チェコの老舗自動車メーカー・タトラが大型トラック「フェニックス」の刷新を発表した。

 およそ100年前に小型車・大型車の区別なく全面的に導入した「バックボーン・チューブ+スイングアクスル」という独自の構造は、新世代フェニックスでも維持されるようだ。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/TATRA TRUCKS A.S.

タトラが大型トラック「フェニックス」を刷新

タトラ車はオフロード性能に定評がある

 2024年6月5日(水)、世界有数の老舗自動車メーカーでチェコを本拠とするタトラは、「フェニックス」トラックの新世代モデルを祝賀イベントで公開した。

 タトラは19世紀創業の名門企業で、現在は防衛装備(軍用車両)の比重が大きくなっているが、伝説的な自動車エンジニア、ハンス・レドヴィンカが基礎を築いたタトラ車の名声はいまだ衰えない。

 大型トラックのフェニックスシリーズはタトラのポートフォリオを支える重要な柱の一つで、民生品市場(建設・鉱山用トラックなど)に加えて、救急車・消防車、さらには軍需の一部も担っている。

 新型フェニックスの量産開始は2024年夏を予定しており、顧客は秋までには最初の実車を見ることができるだろう。

 新世代のタトラ・フェニックスの公開イベントには同社のルカシュ・アンドリーセクCEOと大株主、関係者、州知事や市長も出席した。プレゼンテーションはユーチューブでもライブ配信され、フェニックスにかける同社の意気込みが伝わってくる。

 全面刷新に向けた開発は2022年から続けられてきた。現行世代と同様、タトラの長年のパートナーであるDAF、ZF、アリソンなどのコンポーネントを活用しつつ、タトラの技術と創意工夫を伝統のシャシーに組み込んでいる。

 アンドリーセクCEOのコメントは次のようなものだ。

 「タトラブランドに結び付いた名声は、新型フェニックスにも息づいています。長年に渡りユーザーに信頼性を提供してきたタトラ車は、カーゴ系であれ特装系であれ、いかなる条件のもとでも、そこに行く必要があるならどんな場所にも到達できます。これを高い経済性と安全性を実現しながら快適に行ないつつ、最新のサービスとサポートシステムは全て利用可能です」。

キャブとエンジンはDAFから調達

キャブはオランダのDAFから調達する

 新型フェニックスのキャブはオランダ・DAFの建設用大型トラック「XDC」と共通となっている。安全性、耐久性、快適性を最大化するべく開発されたXDCは、汎用の大型トラック「XD」をベースにDAFが2023年に発表したもので、視界や安全性能、空力性能を向上している。

 いっぽうのエンジンは、DAFなどが所属する米国パッカー製のMX-11/13型ディーゼルエンジンを採用した。MX-11型はエンジン出力300/330kW(約410~450ps)、MX-13型は同315/355/390kW(約430~530ps)の出力帯を用意する。

 組み合わされるのはZFの「トラクソン」自動化機械式トランスミッション(AMT)が標準で、オプションでアリソン製のフルオートマチック・トランスミッション(AT)を用意する。同じくオプションとなるが駆動系にタトラ製の減速ギアボックスを追加することができる。

 なお、新型フェニックスでは手動式トランスミッション(MT)は提供されない。

 大型トラックや特装車で標準装備化(法規による義務化)が進んでいる電子機器やドライバー補助システムはフェニックスにも導入される。ワイパーや灯火類の自動制御、左右の死角をなくすコーナービューシステムなど、オフロードトラックでも安全装備は充実している。

 前方の障害物検知や、広角ミラーに代わるカメラによるデジタルビジョンも利用可能だ(カメラはキャブ左右の上部に取り付けたアームに搭載し、カメラ画像はキャブ内のAピラーに取り付けたモニターに表示)。さらに車線逸脱警報(LDWS)やタイヤ空気圧監視システム(TPMS)も用意した。

 LED化された灯火類と最新の快適装備に加えて、アクセサリーやデザイン部品などのオプションも豊富に用意されている。キャブはショート(デイキャブ)とエクステンデット(スリーパー)に加えて、2段ベッドも可能なレイズドルーフスリーパーも選択可能だ。

レドヴィンカのコンセプトは健在

タトラの代名詞のセントラル・バックボーン・チューブ構造と独立懸架スイング式ハーフアクスル。トラックに多いハシゴ型フレームとは似ても似つかない。駆動軸の追加が容易で、特にオフロードで威力を発揮する

 キャブやエンジン、トランスミッションは外部から調達するが、タトラ車の特徴といえば、やはり独特のフレーム構造にあるだろう。

 一般的に大型トラックのほとんどはハシゴ型のフレーム(ラダーフレーム)を持つ。これはシャシーとは別にボディを架装するトラックにとって極めて有利な構造だからだ。

 ただしタトラは、ハンス・レドヴィンカが設計したとされる、セントラル・バックボーン・チューブというフレーム構造と独立懸架のスイング式ハーフアクスルを採用している。この伝統はトラック用フレームとして実に100年近くに及び、新世代のフェニックスにも受け継がれるようだ。

 伝統のシャシーコンセプトは、背骨(バックボーン)にあたるチューブ状のフレームに、ドライブシャフトとディファレンシャルを組み込み、ここに独立懸架エアサスのスイング式ハーフアクスルを組み合わせるという、全輪駆動の大型トラックとして他に類を見ない唯一無二の構造だ。

 新世代では「ベーシックな」シャシー構成として4×4(2軸4輪駆動)、6×6(3軸6輪駆動)、8×8(4軸8輪駆動)と8×6(4軸6輪駆動)を用意する。4軸車は1+3(前1軸+後3軸)構成も可能。また、モジュール化により駆動軸の追加も容易で、ユーザーの要望に応じて14×10などの多軸構成やステア可能なリアアクスルの追加も可能としている。

 この独特のシャシーコンセプトには多くの利点があると説明するのは、同社の副会長でエグゼクティブ・ディレクターのペトル・ブルシク氏だ。

 「まず、固定軸と比べて振動を大幅に減らすことができます。これはドライバーの快適性だけでなく、道路や路面へのダメージを減らす効果があり、全地形で高速走行が可能になります。また、トーション(ねじり)/ベンド(曲げ)への耐性が高く、障害物回避のために急旋回しても安定した操縦が可能です。これは道路とオフロードの両方で役に立ちます。

 (バックボーンチューブの弱点となる架装性に関しては)サブフレームを(リベットでは無く)溶接構造とすることで、様々な上モノを架装することができます。ほとんどのケースでは、いわゆる中間フレームが不要となるため重心位置が低くなり、積載量を確保できます」。

 実際、シャシーの耐用年数が長めに設定されているのは、トーション/ベンドという機械的ストレスが少ないためで、ドライブシャフトがチューブ内にあるので地形や環境からの影響も少ない。駆動系の信頼性は高く、省メンテナンスで低サービスコストという利点もある。

 日本で実車を見る機会は少ないが、タトラ車のオフロード性能の高さは、クロスカントリーラリーの最高峰とされる「ダカールラリー」などを通じて広く知られている。

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