これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、現在では抜け番号となっている「7」を名前に持つSUV、CX-7を取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/マツダ
■SUVクラスにかつてない価値を創造
先見の明があることにかけては、国産メーカー屈指と言えるのがマツダだ。古くは、3ローターエンジンを量産車として世界初搭載し、「史上最高のロータリー車」と称されたユーノスコスモの存在がある。
近年では、日常の手軽なアシだった小型車を、乗り心地や静粛性などにこだわって「ワンランク上の上質」なクルマに仕立てたベリーサ。そして、「新しいカテゴリーの多目的高級サルーン」を謳い、国産Lサイズミニバンのパイオニア的存在となったMPVなど、マツダは時代を先取りした名車の数々を世に輩出してきた。
今回クローズアップするCX-7もそのようなクルマのひとつで、「CX」のネーミングを冠した最初のマツダ車として、クロスオーバーSUVを世間に広く知らしめた存在でもある。
SUVが市場投入された初期の頃は、オフロード走破性に優れた角張ったデザインのクルマが主流だった。しかしCX-7が発売された2000年代には、より乗用車的なスタイリッシュなデザインのクロスオーバーSUVが数多く登場し、需要はそちらへとシフトしていた。
トヨタ ハリアーや日産ムラーノといった高級車との融合を果たしたプレミアムSUVの登場も、こうしたトレンドの現れと言えるだろう。もちろん、ユーザーがこうした新しいタイプのSUVを求めていたことがクロスオーバーSUVのさらなる活性化をもたらし、現在のような一大勢力へと成長したわけだ。
そんなクラスの活性化に拍車をかけたのがSUVとスポーツカーのふたつの価値を併せ持つ「スポーツクロスオーバーSUV」という新しい価値を提案したCX-7だった。
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■スポーツカーに通じる躍動的なスタイルで注目を集める
マツダがCX-7の開発で目指したのは、SUVの価値とスポーツカーの価値を融合させることで、当時マツダが提唱していた「Zoom-Zoom」なSUVを作り上げることだった。ちなみに、Zoom-Zoomとは「子どもの時に感じた、動くことへの感動」を愛し続ける全世界の人たちと、走る歓びを分かち合うための合言葉というものだ。
そんなZoom-ZoomなSUVを体現するために、「デザイン」と「ダイナミックパフォーマンス」のふたつをキーバリューとして掲げた。
デザインコンセプトは「新しいジャンルを切り拓く」という意味を持つ、「アドバンスト・フロンティア」とした。SUVとスポーツカーの融合という、当時としては新しい試みをスタイルで見せるために、マツダのスポーツカーが持つスムーズでスピード感に溢れるイメージと、SUVの持つ力強さや実用性を兼ね備えたスタイルに仕上げられた。
フロントまわりは、Aピラーからボンネットのエッジを経由してフロントノーズの先端に続くシャープなキャラクターラインや、ファイブポイントをイメージした大きなロアグリル。そしてボンネットから独立するよう張り出しを強めたフロントフェンダーの造形でマツダ車らしさを表現。大きく寝かせたフロントウインドウが印象的なボディサイドと相まって、SUVならではの力強さと躍動感が際立っている。
車内もスポーティなムード満点だ。シリンダータイプのスピードメーターを中央に配したブラックアウトメーターや、スポークベゼルを持つ本革巻きの3本スポークステアリングはいかにもスポーツカー的だ。
スポーツカー的なのは見た目だけでなく、6速ATのシフトノブは操作しやすい配置とし、さらにシートはドライバーの身体を包みこんで適切にフィットするバケットタイプとするなど、運転を楽しむためのこだわりを感じさせるところもスポーツクロスオーバーSUVに相応しい特徴と言っていい。
■ドライバーが思いのままに操れる爽快なドライビングを実現
それまでのSUVの概念を覆すエキサイティングな運転感覚の実現が、もうひとつのキーバリューであるダイナミックパフォーマンスにつながる要素だ。
エンジンは、直噴システムとターボチャージャーを組み合わせたMZR2.3Lを搭載。現在でこそ直噴エンジンは珍しいものではないが、当時としては燃料を筒内に直接噴射して筒内温度の上昇を抑制し、9.51という高圧縮比を可能にしたマツダの技術は、CX-7よりも先にマツダスピードアテンザやMPV、マツダスピードアクセラで採用され、大いに注目を集めた。
MZR2.3L DISIターボエンジンは、2000rpm以下の低回転域からターボの過給効果が得られる特性によって、アクセルの踏み込みに素早く反応するとともに、最高出力238PSというパワフルな動力性能によって既存のSUVと一線を画す圧倒的な加速性能を発揮。スポーティな走りを存分に楽しめるのはもちろん、日常的な場面ではゆとりを持って運転できる扱いやすさも持ち味としていた。
SUVながら爽快な操縦性が味わえたのも、スポーツクロスオーバーならではの特徴だ。特にステアリングの操作に対して安定性を維持しながら、正確に素早く応答するクルマの動きはSUVらしからぬもので、他のマツダ車に通じる走りのよさを体現していた。
乗り心地についても従来のSUVからは想像できない高いレベルに達している。不快な突き上げ感が抑えられており、凹凸を乗り越えたあとに生じる揺れが一度ですっと収束する。スポーティ一辺倒ではなく、質感の高さへのこだわりが、市街地からロングドライブまで疲れにくい上質な乗り心地の両立を可能にしている。
今でこそ、欧州車を中心にクーペスタイルのSUVが増えているが、CX-7はいちはやくそのカタチを具現化していた。デザイン、パフォーマンスなどあらゆる領域で常識の枠にとらわれることなくチャレンジした開発陣のこだわりは、あらゆる領域においてZoom-ZoomなSUVに相応しいスピード感、力強さ、しなやかさを感じさせてくれた。
CXシリーズのトップバッターが具現化したスポーツクロスオーバーSUVのパフォーマンスやユーザーに提供した価値は、現在のCXシリーズにも息づいている。現在、マツダ製SUVであることを表す「CX」で欠番となっているが、クロスオーバーSUVが市民権を得た今こそ、新しい姿での復活を望みたい1台だ。
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