発進、変速、停止などでクラッチレバーの操作が一切不要な世界初の新機構「ホンダE-クラッチ」。2024年6月13日に発売される新型のCB650RとCBR650Rに採用することで大きな話題となっていますが、そもそも、なぜこれら2機種に搭載されるのでしょうか? 
また、ホンダは、今後、他車種にもE-クラッチの導入を検討中といいますが、将来的に、どんなモデルに装着されそうなのでしょうか? ホンダモーターサイクルジャパン主催の報道向け試乗会で、開発者に直撃インタビューしてみました。

  文/平塚直樹 Webikeプラス  

ホンダE-クラッチの「これから」を開発者に直撃!

 MT(マニュアル・トランスミッション)車ながら、スタートから加速、停止まで、クラッチレバーを一切使わずに走行可能。しかも、クラッチレバーを使った走りも選べることで、初心者からベテランまで、幅広いライダーによりスポーティで、楽しいライディング体験を提供するというのが、ホンダE-クラッチです。

 

 

 実際に、筆者も、今回実際された試乗会でその乗り味を体感。発進は、手動でクラッチ操作を行うよりもスムーズでしたし、シフトアップとシフトダウンの両方に対応するクイックシフターのような使い方もできることで、より素早い変速操作が可能でした。

 また、例えば、コーナリング中にシフトダウンするようなシーンでも、変速ショックがほぼなく、とっても車体が安定。まるで、自分のライディングスキルが、いきなりアップしたかのような感覚さえ覚えたほどです(*詳細は別記事を参照)。

 そんな革新的新機構のホンダE-クラッチですが、2020年式CBR650R(初期型)のオーナーである筆者としては、なぜCBR650Rや、その兄弟車CB650Rの新型に採用されたのかが気になるところです。

 

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 初期型CBR650Rは、コンパクトな車体による軽快な走りはもちろん、最高出力95PSという必要十分なパワーなどにより、扱いやすさもピカイチ。

 それに、ホンダE-クラッチが搭載されれば、クラッチレバー操作が不要なため、例えば、ロングツーリングなどでの疲労軽減などにも役立ちます。でも、ツーリングなどでの快適性を追求するのであれば、ツアラーモデルなどに採用するといった選択肢もあったはずです。

 

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CB650RとCBR650Rに採用されたワケ

 大型モーターサイクルカテゴリーのゼネラルマネージャーを担当する坂本順一氏によれば、いずれも、「ホンダを代表するオンロードモデルで、常に高性能を提供してきた長い歴史を持つCBシリーズやCBRシリーズに属するモデル」であることがポイントだったといいます。

 

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 1959年発売の「ベンリィCB92スーパースポーツ」から始まり、2輪車レース最高峰のWGP(現MotoGPの前身)などで培った技術力を活かし、常に時代の最先端技術を投入してきたのがCBシリーズです。

 1969年には、直列4気筒エンジンを持つ世界初の量産二輪車「ドリームCB750フォア」を発売。その後も、1979年発売の「CB750F/900F(輸出車)」など、数多くの名車を輩出し、今では、ホンダを代表するスポーツバイクのブランドとして広く世界に根付くまでになっています。

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 一方、1980年代には、さらなるスポーツ性能を求めるライダーに向けて、レーシングマシンの性能をよりダイレクトに反映したCBRシリーズが誕生。1990年の「CBR400RR」など、国内でも大きな人気を得たモデルを数多く生み出してきました。

 特に、現在のCBRシリーズでは、1992年に登場した「CBR900RR(輸出車)」の開発コンセプトを継承。操る楽しみの最大化を意味する「トータルコントロール」という思想に基づき、1000ccの「CBR1000RR-Rファイヤーブレード」から250ccの「CBR250RR」まで、さまざまな排気量のフルカウルスポーツが登場しています。

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 坂本氏によれば、そうしたCBやCBRシリーズの中でも、CB650RとCBR650Rは、2019年の登場以来、日本や欧州などグローバルで「年間約3万台」を販売し続け、ベテランはもちろん、初心者や女性ライダーなど、幅広い層に支持されている人気車種だといいます。

 おそらく、筆者が愛車に感じているのと同じく、街乗りからワインディング、高速道路など、さまざまなシーンで乗りやすく、軽快な走りを楽しめることを、世界中のライダーも実感しているのでしょうね。

 そして、そうした2機種にホンダダE-クラッチを最初に搭載したワケは、従来のファンはもちろん、世界中の幅広い年齢層やスキルのライダーに、よりバイクを楽しく、末永く乗ってもらうことが目的なのだといいます。

 

