昨今の自動車ディーラーは、紙カタログを廃止し、スマートカタログの運用を推進する流れが急速に広まっている。電子カタログが販売現場に入ることにより、いま自動車の商談は新しい形へと変化していく。

文:佐々木 亘/写真:AdobeStock(トップ画像=LIGHTFIELD STUDIOS@AdobeStock)

■カーボンニュートラルへの取り組み推進で廃止となった紙カタログ

カーボンニュートラルへの取り組みから、とうとう紙カタログ廃止を発表したトヨタ。すでに一部のトヨタディーラーでは二次元コードから電子カタログを閲覧するようになっている(Koonsiri@AdobeStock)

 トヨタは2025年1月から、トヨタブランドの車両について、紙カタログの製作・印刷を終了すると発表した。

 既にトライアル期間は始まっている。一部のトヨタディーラーでは、これまで紙カタログが置いてあった棚が撤去され、各車の写真と二次元コードが印刷されたスマートカタログが並んでいる状況だ。

 ユーザーは、スマートフォンやタブレット端末等で、この二次元コードをスキャンし、カタログを閲覧することが出来る。営業マンの手にも紙カタログの姿は無く、各人がノートPCやタブレット端末を持って、接客に当たっている様子が見て取れた。

 トヨタで紙の商品カタログとして使われている紙資源は、年間でおよそ7,000トンにも及ぶ。紙カタログは、こうした森林資源を使用しているだけでなく、製造・輸送・保管・廃棄の工程で二酸化炭素を排出してきた。

 紙カタログの廃止による二酸化炭素排出削減効果は、年間約1.1万トンとトヨタは推計している。トヨタにとっては紙カタログの廃止も、カーボンニュートラルという大きな取り組みの中の、一つなのであろう。

■商談はしやすい? わかりやすい? ユーザー満足度はぶっちゃけどうなの?

電子カタログは「持ち運びが便利」「機能紹介動画が見られるので伝えやすい」など、営業マンの評判も上々。いっぽうで、タブレットのページ送りが使いにくく、紙カタログでは感覚的に探し出せていた情報が見つけにくくなったという声も(goodluz@AdobeStock)

 新世代販売店として、紙カタログの廃止を早くから進めているトヨタディーラーでは、2024年1月から3月末までの3か月間、電子カタログ(トヨタではスマートカタログ、略して「スマカタ」と呼ぶ)のトライアル期間に入っていた。

 そして早い店舗では、2024年4月末日をもって、紙カタログの取り扱いを全面的に廃止することが決まっている。既に在庫の紙カタログを配り終え、「スマカタをご覧ください」と案内されるお店もあった。

 営業マンの評価は、概ね上々といったところ。「持ち運びが便利で楽」・「紙よりもタブレット端末で表示する方が本物の色に近い」・「機能紹介が動画で伝えやすい」といった声が並んでいる。

 一方で、紙媒体よりも情報が探しにくくなったという声も、一部からは上がる。冊子だと「この辺りに書いてあった」と感覚的に探し出せた情報が、タブレットのページ送りだと見つけにくいというものだ。車両情報も、紙と比べて頭に入りにくいといった声もある。

 今のところユーザーのウケは良いということだが、年齢・世代によって電子機器アレルギーの反応が強いケースもあり、ユーザー満足の数値はケースバイケースと言えそう。スマカタが当たり前の存在になるには、もう少し時間がかかるのかもしれない。

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■使いこなせば最強の武器

営業マンにとって、電子カタログは使いこなせれば大きな味方となる。特に複数の車種を比較できる機能などはユーザーからの支持も高い(WavebreakmediaMicro@AdobeStock)

 10年ほど前から、トヨタ・レクサス販売店では、「E-choice(イーチョイス)」「レクサスコンシェルジュ」というシステムが、営業スタッフのPCに入っていた。

 電子カタログの閲覧、過去カタログの検索、機能紹介動画、過去車種も含む複数車種の比較検討ができるシステムであり、筆者も有効に使わせてもらったものだ。

 特に複数車種の比較ができるシステムは、当時の商談でもとても役に立ったのを覚えている。今のクルマと購入検討をしているクルマが、サイズ・排気量・機能面でどう違うのかを横並びで確認でき、ユーザーからの支持も高かった。

 当時、こうしたシステムを実際の商談で使っているのは少数派だったが、使いこなせればいい武器になる。商談のスピードは上がるし、成約率も高い。販売の武器として、これからも十分に役立つものだろう。

 近い将来、机を挟んでの商談はなくなっていくはず。店舗内の大型ディスプレイを使いながら、洋服の試着のようにクルマを選んでいく時代が必ず来る。

 この時、情報を伝える側にも受け取る側にも、スピード感が大切になってくるのだ。検索・表示・理解のスピードが上がることで、自動車販売はもっと手軽で、もっと濃密なモノへと生まれ変わる。

 来るべき新時代に向かって、売る側も買う側も、デジタルのスピードや創造性に慣れておくことが必要だ。スマカタにアレルギーを持っている場合ではないぞ。新たな自動車販売のカタチは、既にそこまで迫ってきている。上手く時代の波を乗りこなそう。

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