道路標識は実用面だけを考えた硬派な設備。ところが自分でクルマを運転しない時になると、好奇心を掻き立てる最高の観察対象に化けたりするからおもしろい。ということでちょいと標識ウォッチングしつつ登場するバスを考えてみよう。
文・写真:中山修一
(バス系道路標識の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■そのへんで探せる宝物
道路標識の図柄は全国共通となっているが、滅多に見られない種類があったり、標識同士の組み合わせのせいで、たまたまネタっぽい意味に捉えられたりと、地域ごとに色々な顔が見られる。
「歩行者用道路」の人物が、宇宙人型と誘拐型の最低2パターン存在するのは味わい深いところだし、凝視すると和式便器の詰まりを解消している様子にしか見えなくなる工事中の標識もまた憎めない。
バリエーション豊富な「動物注意」をはじめ、出現頻度が低めの「警笛鳴らせ」や「!」マークなどは、趣味の道路標識においては、出会えばいつも高い満足感を提供してくれる“お宝”だ。
■あのバス古くね?
ひょうきんな面々が勢揃いした道路標識であるが、今回注目したいのは大型車「バス」のシンボル。よく進入禁止系の標識に描かれている、あのバスだ。
遠くからでもバスだと分かるシルエットであるが、じっくり観察してみると、屋根周りが丸みを帯びているモノコックボディかキャブオーバータイプで、側面窓が上下2段になった「バス窓」風の表現が描かれている。
そういったスタイルを持つバス車両となれば、かなり古い車だ。道路標識のバス車両は、一体何年式に相当するのか、だんだん気になってきた。
■道路標識の歴史を遡ると……
バスの年式=その道路標識が初めてできた年、と考えて良さそうだ。キャブオーバー式のバス車両が主流になっていったのは1960年代なので、大体その頃だろうと察しはつく。
とはいえ、1960年代より前にもキャブオーバー式自体は存在していたため、一応念のため戦前まで遡って調べてみることにした。
その結果、大昔の道路標識は現在ほどグラフィカルなものではなく、種類も凄く少ないと分かった。確認できた限り、バスが関係してくる標識自体がなかったらしい。
■○○年式だった!! 道路標識の中のバス
日本に道路標識と呼べるものが初めて立てられたのは、1922(大正11)年と言われている。その後、大きな動きがあった年に、1942(昭和17)年、1950(昭和25)年、1960(昭和35)年が挙げられる。
なかでも1960年は現在の道路交通法が制定された年で、それに併せ、今日も使われている道路標識のフォーマットが固まり始めたのも、この年からだ。
それなら例のバスのシンボルも1960年に決まったのか、と思いきや、60年時点でバスの標識はまだ出てこない。
もう少し時間を進めてみると、1963(昭和38)年に登場した「大型乗用自動車通行止め」の標識に、現在とほぼ同じ姿形のバスが描かれているのが確認できた。
どうやら起源はこの標識で間違いなさそう。とどのつまり、道路標識のバス車両は「1963年式」だったわけだ。ちなみに、近年レストアして復活を遂げた旭川電気軌道の6輪バス、三菱MR430は1963年式だ。
■それだけでは終わらなかった
このテーマはこれで完結に思えた。ところが撮り溜めたバスの道路標識を見比べているうちに、形の違うバスが描かれているのに気づいた。
今度は専用通行帯や、優先通行帯の標識に出てくるタイプで、1963年標識のバスよりも丸みがやや強く、前面と前輪の間隔がより短い。バス窓風表現は共通だ。
ではコイツがデビューしたのはいつだったのか……より古いのか新しいのか、丸みが強いからと言って古いわけではなく、初登場は1971年だった。専用/優先通行帯の標識のバスは1971年式か。
■標識の中のバス車両は現状4種類?
さらに、まだ2種類あった。一つはバリアフリー関連の案内表示にも使われる、バスのピクトグラムとほぼ同じもので、バス専用レーンなどを示す標識に描かれている。
もう一つは、許可車両専用の道などに立てられている標識用。こちらもバリアフリー関連のピクトグラムとよく似ているが、ホイールの表現があるのが特徴。
この2点が制定された年を辿ってみたところ、前者が2000年、後者は2020年であった。意外と新しい“年式”のバスも、知らないうちに投入されていたわけだ。
道路標識に描かれたバスの形は現状4種類あるようだ。ところが、1971年制定のバスのシンボルと基本的には同じであるが、バス窓の表現がないタイプを後日見つけてしまった。
細かいバリエーションを含めると、何気にすごく奥が深いテーマなのかも……。
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