1990年に登場した初代エスティマ。天才タマゴと言われるパッケージングやデザインは秀逸であるが、エスティマの凄いところはこんなもんじゃない! その工夫は細部にわたり、今でも十二分に通用する実力をもつ。エスティマの細かなこだわりを見ていくと、エスティマがただの天才ではないことが分かったぞ。
文:佐々木 亘/写真:TOYOTA ほか
■商用バンの乗用車仕様じゃない! 運転席の位置が純乗用車の証
初代から最終型まで、エスティマ最大の特徴は「優れたドライバーズシート」にある。
1990年当時、多人数乗車ができるクルマは、商用バンを起源にしているものが多かった。トヨタではタウンエースがいい例だ。キャブオーバーでタイヤの上にドアや運転席がある。これが、日本における一般的な多人数乗車できるクルマのカタチだった。
この当たり前を大きく覆したのがエスティマである。エンジンこそミッドシップレイアウトだが、運転席のドアはフロントタイヤの後ろに置かれ、シートポジションも低い。よじ登ることなくクルマに乗れるというのは、新しい感覚であった。
ペダル位置やステアリングの取付角度などを、セダン寄りに作り上げ、あくまでも乗用車であることにこだわっている。計器類も最適な運転姿勢を確保するように、隅々まで工夫されたエスティマは、数値で表現される性能だけでは計れない、高い実力を持っているのだ。
■フロアが最近のクルマよりもフラットすぎる!
初代エスティマがこだわったのが「ウォークスルー」の実現。そのため、シフトレバーはコラム式になり、パーキングブレーキはレバー式にもかかわらず、運転席の右側に置かれた。一般的には左手で引き上げるサイドブレーキレバーを、あえて運転席ドア側にして実現したウォークスルーエリアには、障害物が全くない。
さらに車内を歩きやすくするため、フロアのフラット化には心血を注いだ。室内設計に基本段階から配慮したことがうかがえる。
2×2×3の7人乗りであるエスティマは、2列目までがキャプテンシート。運転席から3列目まで、何も気にせず歩いていける計算し尽くされたスペース設計が凄い。
また、現在のキャプテンシートミニバンのように、2列目シートに前後スライド機構などは備わっていないのだが、それが余計にフロアカーペットを綺麗に仕上げている。スライド用のレールが無いものだから、床一面が途切れることなくカーペット敷きだ。
見方によっては、こちらの方が一体感があり、広く優雅に見えてくる。
■回転シートに防汚シートって! まさに気分はファーストクラス?
最後に、エスティマの洗練された座席の工夫を2つ紹介しよう。
1つ目は、180度回転する2列目シートだ。2列目シートがぐるりと回り、3列目シートと対面する。30系の一部グレードにも2列目回転シートが用意されていた。エスティマと言えばコレと言える装備だ。
実際に後ろを向いた状態で走行するのはお勧めしないが、車内での小休止時は良い雰囲気を作り出す。混み合った高速道路SAのレストランではなく、お弁当を持ってきて、家族4人が向かい合って車内で食事するにはもってこいだ。
シートが汚れるから車内での飲食は嫌という方もご安心を。エスティマの高級フルファブリックシートでは、フッ素樹脂加工を施したシート表皮を使用していた。飲み物をこぼしても簡単に拭き取れるし、汚れも残りにくい。完全防汚ではないが、この時代のシートとしては画期的な付加価値だ。
天才エスティマは、突然変異的ではなく、地道な積み重ねで作り上げられた。努力の結果生み出された天才なのだ。天才タマゴは、細部にまで宿る技術者の熱い魂が生み出した、努力の産物なのである。
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