二種免許を持たないドライバーが、自家用車を使い有償で顧客を運ぶ「日本版ライドシェア」が、2024年4月から、東京や神奈川、愛知、京都でスタート。5月には、北海道や大阪、京都でも開始されました。

 国土交通省によると、4月8日から5月5日までの東京などの5地域での運行回数の合計は1万2628回。当初政府は2024年6月をめどにアプリ事業者などの新規参入を含む全面解禁について結論を出す予定だとしていましたが、2024年5月30日、6月以降も法整備の検討を継続するとし、結論は先送りとなりました。

 斉藤鉄夫国土交通大臣は「担い手や移動の足不足の対策として、一定の効果が発揮されつつあるのではないかと認識している」としていますが、今回の条件付きライドシェア解禁については、見切り発車で始まった部分もあり、課題が多いのも事実。はたして、「移動の自由」と「安全」は両立できるのか、ライドシェアの今後について考えてみました。

文:エムスリープロダクション/アイキャッチ画像:Adobe Stock_terovesalainen/写真:Adobe Stock、写真AC

実際に利用した人の評価はまずまず

 2024年5月21日に行われた、政府の規制改革推進会議の作業部会で国交省が示した資料によると、自家用車活用事業における1台1時間あたりの運行回数は、タクシーが約0.7回であるのに対し、東京では約1.3回、神奈川では約0.7回、愛知(名古屋)では約1.2回、京都(京都市域)では約1.0回、軽井沢では約1.0回だったとのこと。運行回数的には、タクシーと同等かそれ以上とはなっていますが、タクシー会社による配車の状況で変わってくることも考えられ、なにを「効果」とするかで、評価はわかれるような気もします。

 ただ、5月15日の同作業部会でモビリティプラットフォーム事業者協議会が示した調査結果によると、4月の事業開始後、ライドシェアを利用したことがある人にリピートしたかを聞いたところ、84.3%が利用したと回答し、また、ライドシェアを利用した際の満足度についても、「満足」と「やや満足」の合計では82.4%にも達するなど、まだ議論すべき課題はあるものの、ライドシェアが社会に受け入れられる可能性はあるようです。

日本版ライドシェアを利用した人の評価は、「満足」と「やや満足」の合計が82.4%とまずまず(PHOTO:Adobe Stock_Gatot)

全面解禁にむけては、安全確保のためのデジタル化が必須

 5月15日の作業部会で政府は、ライドシェアにかかる法制度に関する論点整理(たたき台)を示しました。その内容は、1.ドライバー・乗客の安全確保、2.事故時の責任体制の確保、3.ドライバーの働き方の柔軟性、適正な処遇の確保、4.全国展開(ライドシェアの事業性の確保)の大きく4つ。どれも重要なことではありますが、利用するうえでは、やはりドライバー・乗客の安全の確保は気になるところです。

 現在、事業開始となった自家用車活用事業においては、安全運転管理者がドライバーと実際に対面し、酒気帯びの有無や、過労や病気などで正常な運転をすることができないおそれがないか、また自動車の点検は実施されたかや、安全な運転を確保するための必要な指示を行う必要があります(酒気帯びについては、遠隔実施、業務委託等が可能とされていますが、その他は明確化されていない)が、政府は、ライドシェアの本格導入にあたってはこれをデジタル化することを目指しています。

 このように運行管理がデジタル化されることで、運行前のドライバー・車両整備状況の確認はもちろんのこと、運行中も車内ドライブレコーダーによる記録やSOS機能の搭載などで安全の確保がしやすくなるほか、万が一の際のスムーズな対応に繋がります。運行後もドライバー・乗客の相互評価機能を搭載することで、サービスの質を保つことができ、危険行為が認められた場合には登録解除するなど、一連のシステムのなかで管理することが可能だと思われます。使用する自家用車についても、自動ブレーキなどの安全装備の搭載を必須とするなどし、その管理もデジタル化の中で行うことができるでしょう。

 こうしたデジタル化なくしては、二種免許をもたない一般ドライバーが自家用車を使用して有償で顧客を運ぶサービスにおいて、ドライバー・乗客の安全確保は難しいと考えられます。実際に海外では、ライドシェアが禁止になった事例もあり、安全に関してはしっかりとした制度構築が必要。ただ、ライドシェアの全国展開を待つ地方の切実な声に対応するため、早急な取り組みも必要です。

全面解禁にむけては、安全確保のためのデジタル化が必須(PHOTO:Adobe Stock_ Adam)

ダイナミックプライシングの設定が可能であることや、タクシーとの共存も必要

 また、利用者側からみれば、柔軟なダイナミックプライシング(変動料金制)の設定が可能であってほしいと思います。現状の制度では、利用する側からみれば、タクシーではなくライドシェアを選ぶ理由がありません。多くのアプリでは、ライドシェアを含む・含まないが選べるだけで、タクシーかライドシェアかを選べるわけではないようですが、利用者側からみて、単純に「乗せてくれるクルマが増える」というだけのライドシェアではなく、もっと利用しやすいサービスとなってくれることを期待したいです。

 ただ、ライドシェアが拡大しすぎてタクシーが淘汰されていってしまうことは、望まない結果であるはずです。二種免許をもった旅客運送のプロはやはり必要な存在であり、利用する側がタクシーかライドシェアかを選ぶことができるようなかたちが理想ではないでしょうか。そのためには、乗車したいとする人の引き受け義務など、タクシーに課せられている規制の緩和やドライバーの待遇改善などについても踏み込んでいくべきだと考えます。

 また、路線バスの廃止が相次ぎ、移動の足の確保がより深刻な地方では、その地方にあった制度が導入されることを期待したいです。国全体としては最低限のルールづくりにとどめ、地方自治体がそれぞれの地域に合った運用ができる制度を導入することは、自治体同士の事例比較によって、より理想に近い旅客運送サービスに近づいていくような気がします。

やはり柔軟なダイナミックプライシングの設定が可能であってほしいと思うが、同時にタクシーと共存についても可能な制度となるようにしてほしい(PHOTO:Adobe Stock_Metro Hopper)
路線バスの廃止が相次ぎ、移動の足の確保がより深刻な地方では、その地方にあった制度が導入されることを期待したい(PHOTO:写真AC_はむぱん)

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 全面解禁ついての結論は先送りとなりましたが、「岩盤規制」といわれていたライドシェアの規制が(今回は条件付きではあるものの)許可され、事故の際の責任の所在や白タク排除などの課題はあるものの、実際に事業が始まったことはよかったと思います。安心して移動ができるサービス構築に向けた丁寧な検証と議論を期待したいです。

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