ちょっと前に経験したハプニング付きの路線バス乗り継ぎの旅を紹介しよう。ルートは鹿児島県出水から熊本まで。といっても人気テレビ番組のように「バス旅」に挑戦!! というわけではなかった。実は大雨の影響で結果としてバス旅になってしまったのだ!!

(記事の内容は、2022年5月現在のものです)
執筆・写真/谷川一巳
※2022年5月発売《バスマガジンvol.113》『バスにまつわる愉快だけどマジな話』より

■路線バス旅のはじまりは神の声からだった!!

雨で止まってしまった肥薩おれんじ鉄道。駅員さんは社名に合わせてオレンジ色の制服。筆者を導いてくれた声の主だ

 2021年8月のお盆の時期、鹿児島から熊本までバスでも新幹線でもなく、ローカル列車を乗り継ぐ旅に出ていた。鹿児島中央駅を8時29分発の列車に乗り、JRと肥薩おれんじ鉄道を川内、八代で乗り継ぎ、昼過ぎには熊本へ到着する計画であった。

 その日、九州地方は大雨の予報であったが、鹿児島の天候は曇り、列車は定刻に出発し、川内駅で肥薩おれんじ鉄道に乗り換え、順調に八代へ向かっていたのである。

 ところが、もう少しで出水駅というところで「大雨の影響でこの列車は出水駅で運転を打ち切ります」の車内アナウンス。

 最初は「そのうち動くだろう」と思っていたが、出水駅に到着すると、肥薩おれんじ鉄道そして新幹線までが「終日運休」になってしまった。新幹線の終日運休はただ事ではない。そんなに雨が降っているのか! ちなみに出水駅も曇っているが雨は降っていなかった。

 さて、どうしよう。出水市は鹿児島県北部の田舎町で、熊本県に近い。鶴の飛来地としては知られているところ。新幹線と在来線である肥薩おれんじ鉄道が止まると陸の孤島である。

 空港バスで鹿児島空港へ出れば「熊本行きの高速バスが走っているかもしれない」「最悪鹿児島へは戻れるだろう」などと思い、肥薩おれんじ鉄道の駅員のおばちゃんに「鹿児島空港へ行けば熊本行きの高速バス走ってますかね~」と尋ねると、「熊本だったら路線バスで行けますよ」という答が返ってくるではないか。

 「えっ、どこでどう乗り継ぐんですか?」と尋ねると、「駅前から水俣行きの路線バスがある、そこから何カ所か乗り継ぐんだけど、どこで乗り継ぐかは分からない」「でも行ける。バス乗り継ぎのテレビで行けたから」というではないか。

 バス乗り継ぎの旅は人気番組のことだ。「そこに南国交通さんの営業所があるから聞いてみたら」というので早速行ってみる。それにしても肥薩おれんじ鉄道の駅員さんは気さくでいい。JRの駅員だとこういう展開にはならないであろう。

 南国交通の営業所へ行くと、4回の乗り継ぎで確かに熊本へつながるルートがあることが分かった。ルートをメモし、とりあえず10時23分のバスで水俣へ出ようと駅前のバス停にいたら、南国交通のお姉さんが親切にも、水俣から先、九州産交バス部分の乗り継ぎ検索をA4用紙2枚に印刷して持ってきてくれた。

 バス乗り継ぎ旅のテレビでルートが頭に入っていたのかもしれない。番組に感謝してバスに乗ることにした。

■南国交通の水俣行きであっけなく県境越え

出水から水俣へは鹿児島県から熊本県へ県境越えの南国交通で

 ルートは出水駅~水俣駅前~道の駅たうら~労働基準監督入口(八代)~松橋産交~桜町バスターミナル(熊本市中心の大きなバスターミナル)であった。

 テレビ番組ではいつも県境越えに苦労していて、県境は山道を歩くということが多いが、このルートは出水(鹿児島)~水俣(熊本)間に南国交通が頻繁に走っていて、いとも簡単に県境が越えられるというのがポイントであろう。

 水俣から先は小型のバスで熊本県南部の地域地域を結んで走った。水俣~道の駅たうら間は1時間の乗車で運賃1020円、小型車に1020円分も乗車したのは初めてかもしれない。

 八代市へ入ると天候は大雨となった。乗り継ぎ検索では労働基準監督入口での乗り継ぎだが、雨が強くなってきたのとトイレ休憩も含めて、八代駅で乗り継ぐことにした。ただし、バスの便は一本遅くなってしまうが。

 こうして18時32分、鉄道での予定より約5時間遅れで熊本市中心の桜町バスターミナルへ到着した。バス運賃は合計3170円だった。

■路線バスはあらゆる交通機関の中で一番強い!!

アンカーはこの日はじめての大型車。松橋から県庁行きに乗って熊本中心の桜町バスターミナルへ

 さて、今回のバス旅、ひょんなことから路線バスを乗り継ぐことになったが、そこで強く感じたのは、新幹線も在来線も終日運休になっているなか、路線バスは時間通りに運転していたことである。

 路線バスは遅延などもなく、いつもと同じように黙々と地域の足として地味ではあるがきちんと公共交通の役割を果たしていた。後で分かったことだが、自動車道も通行止めになっていたようで、高速バスも運休していた。

 つまりは、新幹線、鉄道、高速バスなどは意外にも大雨などに弱く、地域のローカルバスは一般道が物理的に通れなくならない限り、いつも通りに運行していたのである。

 実は、翌日も鉄道は運休続出で九州内の交通はマヒ状態であったが、新幹線、西鉄バス、西鉄電車と乗り継いで福岡入りしたのであった。さすがに新幹線の運転再開は早かったが、JR在来線はその後も運休が続き、一番頼りにならなかった。「路線バス強し」の旅であった。

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