増え続ける先進運転支援システム(ADSA)搭載車の作動に関わる、カメラやセンサーなどの電子制御装置が搭載されたクルマのフロントガラスやバンパー・グリルの脱着作業は「電子制御装置整備」と規定され、本年4月から特定整備制度が本格運用となった。
ところが、全国に約92,000件ある自動車整備事業場のうち、電子制御装置整備の認証取得累計件数は58,523件(2024年4月時点)と国土交通省は発表。未取得の理由で最も多いのは「対象作業を行わない」で、「認証要件を満たせない(設備)」「古年式車両の修理が多い」などを理由にあげる整備事業者もいるようだ。
カーディテイリング事業者として「特定整備認証」を取得した理由
そういった状況の中、カーコーティング専門店の株式会社アペックス(栃木県宇都宮市・郡司公生代表取締役)が、今年4月に特定整備認証を取得した。
整備事業者ではなく、設備投資も必要な特定整備認証を、なぜ取得したのか。
「昨今の自動車販売店の不祥事をきっかけに、カーコーティング施工を行うカーディテイリング事業者に対しても不信や疑いの目が向けられていることを感じています。
これまで当社は、お客様が愛車と共に歩まれる人生に“輝き”をプラスするお手伝いをしたい想いで一台一台のおクルマを心で磨いてきましたが、外装や内装の美しさだけでなく、安全・安心を提供する使命があると強く思い、特定整備認証を取得しました。
当社のメイン事業はカーコーティング施工であり、整備事業者ではないため特定整備認証取得は必須ではありません。バンパーやグリルの脱着も行っていませんが、ウィンドウフィルム施工時にフロントガラスを脱着したり、フロントガラスのひび割れ補修作業を自社で行ったり外部委託するケースもあるため、それらは電子制御装置整備作業にあたります。
国が認める特定整備認証を取得して、カーディテイリングサービス施工による影響がないことを判断できる専用機器を導入し、お客様にわかりやすく説明する責任を果たしたいと思いました。
同時に、当社スタッフたちが正当な作業を行っていることを証明し、カーディテイリング事業に従事したい若手が安心して働ける環境を整えたい思いもありました」と、郡司社長は取得理由を語った。
カーディテイリングと整備・修理を熟知する存在の後押し
取得の意思は固まったが、認証取得方法がいまいち不明。取得後カーディテイリング事業者として何を行うのが最適で、顧客対応フローはどうするのか…。迷いや不安があった郡司社長が頼りにしたのは、株式会社ジェイシーレゾナンス代表取締役の松永博司氏だった。
松永氏は、カーディテイリングサービスの普及と健全な発展に寄与する目的で1996年に創刊された『カーディテイリングニュース』初代編集長であり、目まぐるしいスピードで進化し続ける自動車アフターマーケット業界の最新情報に精通している。
郡司社長は松永氏から、カーディテイリング事業者として特定整備認証取得の必要性や、一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会(日整連)が提供する整備情報提供システム『FAINES』閲覧の重要性などを詳しく聞いたことで、コンプライアンス遵守への意識が高まり、取得の後押しになったという。
「例えば、レクサスLSのAdvanced Drive装着車でLiDARセンサー表面への撥水コーティング剤塗布禁止という情報をメーカーが発信しているのですが、日整連に入会し、FAINES会員にならなければ閲覧できません。カーコーティングがメイン事業である当社が、そういった情報を知らずにお客様のおクルマを作業するのは許されないことです。
こういった情報についてアドバイス頂いた松永氏は、カーディテイリング事業者の実情をわかったうえで28年も前から様々な注意喚起を行われており、整備や修理業界にも詳しい方を私は他に知りません。自社の今後の体制についても現実的な目線で意見を頂けるのでとても心強い存在です」と郡司社長は話していた。
2級自動車整備士資格を持つスタッフの活躍
特定整備認証を取得するには、1級または2級自動車整備士、車体整備士、電気装置整備士のいずれか1名以上が在籍している必要がある。カーディテイリング専門店は整備作業が必須ではないため、この時点で取得を断念するケースが多いと思うが、幸いにもアペックスには2級自動車整備士資格保持者が2名在籍していた。
郡司社長は、栃木県自動車整備振興会に認証取得希望を伝えたところ、同振興会担当者が自社の施工作業場を視察。電子制御装置点検整備作業場の基準を満たす環境だと認められたあと自社スタッフ1名が同振興会の講習に参加。3月に認証資格試験を受け無事合格し、4月にはオレンジ色の認証プレートが届いた。
認証資格試験に臨んだ鈴木氏は、栃木県自動車整備振興会からの情報だけでなく、特定整備認証取得に必要な知識は、動画配信プラットフォームに公開されているわかりやすい動画を視聴するなどして知識を深めたという。
特定整備認証資格を生かした今後の取り組み
アペックスの独自性のひとつに、入庫時に顧客の要望をヒアリングしてボディ塗装面の状況をチェックし、顧客が納得した上で施工(治療)する「ドクター的手法」がある。特定整備認証を取得した今後は、外装だけでなく内部の診断も行う体制を準備中だ。
入出庫時に車両の内部(ECU)をスキャンツールで診断し、顧客に診断結果を説明する運用フローを予定。エラーコードを検知した場合、すぐに顧客へ報告し自社で解決できないときはディーラーや整備工場、部品商といった地域のパートナーと連携して対応する考えだ。
10月から開始されるOBD検査時に、自社で施工した顧客が困惑するような事態を避けるためにも、顧客対応フローの構築や連携パートナー探し、コンプライアンス遵守の対応強化などを目的に、アペックスでは有償サービス「ARCネットワークサービス」(ジェイシーレゾナンス)の利用を開始したという。
なお同サービスを、株式会社カービューティープロ(東京都世田谷区・古賀大介代表取締役)も利用中。ARC研修を受講して法令遵守のフロント対応を学び、特定整備認証取得に向けて準備を進めているという。
特定整備認証を取得しているカーディテイリング事業者は全国にごくわずか。1級や2級自動車整備士が在籍していないため、特定整備認証を取得できないと考えるカーディテイリング事業者は、特定整備認証を取得している地域の事業者と連携する方法があるのではないだろうか。
ADAS搭載車のバンパー・グリルの脱着を行わないことで、作業効率や施工の質が低下するケースもありえる。特定整備認証取得という投資をサービス価格に転嫁したら顧客離れにつながると心配する経営者もいるかもしれない。
カーオーナーの立場で考えると、コンプライアンス遵守で安全・安心な質の高い高付加価値なサービスを提供し、きちんと説明してくれるプロショップに大切な愛車を預けたいと考えるのが自然だろう。アペックスやカービューティープロのように、認証取得を活かして顧客のために真剣に取り組むカーディテイリング事業者が増えていくことを願う。
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