ついにポルシェ911にもハイブリッドが搭載されることになった。水平対向6気筒エンジンに、初めて電気モーターを組み合わされた、911史上初のハイブリッドである。はたしてその中身はいかなるものなのか? ポルシェファンにとって招かざる客なのか?

文:ベストカーWeb編集部/写真:ポルシェジャパン

■ついに911にもハイブリッドが装着された!

911初のハイブリッドシステムが搭載されたカレラGTS

 ポルシェは、5月28日、992型911の大幅改良を行った。内外装のデザイン変更、装備の充実化が図られたが、最大のトピックスは「T-ハイブリッドシステム」と呼ばれる、ハイブリッドシステムを911史上初めて搭載したことだ。

 ついに911にもハイブリッドが搭載したのか、と嫌悪感を示す人もいるだろうが、筆者はむしろ遅きに失した感さえも感じている。マラネッロの雄、フェラーリはSF90やF8トリブート、そして2021年6月には663ps/740Nmの3L、V6ツインターボに、167ps/315Nmの駆動用モーターをミドにマウントしたPHEV、296GTBを登場させていたからだ。

 911GTSに搭載されるT-ハイブリッドシステムの心臓部は従来から0.6L排気量アップした3.6L、水平対向6気筒エンジンで、電動アシストなしでも485ps/570Nmを発生する。

システム最大出力は541ps/610NmとなるT-ハイブリッドシステム

 これに新開発の電動ターボチャージャーが搭載され、コンプレッサーとタービンホイールの間に組みこまれた電気モーターが瞬時に作動することにより、即座にブースト圧を上昇させる。

 ターボチャージャーの電気モーターはジェネレーターとしても機能し、最大15psの電力を発生させる。これに8速PDKに組み込まれた54psを発生する永久磁石同期モーターを組み合わせると、システム最大出力は541ps/610Nmとなる。先代の3Lターボから実に61psアップとなる。0~100km/h加速は3.0秒、最高速度は312km/h。

 駆動用バッテリーは軽量リチウムイオンバッテリーが搭載され、1.9kWh、400Vを確保しながら、重量とサイズは従来の12Vスターターバッテリーと同等に抑えられている。

 エアコンコンプレッサーが電動で駆動できるようになり、ベルトドライブが不要になったため、エンジンが大幅にコンパクト化されたことにより、車両重量は先代モデルから50kg増の1595㎏にとどまっている。そのうち27kgはバッテリーなので、かなり頑張ったといえる。

911カレラシリーズには新開発の3L水平対向6気筒ターボを搭載。純ガソリンエンジン車がまだあると安堵した人も多いはず

 一方、911カレラにはハイブリッドは搭載されないが、全面的に刷新された3L、水平対向6気筒ターボエンジンが搭載される。インタークーラーはエンジン上部のリアリッドグリルの真下に配置され、従来のGTS専用だったターボチャージャーを移植。これらの改良により、394ps/450Nmを発生し、0~100㎞/h加速タイムは先代から0.1秒アップした4.1秒(スポーツクロノパッケージ仕様車は3.9秒)、最高速度は先代から1km/hアップした294km/h。

 足回りも見直され、高速走行時の安定性が向上し、回転半径が小さくなるリアアクスルステアリングが標準装備となった。

 またポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)アンチロール安定化システムをパフォーマンスハイブリッドの高電圧システムに統合これにより、電気油圧制御システムの使用が可能になり、システムの柔軟性と精度がさらに高まった。可変ダンパーシステム(PASM)を備えたスポーツサスペンションと、10mm下げた車高が、GTSの走りを特徴づけたものとしている。

 新型911のホイールは、計7つの19/20インチまたは20/21インチのホイールデザインが用意されている。911カレラに初めて採用されたエクスクルーシブデザインのホイールは、空気抵抗係数を低減し、効率を高めるカーボンブレードを備えている。

 911カレラGTSは、幅11.5インチの21インチホイールと315/30 ZR 21タイヤをリアに標準装備。フロントには245/35 ZR 20タイヤを8.5J×20インチホイールに装着。性能の大幅な向上に伴い、リアタイヤの接地面積を広げたことで911カレラGTSのドライビングダイナミクスとトラクションが向上した。

■変わっていないようで変わっているエクステリアデザイン

5つの縦型エアフラップは開閉する

 エクステリアデザインは、4灯のグラフィックを備えたマトリックスLEDヘッドライトにすべてのライト機能を統合したため、大型の冷却ベントを設けた。

 GTSモデルのフロントエンドには、5つの縦型アクティブエアフラップと、アンダーボディに取り付けられたアダプティブフロントディフューザーが装着され、必要に応じて空気の流れを制御するという。

カレラGTSのリア回り

 必要なパワーが最小限の場合、フラップを閉め、サーキット走行などスポーツ走行する場合には、フラップを開けて大量の空気をラジエターに送る。オプションとして、3万2000以上の光点を備えたHDマトリックスLED機能を装備する新しいヘッドライトが用意されている。

 GTSとカレラの写真を見比べてほしい。カレラはフロントエアインテーク左右のルーバーは水平ルーバーで、GTSはエアフラップが開いた写真と閉じた写真があるので見比べてほしい。

