文部科学省は15日、米国で新しく始まる大型加速器の建設計画に日本が参加する方針を明らかにした。加速した粒子同士をぶつけて観測する大型加速器は物質やエネルギーの最小単位である「素粒子」の研究に欠かせない。日本の先端技術を生かして質量の起源を探る国際研究に貢献する。
15日に開いた有識者会議で参加に向けた議論を始めた。7月までに中間報告をとりまとめて参加に向けた方針を決める。国内の原子核研究の体制強化や人材育成にも取り組む。
日本が参加するのは米エネルギー省傘下のブルックヘブン国立研究所(BNL、ニューヨーク州)内に建設が計画されている円形加速器「EIC」で、周長は約3.8キロメートルある。現行の加速器「RHIC」を改良する。2026年に着工し、32年の稼働を目指している。
EICの建設費は現時点で17〜28億ドルになる見込み。日本は実験データの測定に使う検出器などの開発を担当するという。日本の負担分は少なくとも45億円程度になるとみられる。
EICでは加速させた電子と原子の中心にある原子核などを衝突させる。原子核には陽子などの粒子が含まれており、分裂して飛び出す。その素粒子の種類や飛び方を詳細に観察することで、未知の物理法則を探索する。
12年に物質に質量を与える「ヒッグス粒子」が発見されて、宇宙の成り立ちや物質の正体を説明する物理学の「標準理論」で予測された17種類すべてが実際に確認された。
ただ、ヒッグス粒子が直接関わって生まれる質量はほんの一部で、大部分の質量の起源は分かっていない。EICを使う実験で質量が生まれる仕組みが明らかになる可能性がある。
産業応用も期待されている。素粒子などミクロな世界を制御する「量子力学」の理解は、量子コンピューターなどの量子技術の応用にも役立つ。また原子核の物理現象を詳細に解明すれば、核融合発電を安定して制御する技術などの開発につながる可能性がある。
加速器を使った実験は世界中で進んでいる。高エネルギー加速器研究機構にあるSuperKEKB(スーパーKEKB、茨城県つくば市)は周長約3キロメートルと国内最大で、19年から本格運転を開始した。電子とその反物質である「陽電子」を衝突させて未知の物理現象や素粒子を探している。
世界最大の円形加速器は欧州合同原子核研究機関(CERN)の「LHC」で、周長は27キロメートルある。陽子同士を衝突させて発生する物質を調べる。12年にヒッグス粒子を発見するなど、大きな成果を上げている。
素粒子研究は実験装置の大規模化が進んでおり、設備の建設費が重荷となっている。日本で建設が計画されている「国際リニアコライダー(ILC)」という線形加速器は、建設費が全体で8000億円になるとされる。30年代の稼働を目指していたが、計画は足踏みしている。またCERNが建設を目指す円形加速器は周長が約100キロメートルで、建設費は総額で170億ドルになるという。
そのため大規模な実験施設の建設は、一国だけでなく国際協力で進められるようになってきた。日本の持つ技術力は緻密な制御が要求される加速器には欠かせず、基礎研究の最前線に日本が立ち続けるためにも技術力を磨き続ける必要がある。
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