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どんな車種にも技術的には装着可能

 そんなホンダE-クラッチですが、このシステムは、既存のMT機構に追加で装備できることも特徴です。そのため、CB650RやCBR650Rだけでなく、クラッチレバー付きのトランスミッション車であれば、ほかのさまざまな車種にも搭載が可能。そして、ホンダは、現在、他の車種への展開も検討中だといいます。

 では、実際に、今後は、どんなタイプのバイクへ搭載される可能性が高いのでしょうか? MT車の楽しさを拡大してくれるシステムなので、個人的には、次もスポーツバイクになるような気もしています。

 これについて、ホンダE-クラッチ開発責任者の小野惇也氏は、「さまざまなライダーの幅広い使い方に対応できるように作ったシステムですから、スポーツバイクでないとだめということはありません。ツアラーやネイキッドなど、技術的には、どんな車種にも装着は可能」だといいます。

 

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 また、排気量も、250ccから1000cc以上まで、大小問わず採用が可能だといいます。しかも、小野氏によれば、ホンダE-クラッチのユニットは、エンジンの大きさが違っても「同じサイズを搭載できるように設計している」とのこと。汎用性が高いことで、コストも低くでき、結果的に車体価格もさほど上がらないこともメリットのようです。

スーパースポーツへの搭載は難しい?

 となると、例えば、CBR1000RR-RファイヤーブレードやCBR600RRなどのスーパースポーツなんかにも装着できそうですね。ただし、これに対して、小野氏は、「スーパースポーツへ装着するとなると、いろいろと厳しい制約が出てくる」といいます。

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 例えば、車両重量。今回、ホンダE-クラッチのユニットは約2kg増に抑えていますが、それでもスーパースポーツでは難しい点が出てくる可能性があるといいます。あとは、ユニットもでっぱりも、CB650RやCBR650Rではさほど気になりませんが、より空力性能なども求められるスーパースポーツでは、ちょっと出過ぎている感じになるのかもしれませんね。

 さらに、小野氏は、「もちろん、エンジンも含めて専用設計すれば、ユニットなどもよりコンパクト化できるでしょう。ただし、それではコストがかなりかかってしまい、結果的に車両価格も上がってしまいます」といいます。

 そして、まずは、スーパースポーツ以外の既存MT車へ追加することで、「このシステムを普及させることが最優先」なのだそうです。

 ただし、これも小野氏いわく、「(CBR1000RR-RファイヤーブレードやCBR600RRなど)スロットルバイワイヤや6軸IMUなどを持つモデルなら、より多くのデバイスと協調することにより、ホンダE-クラッチの機能をさらに拡大することはできる」そうです。

 例えば、シフトダウン時に自動で最適なエンジン回転数に合わせるオートブリッピングや、レースなどでロケットスタートを実現するローンチコントロールなど。現在、CB650RやCBR650Rにない(必要性も低い)こうした機能と、ホンダE-クラッチをマッチングさせることで、より高次元の走りも可能となるのだとか。コスト面なども考えると、まだまだ先になりそうですが、ちょっと期待したいところですね。

DCTの設定があるモデルには採用しない?

 そういえば、ホンダE-クラッチの次なる搭載車としては、ツアラーのNT1100やネオクラシックのホーク11なども噂(うわさ)になっています。アドベンチャーバイクのCRF1100Lアフリカツインと同系の1082cc・水冷直列2気筒エンジンを搭載するモデル群です。

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 これらに搭載する可能性に関し、CB650R/CBR650R開発責任者代行の吉田昌弘氏は、「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)の設定があるエンジン」のため、可能性は低いといいます。

 

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 DCTとは、一連の変速操作を自動化するホンダ独自のAT(オートマチック・トランスミッション)機構のことです。2016年に、CRF1100Lアフリカツインへ初搭載し、その後、レブル1100やNC750Xなど、さまざまなモデルに展開。NT1100にもDCT仕様があり、ホーク11はMT車だけですが、基本は同じエンジンなので、DCT仕様を設定することは比較的に容易だといえます。

 ちなみに、DCTでは、クラッチレバーだけでなく、シフトペダルによる変速操作も基本的には不要。ホンダE-クラッチが、機能オン時に変速操作を行う際も、シフトペダルのアップ/ダウンが必要な点とは異なります。

 

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 吉田氏によれば、これらモデルにも、もちろん「技術的にはホンダE-クラッチの搭載は可能」。でも、DCTがあるのに、「わざわざホンダE-クラッチ搭載車を作るのはどうか」といいます。つまり、あまりニーズがないのでは? といった感じでしょうか。

 余談ですが、もし、市場のニーズが高まるなどで、これらモデルにもホンダE-クラッチが採用されるとすれば、吉田氏は「DCTに勝ったことになる」といいます。

 「どうせ作るなら、(他メーカーだけでなく)同じホンダのシステムにも勝つ」。吉田氏は、こうした気概を持ってホンダE-クラッチの開発を進めたといいます。ホンダは、昔から、例えば「直4対V4」など、同じ社内の技術者同士も競い合うことで、テクノロジーや販売シェアを伸ばしてきたメーカー。まさに、ホンダ伝統の「技術屋魂」から生まれたのが、このシステムだということですね。

次の搭載車は1000ccのネイキッドモデル?

