衝突によって白亜紀が終わりを迎えたのは、約6600万年前のことだ。その数百万年前の生命の状況について、こうした南米の化石を通して理解を深められる。

新種のティタノサウルス類は、パタゴニア地方で見つかった最新の恐竜化石だ。ポル氏らは、アルゼンチンで白亜紀後期の化石を豊富に含む場所を20カ所以上見つけている。首の長い恐竜の骨の一部が見つかったのは、そのひとつであるパタゴニア中部のラ・コロニア累層だった。「今回の発見以前、この地域から竜脚類の恐竜が見つかったという記録はありませんでした」とポル氏は言う。

発見した恐竜の化石をつなぎ合わせる作業は、巨大なジグソーパズルを解くようなものだったと研究者たちは話す。

「見つかった化石はバラバラでしたが、互いにとても近い位置にありました」とポル氏は言う。

化石を持ち帰った研究チームは、それが肋骨、椎骨、手足の骨、腰の骨の一部であることを突きとめた。ティタノマキア・ギメネジという名前は、ギリシャ神話におけるオリュンポスの神々と巨神族との戦い「ティタノマキア」と、ラ・コロニア累層がある地域の恐竜を研究した初の女性古生物学者、故オルガ・ヒメネス(Olga Giménez)氏にちなんで付けられた。

今回見つかったのは部分的な骨格だけだったが、アルゼンチン、マイモニデス大学の古生物学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるパブロ・ギャリナ氏によると、ほかの恐竜とはちがう新種であることは明らかだった。

中でも最大の違いは、その小ささだ。

「竜脚類のティタノサウルス類といえば、長い首と尾を持つ巨大な恐竜を思い浮かべるはずです。特にパタゴニアでは、体重70トンにも達する最大級のティタノサウルス類が見つかっています」と、ギャリナ氏は話す。しかし、今回見つかった恐竜は、その10分の1ほどの大きさだ。なお氏は、今回の研究に関わってはいない。

ポル氏らは、手足の骨の化石の大きさから、この新種の恐竜の体重を5トンから10トンと推定している。しかし、体長は6メートルほどで、大きなウシに長い首と尾を加えたくらいにしかならない。言い換えるなら、小型のバスほどの大きさだ。

これは、ほかのティタノサウルス類に比べると小さい。最大のティタノサウルス類は体長30メートル、体重70トンを超える。6700万年前の白亜紀末期に現在のアルゼンチン周辺で生活していたなかでは、ティタノマキアはかなり小さな恐竜といえる。

なぜ小さなティタノサウルス類が登場したのか

そのころのパタゴニアは、今とはまったくちがう世界だった。ポル氏によると、白亜紀後期のこの地域には、ラグーン(潟湖)や入り江が点在していた。湿地や沼地が広がっていて、「肉を食う雄牛」という意味の名をもつカルノタウルスなど、最近明らかになりはじめた多様な恐竜たちが生活していた。

新種のティタノサウルス類が見つかったラ・コロニア累層からは、アヒルのようなくちばしを持つハドロサウルス、丈夫な鎧を着たような体のアンキロサウルスなどが見つかっている。今回の新種の恐竜は、化石の"氷山の一角"かもしれない。

ただし、この新種の恐竜がなぜここまで小さいのかについては、まだよくわかっていない。「この小ささは衝撃的です。白亜紀末のパタゴニアに生息していたほかのティタノサウルス類にも、このようなものはいません」とポル氏は言う。

現在、その理由について、いくつかの仮説が考えられている。そのひとつは、ティタノサウルス類が環境に適応した結果という説だ。

「可能性のひとつとして、大西洋が拡大し、パタゴニアの大部分を覆って陸地が狭くなったことが考えられます」とポル氏は言う。パタゴニアの陸地の半分ほどは、かつては浅い海に覆われていた。

ほかの場所でも、このような例が見られる。現在の東欧トランシルバニアにあたる場所には、白亜紀には島があったが、そこで見つかった化石から、食料が少ない狭い土地で生き残るために、竜脚類の恐竜が進化して小型化したことを示す証拠が見つかっている。

それ以外の環境変化が影響した可能性もあるかもしれない。ポル氏は、「生態系や気候が大きく変化して、ティタノサウルス類の大きさに影響を及ぼしたのかもしれません」と話している。この謎を解くため、今後もこの地域の化石の研究が行われる予定だ。

文=Riley Black/訳=鈴木和博(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年4月15日公開)

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