カレラはGTSとは違い水平基調のエアベント

 リア回りでは「PORSCHE」ロゴを統合したライトストリップのデザインは、911のリアエンドをより深く、よりワイドに見せている。再設計された各サイド5枚のフィンを備えたリアグリルは、リアウインドウに接続し、下の格納式スポイラーに溶け込むグラフィックユニットを形成している。

 また、ナンバープレートの位置を高めに設定し、すっきりとした構造のリアバンパーを採用。専用のエグゾーストシステムは、目立つディフューザーフィンにエレガントに組み込まれている。

 911カレラには、オプションでスポーツエグゾーストシステムが用意され、911カレラGTSには、GTS専用のスポーツエキゾーストシステムを標準装備。

911カレラのリア回り

■フルデジタルメーターとプッシュスタートは911初装備

フルデジタルのメーターとプッシュ式エンジンスターターを装備したコクピット

 クーペモデルでは、インテリアを2シーターとして標準設計(追加料金なしで2+2シートも選べる)され、今回初めて、フルデジタルのメーターパネルが装備された。12.6インチの曲面ディスプレイや、レブカウンターを中央に配した伝統的なポルシェの5連メーターにインスパイアされた独自のクラシックディスプレイを含む、最大7種類の表示が可能となっている。また911として初となるスターターボタンがステアリング左側に装着された。

 新しいコネクティビティ機能も装備されており、Apple CarPlayは必要に応じてメーターパネル内に情報を表示し、さまざまな車両機能を直接操作することができる。また今回初めて、駐車中のビデオストリーミングもオプションで利用できるようになった。

 マイナーチェンジ後の911GTS、911カレラは5月29日より予約受注を開始し、価格は911カレラが1694万円、911カレラカブリオレが1943万円、911カレラGTSが2254万円、911カレラGTSカブリオレが2503万円、911カレラ4 GTSが2365万円、911タルガ4 GTSが2615万円、911カレラ4 GTSカブリオレが2614万円。

■今後の展開はどうなる? EV化はいつ?

ボディサイドにはt-hybridのエンブレムが

 今回耐久レースなどで培った技術、ウエストゲートのないボルグワーナー製電動ターボチャージャーを採用したわけだが、このボルグワーナーの電動ターボは2019年に発表されたeターボの流れを汲むものだ。ボルグワーナーといえば、もとはといえばKKKで930ターボのターボチャージャーもKKK製だ。

 最近では、997型ポルシェ911ターボで初めて採用され、それ以降の911ターボおよびGT2系のターボモデルに搭載されている、ガソリンエンジン用VTG(可変タービンジオメトリー)を思い出す。

 さて、ハイブリッドを搭載したことで、911らしさは失われるのか? おそらく答えはNOだ。997時代の直噴化、2015年9月に全車ターボ化(GT3、GT3RSを除く)された時も、がっかりしなかったからだ。

 特に3.4Lのカレラ/カレラ4(350ps→370ps)、3.8LのカレラS/4S(400ps→420ps)が2015年8月にマイナーチェンジし、いわゆる991.2型となった時も、3Lツインターボ化による、ターボ感は、ターボ付きであることを忘れさせるほどで、アクセルペダルに対する反応はリニアで、サウンドも回転フィールも自然だった。

 水冷エンジン搭載以降では、991型のMT、つまりNAの3.4L水平対向6気筒、7速MTが911らしさがあるように思う。空冷993をコットンのTシャツと例えるなら、991のMTは鹿の子ポロといった感じで、992に感じられる革ジャンを羽織っているようなガッチリ感はかろうじて感じない。そんななかにあって、車重が1480㎏という現行992型のカレラTに試乗した時も、911らしさを感じたものだ。

 昨今の電動化時代に対応するポルシェの答えは、現行992型の後期モデルで、GTSモデルにハイブリッドを与え、カレラシリーズには新開発の3Lターボで環境性能に対応。

 何度も言うが、やはりハイブリッド化しても軽さにこだわるのはさすがだ。先代GTSよりも50kg増(1595㎏)に抑えたのは嬉しい。

 今回のハイブリッドのGTSは、3Lツインターボのハイブリッドは、システム最大出力541ps/610Nmと、61psも向上し、0→100km/hは3.0秒と、マイナーチェンジ前のGTSよりも0.4秒速く、現行GT3RSよりも0.2秒も速いのだからおそれいる。

 おそらく今後、カレラS/カレラ4S、タルガ/タルガ4、カブリオレのほか、ターボ、NAのGT3/GT3RSの改良版が登場してくるだろう。GT3は現在、510psを発生する4L水平対向6気筒のNA、GT3RSは525psだが、新型GT3はNAを維持しつつ、ハイブリッドを装着してくるのか見もの。

 GT2、GT2RSに関してはおそらく今回のツインターボ+ハイブリッドになるのは確実。700psを超えてくるのは間違いないところだろう。

 992型は2018年のデビューだから、次のニューモデルは、おそらく登場8年後の2026年。そしてあまり来てほしくないBEV化は、一部を残してその2026年に登場することになるだろう。

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