 ともあれ、スーパースポーツや、ツアラーでもアフリカツイン系エンジン搭載車には、すぐにホンダE-クラッチが採用される可能性は低そうです。では、次期搭載車は、どんなモデルになる可能性があるのでしょうか? 

 これに対し、10年もの歳月をかけて開発を手掛け、まさにホンダE-クラッチの生みの親といえる先述の小野氏は、「あくまで個人的な要望」と断りながら、「1000ccのネイキッドに搭載したい」といいます。

 

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 理由は、まず、開発中のテスト車両にも、「トップエンドといえる1000ccのバイクを使った」こと。これは、大排気量バイクの方が、技術的にも難しいことで、あえて選んだのだそうです。

 また、小野氏は、「個人的に、サーキットをガンガンに走るよりも、ツーリングを楽しむ方が好きなタイプ」なのだとか。そのため、街乗りからワインディング、高速道路など、幅広いシーンでより快適な走りができるモデル、なかでも「ネイキッドの魅力を向上させるために、ホンダE-クラッチを装着したい」といいます。

 1000ccのネイキッドモデル……。となると、思い出すのは、CB650Rの兄貴分となるCB1000R。もしくは、ひょっとすると、2024年のモーターサイクルショー(大阪・東京・名古屋)で国内初披露され、近く発売も期待されるCB1000ホーネットという線もありそうです。

 これらモデルは、あくまで、開発者である小野氏の希望なので、実際に投入があるのかは不明ですが、期待したいところではありますね。

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デザインも進化したCB650RとCBR650R

 ちなみに、新型CB650RやCBR650Rは、ホンダE-クラッチの搭載以外でも、スタイリングを刷新したことも大きな変更点のひとつ。初期型CBR650Rオーナーである筆者的には、このあたりも気になります。

 デザインについて、CB650R/CBR650R開発責任者の筒井則吉氏は、「(両モデル共に)シリーズの統一性を持たせながら、よりスポーティなフォルムになることを目指した」といいます。

 

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 つまり、基本的には、CB650RはCB1000RやCB250R、CB125Rとのリレーションを実施。CBR650Rは、CBR1000RR-RやCBR600RR、CBR400RやCBR250RRといった、シリーズ内の他モデルとデザイン的なイメージを同じにしながらも、それぞれ独自のフォルムを持たせたことが特徴なのだそうです。

 そのため、例えば、CB650Rは、1眼ヘッドライトのデザインをスラント形状に変更。また、シュラウドは、上質な金属質感としたコンパクトな面形状のデザインを採用しています。

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 一方、CBR650Rでは、2眼ヘッドライトやカウリングなどのデザインを変更。加えて、CB650RとCBR650Rのいずれも、テールカウルのデザインに、先端を細くした跳ね上げ形状を採用。これにより、両モデルのリアビューは、かなりシャープな雰囲気となっています。

 特に、CB650Rは、ほかの排気量のCBモデルが、台形フォルムのリヤデザインを採用していますから、かなり独自性を持つ感じがします。また、筆者的には、CBR650Rのリアカウルはとっても好印象。できれば、愛車にも付けたいところですが、新型はシートレール後端の形状も変わっているため、簡単に付け替えることは難しそうで残念です。

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 ほかにも、新型のCB650RやCBR650Rには、より見やすくなった5インチフルカラーTFTメーターを搭載。スマートフォンとの連携で音楽再生やナビなどのアプリ操作を可能とするホンダロードシンク(Honda RoadSync)なども採用し、利便性もかなりアップしているのも注目点です。

 

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 なお、両モデルは、ホンダE-クラッチ未搭載のスタンダード仕様も用意。価格(税込み)は、CB650Rが、スタンダード車103万4000円、E-クラッチ搭載車108万9000円。CB650Rでは、スタンダード車103万4000円、E-クラッチ搭載車108万9000円です。

 特に、両モデルのE-クラッチ搭載車が、今後、どのような売れ行きを見せるかは気になるところ。たくさん売れれば、きっとホンダとしても、ほかのモデルにも採用しやすくなるでしょうからね。

 ともあれ、ホンダE-クラッチは、初心者からベテランまで、幅広いライダーがライディングをより楽しめる新機構だけに、できるだけ多くの人に、その乗り味を体感してもらいたいものです。

 

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/380267/

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