2023年12月に5代目へとモデルチェンジをはたしたスズキ スイフト。クルマ好きにこそ愛されるクルマとしてその名を轟かせているが、新型開発にあたっては若者や女性からの支持を増やしたいという思いがあったらしい。新型スイフトに試乗したテリー伊藤はどのような感想を抱くのか!?

※本稿は2024年5月のものです
文:テリー伊藤/写真/西尾タクト
初出:『ベストカー』2024年6月10日号

■よく言えば「正常進化」だが……

2023年12月に登場した5代目スズキ スイフト。MTでもラクに運転できる。ISGの効果で発進トルクに余裕があるのもいい

 これが5代目だという新型スイフトである。

 スイフトは玄人好みというか、クルマをよく知っている人にウケのいいコンパクトカーで、逆に言えば、普通の人にはよさが伝わりにくい面がある。

 今回、新型スイフトを作るにあたって、開発陣は若者や女性からの支持を増やしたいという思いがあったらしいが、その目標は達成できたのか? そこを気にして乗ることにした。

 試乗車は1.2Lの5速マニュアルミッション。これだけでマニア受け確定である(笑)。MT車を運転できる若者、女性はかなり限られそうだ。

 もちろん、CVT車もあるから問題はないのだが、MTで喜ばれること自体が玄人受けのままである証し。

 世の中にはMTに慣れ親しんだ高齢者もいて、そういう人たちのために用意している理由もあるらしいのだが、それよりもMTマニアのための仕様というイメージが先立つ。やはりスイフトというのはそういうクルマなのだ。

 乗り味はとても軽い。クラッチペダルもシフトもとても軽く、MTでも運転はラク。まったく気を使うことなく走らせられる。

 逆にそれだけに、これがCVTだったとしたら、走りの印象がまったく残らないのではないか? と思ってしまった。それくらい、なんの苦もなく走らせられるのだ。

 もしかしたら、この点はクルマにそれほど関心のない若者や女性にはいいところかもしれない。そういう人たちはなるべく運転のストレスから逃れたいと思っているはずで、気を使わないで運転できるのはありがたいだろう。

 いわば「無味無臭」。それがいいことかどうかはわからないが、そんなフレーズが思い浮かんだ。

■イグニスのトラウマなのか?

5MTがあるのはハイブリッドMXだけ。クラッチはかなり軽い

 最近の軽自動車は至れり尽くせりで「工夫の鬼」のようなクルマになっているが、スイフトはそこまでではない印象だ。かゆいところに手が届く軽自動車に対して、スイフトはわりと「普通に」作られている。

 気になったのはリアシートで、エアコンの吹き出し口、フロントシート後ろのポケット、それに室内灯のすべてがない。あまりにも省略しすぎ。それでいくらかは安くできるのだろうが、端的にいって「不便」だ。もう少しユーザーの使い勝手を考えるべきではないか。

 軽自動車で見せるサービス精神が、なぜかスイフトではグンと下がる。少し前までは、軽自動車を買いに行った人が「値段が変わらない(あるいは安い)なら……」と購入車をスイフトに変えるというケースがそこそこあったというが、この作りでは、軽自動車からお客さんを奪うのは難しいのではないか。

 軽ワゴンのほうが室内は広いし、装備も充実しているし、遊び心もあって購買意欲がそそられる。しかし、小型車になると急に保守的になってしまうのだ。この件に関し、私にはひとつ思い当たるフシがある。「イグニスのトラウマ」である。

 スズキの小型クロスオーバー、イグニスはとてもカッコいいクルマで、私の周囲にもセンスよく乗っている仲間がいるのだが、一般的な人気は得られないまま販売終了になってしまった。

 スズキの開発陣はこれが「トラウマ」になっているのではないか。イグニスの失敗で、小型車は無難で波風が立たないデザインにするしかないと考えるようになったのではないかという推測である。

 おそらく、そのやり方は間違っておらず、新型スイフトは今までと同じくらいの支持は受けるだろう。しかし、新しいユーザー層を手に入れるのは難しいだろうし、これで5年、6年のモデルライフが保てるのかという疑問もある。

 きっとこの後、華やかにスイフトスポーツが登場するのだろう。私も期待はしているが、そうなるとスイフトの存在感はさらに薄まってしまう。

 5代目なら大胆なイメージチェンジを図ってもよかったのではないか。送りバントではなく一発長打を狙ってほしかったと思う。

●スズキ スイフトHYBRID MX 192万2800円(5MT)

スズキ スイフト。今回試乗したのはHYBRID MX(5MT)

 2023年12月登場。全長3860×全幅1695×全高1500mm、ホイールベース2450mm、車重920kg。

 プラットフォームは先代のキャリーオーバーで、エンジンは新開発の直3、1.2L+ISG(マイルドハイブリッド)。

 エンジン82ps/11.0kgm+モーター3.1ps/6.1kgmを発揮する。また、ISGなしの1.2Lもある。価格帯は172.7万〜216.7万円(FF車)。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。