日本自動車タイヤ協会によれば2023年のリトレッド率は20%に達し、再生タイヤ、すなわちリトレッドタイヤが徐々ではあるが普及しつつあるようだ。いっぽう、国内で唯一ミシュランタイヤが推奨しているリグルーブタイヤは普及率としてはまだ低い。

 使用済みタイヤを再利用するという意味では両者同じものだが、そもそもリトレッド、リグルーブは何が違うのか? そのメリットとは?

文・写真/フルロード編集部、図/日本ミシュランタイヤ

ミシュランタイヤの3R

ワイドシングルタイヤの先駆けになった「ミシュランX One」シリーズのリトレッドタイヤ。リトレッド/リグルーブは高価なタイヤほどコスト削減効果が高い 

 ミシュランタイヤは、ロングライフ技術や、リトレッド/リグルーブ技術を活用することによりタイヤのトータルコストを削減し、廃棄物削減やCO2排出量削減に貢献する「ミシュラン3R」をコンセプトに掲げているタイヤメーカーだ。

 同社は1世紀近く前からリトレッドを行なってきたパイオニアとしても知られ、日本では2005年より同技術を用いた再生タイヤを展開し、リトレッド/リグルーブ技術を活用するための構造設計を同社トラック・バス用(TB)タイヤに採用している。

 あらためてリトレッド/リグルーブを説明すると、使用済みタイヤを回収しリトレッド工場ですり減ったトレッドゴムを張り替えたものがリトレッドタイヤで、使用済みタイヤをタイヤショップに持ち込みすり減った溝を再び刻んでもらうことでグリップ性能を延長させたものがリグルーブタイヤである。

 ミシュランタイヤの場合、新品タイヤ→リグルーブ→リトレッドと1本のタイヤを3つのサイクルで使用することができるため、環境保全やコスト削減が注目される昨今、ユーザーにとってもメリットは大きい。

 同社シミュレーションによると、そのコスト削減効果は、新品タイヤをコスト100%・ライフ100%とした場合、リグルーブではコスト10%に対し最大ライフ25%を延長、リトレッドではコスト60%に対し最大ライフ90%を延長できるとしている。

あらためてリトレッドとは?

こちらはトーヨータイヤがリトレッドの作業工程を展示したもの。ミシュランタイヤのリトレッドは、トーヨータイヤが設立したリトレッド製造工場、トーヨーリトレッドに一任されている

 更生タイヤや再生タイヤとも呼ばれるリトレッドタイヤは、使用済みタイヤの土台(台タイヤ=ケーシング)をベースに使用過程で摩耗したトレッドゴムを張り替えることで、タイヤ性能を再生したもの。

 ミックス(オールシーズン)、リブ、ラグ、リブラグ、スタッドレスタイヤ、小型〜大型トラック・バスまで幅広い種類・サイズのタイヤに対応しているのがその特徴だ。

 リトレッドは委託方式と台タイヤ交換方式に分かれており、前者は自ら使用したタイヤをベースにする方式、後者は他ユーザーが使用したタイヤをベースにする方式で、タイヤを使用してきた過程がわかる委託方式を推奨するタイヤメーカーが多くなっている。

 ただ、台タイヤ交換方式は使用過程がわからないといっても、台タイヤとしての適合基準を各社設定しており、不適合となるようなパンク履歴、傷、摩耗などのものは除外されているので、そこまで神経質になる必要はないようだ。

 ちなみに在庫があればタイヤ交換に適時対応できる台タイヤ交換方式に対し、委託方式ではリトレッド工場から戻ってくるまでの期間があり、納期が長くなってしまうデメリットもある。

 リトレッド回数は原則1回であるが、近年はケーシングの耐久性を高めて複数回(ミシュランの場合最大2回)に対応したTBタイヤも登場している。

 いずれにしてもリトレッドでは、台タイヤとして適合することが大切。普段から運転やタイヤ管理に気をかけ、早めにリトレッドにまわすことが適合率アップする上で重要だ。

ミシュランタイヤが推奨するリグルーブ

リグルーブ作業では、残溝に応じリグルーバー(溝を刻む機械)のブレードを調整し溝を刻んでいく

 いっぽう、国内で唯一ミシュランタイヤが推奨しているリグルーブは、中型〜大型車のTBタイヤに対応し、「ミシュランリグルーブサービス」というステッカーが貼られた同社のTBタイヤを取り扱うタイヤショップなどで行なうことができる。

 同社TBタイヤにはリグルーブの使用を前提とし、溝底とベルトの間に3〜4mm厚のリグルーブ可能範囲となるゴムと、2mm厚のアンダートレッド(サイズによって異なる)があり、タイヤごとに定められた推奨深さ(概ね3mm〜4mm)まで溝を掘ることができるようになっている。

 実際には、残溝2mm〜4mmの段階でリグルーブすることが決められており、この残溝(最も浅い箇所)+推奨深さにリグルーバーのブレードを設定して溝を刻んでいく。

 ちなみに、同社TBタイヤの多くにはスリップサイン上に「リグルーブ・デプス・インジケーター」と呼ばれる穴を設けている。この穴はここまで掘れるという深さを表しており、深さを計測することで迅速なリグルーブを可能としている。

リグルーブ後のトレッド。リグルーブ作業を普段から行なっているタイヤショップのプロの場合、サイズや刻む溝にもよるが1本あたりだいたい20分ほどだという

 リグルーブで増やせる溝の深さは新品タイヤの約1/3ほどとなり、前述の通りライフ延長は最大25%。最大90%のリトレッドと比べると短いが、継続して行なえば4本で新品タイヤ1本と同等のライフとなり、コストは4本で新品の40%ほどで済む。

 また、リトレッドの場合前軸への使用は推奨されていないが、リグルーブの場合はフロントタイヤとして使用できる(使用条件による)メリットもある。さらに、摩耗が進んだタイヤがベースとなるので転がり抵抗が低減し、燃料改善に貢献できるという特徴も備えている。

 以上のように、リグルーブもリトレッドもそれぞれに特徴あり、これらのタイヤ再利用技術を上手に使い分けて活用していけば、トータルコストで見ると高い費用対効果をもたらしてくれるのだ。

オフロード用を除き、フロントタイヤにも使用できるリグルーブ

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