縁起物で再使用(リユース)、皆さんはどう考えますか――。愛媛県の道後温泉本館近くにある「円満寺」(松山市)の「お結び玉」は良縁に御利益があるとされ、奉納数は年間1万数千個に上るという。材料の一部について、寺がSDGs(持続可能な開発目標)の観点から再使用しようとしたところ、製作に携わる関係者から「縁起物なのに違和感がある」などと疑問の声が上がり、寺などは方針を撤回した。【広瀬晃子】
お結び玉(1個300円)は、旅館関係者や地元企業らでつくる「道後温泉誇れるまちづくり推進協議会」が観光振興の一環として2013年に発案。「湯玉」をイメージし、さまざまな模様の布の中に綿を入れた開運アイテムだ。協議会などから製作を任された地元の福祉事業所らが一つ一つ手作りしている。参拝者は持ち帰るか、直接願いを書き込むなどして境内に結び付ける。色とりどりでインスタ映えもするとして、若い女性らの間で人気に火が付き、参拝者は年々増加。寺は恋愛成就のパワースポットとしても知られている。
協議会によると、奉納されたお結び玉は全て寺が「お炊き上げ」をしている。寺から「中の綿を再使用したい」と協議会に相談があり、4月から再使用して製作することを会長が了承。協議会は寺から「念を抜いて使う」と説明を受けたという。一方、寺は毎日新聞の取材に「(詳細は)外部に話すことではない」とコメントした。
協議会関係者は「環境に配慮した取り組みだったため、異論が出ると思わなかった。否定的な意見が出たからには、これまで通り新しい材料で作る」と話している。協議会によると、寺は綿の再使用について、境内の飾り用のお結び玉への活用などを考えるという。
理解、でも違和感ぬぐえず
今回、疑問を呈したある福祉事業所の代表者の女性は、縁起物の一部を使い回すこと、それを公表せずに販売することが気になったと説明。施設では数人の利用者たちが、寺が用意した布や綿などの材料を使って一針ずつ手縫いしている。女性は「SDGsを否定するつもりはない。心を込めて作っているからこそ、参拝者を裏切ってしまうような気がして抵抗があった」と明かす。
記者が参拝者に取材したところ、「再使用はいいことだと思う」と肯定的な意見があった。その一方で「いろんな人の思いが残っていそうなので、新しいものを奉納したい」との声もあった。
文化庁宗務課の担当者は「(お守りや縁起物は)神様や仏様の分身だと考える人は抵抗があるかもしれない。一方で、若い世代や環境問題に関心がある人には受け入れられるのでは」と話す。道心寺(兵庫県尼崎市)の住職で落語家の露(つゆ)の団姫(まるこ)さん(37)は、ものを大切にすることも、祈る心を大切にすることも、人として自然で尊い感情だと指摘。「価値観の違いを認め合い、丁寧に説明することが解決の糸口だと思う」と話している。
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