2024年4月17日、岩手県金ケ崎町にあるトヨタ自動車東日本の岩手工場で「新型LBX~東北と走る~」と題した記念式典が開催された。モリゾウさん含め従業員ひとりひとりが、東日本大震災後に生まれたトヨタ自動車東日本の歩みを振り返りながら、LBXを生産することで新たな未来を切り開く決意を確認しあった。

※本稿は2024年5月のものです
文:ベストカー編集部/写真:トヨタ・レクサス・ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2024年6月26日号

■東北復興に貢献! トヨタ自動車東日本の出荷額は約8000億円

モリゾウさんは岩手県出身の佐々木雅弘氏とともに式典を盛り上げた

 トヨタ自動車東日本の設立は2012年7月。「東北に自動車産業をしっかりと根付かせ、雇用を生んで利潤を出し、税金を納めることで復興のお手伝いをしたい」という当時社長だったモリゾウさんの決断による。

 トヨタが寄付といった一時的な支援ではなく、長く東北を応援していくという支援を選んだのは、モリゾウさんが現地に足を運び、東日本大震災の被害の大きさを自身の目で見たからにほかならない。

 モリゾウさんは「東北のモノづくりを復興させ、明るい笑顔を取り戻したい」と口にし、震災以降何度も東北地方を訪れてきた。

 その想いは少しずつ実を結び、震災前に比べてトヨタ自動車東日本の生産台数は1.6倍の約47万台に、トヨタの出荷額は約300億円からトヨタ自動車東日本の成長によって約8000憶円に、従業員数は約2200人増の約5300人となり、仕入先数も約1.8倍(約180拠点)となった。

 岩手県に限れば出荷額ベースで自動車が約25%と特産品のナンバーワンになっている。

トヨタはモノづくりを通じて東北の復興に尽力している

 モリゾウさんがこだわった納税に関しても岩手県に約3億円、金ケ崎町に4.5億円を納税し、金ケ崎町では町税総額の約16%にあたる。トヨタ自動車東日本が地元に根付き、愛されてきたからこその数字であろう。

 「新型LBX~東北と走る~」の式典は約12年で大きく成長したトヨタ自動車東日本が地元に感謝を伝えるとともにレクサスLBXを生産することで新たな飛躍を誓うものになった。

 トヨタ自動車東日本の事業内容をまとめると、コンパクトカーを中心に開発、生産し、東北地方に3つの工場を持つ。

 シエンタやヤリス クロス、カローラフィールダー、カローラアクシオ、JPN TAXIなどを生産する宮城県の大衡(おおひら)村にある宮城大衡工場。宮城県大和町にあるエンジンや部品を生産する宮城大和工場。

 そして今回式典が行われたヤリス、アクア、ヤリス クロス、そしてLBXを生産する岩手県金ケ崎町にある岩手工場の3つだ。

 2023年12月にレクサスLBXがトヨタ自動車東日本の岩手工場でラインオフした。トヨタ自動車東日本は飛躍のチャンスをもらったととらえている。

 しかし、当初はRXやNXなどレクサス車を生産するトヨタ自動車九州のスタッフから「部品の扱いが雑だ」と指摘を受けたこともあり、レクサスの品質をお客様に提供できるのか? という不安の声もあったという。

 それでも、岩手工場の従業員は、努力を惜しまなかった。例えばLBXの「大きさのヒエラルキーを超える」という思いに応えるため、煌工程(きらめきこうてい)と呼ばれる3つの専用検査工程を新設した。

 1.ラフロードテスターと呼ばれる動的異音の検査 2.照明ブースと呼ばれる塗装や建付けの検査 3.静音ブースと呼ばれる電装品などの検査だ。

 そして、煌工程の新設にあたっては検査員の養成に特に力を入れた。例えば検査員候補にはセンチュリーの検査員を講師とし、検査技能教育を実施したという。また車両抜き取り評価部署であるお客様品質監査課に留学させ、お客様目線の内外装の評価やテストコースでの異音評価業務を習得させたりもした。

 いずれもレクサス車を生産することで一段ステップアップしようという意気込みの表れだ。

 LBXを生産することでトヨタ自動車東日本が成長すれば、東北をまたひとつ元気にすることができるのだという強い想いが「新型LBX~東北と走る~」に込められているように思う。

■東北でWRCを開催し世界にアピールしたい

岩手県の達増(たっそ)拓也知事も出席し、LBXの生産をきっかけにさらなる飛躍を誓い合った

 式典の前日、モリゾウさんは開発ドライバーの佐々木雅弘氏と一緒に岩手の道をドライブしたという。有名な岩手山の麓にある一本桜を見に行き、ジャージャー麺を食べ、ラムレーズンのジェラートを食べるなど楽しい時間を過ごしたという。

 モリゾウさんは岩手の道の印象について「道がクルマを作ると言いますが、クルマづくりにはいい道だと感じました。美しい東北の道でWRCが開催できたなら、復興の後の東北を、この美しい景色を、世界にアピールできると思います」と語った。

 WRCは世界約150カ国で放映され、視聴者数は約8億4000万人にのぼるという。

 モリゾウさんはお世辞で言っているのではない。東日本大震災を忘れないためにも、東北がさらに発展するためにも、東北の道でWRCが開催できたら、どんなに素晴らしいことだろうと思っている。

 あえてWRCに触れたのは地元から誘致の熱が生まれ、盛り上がるならば「モリゾウはひと肌脱ぎますよ!」と言っているように思えた。

■現場に権限移譲を決断! モリゾウさんが考える危機対策

モリゾウさんの「現地、現物」の姿勢は、決してぶれることがない

 モリゾウさんは東日本大震災が発生するとすぐに防災センターに入り情報収集に努めた。従来は緊急対策委員会が開かれ、判断を仰いできたが、モリゾウさんは緊急対策委員会の開催をやめ、現場に権限移譲することを決めた。

 「自然災害などが起きた場合は、現場が時々刻々変わる現実を受け、即断、即決、即実行することで復旧までのリードタイムは格段に短くなります」とモリゾウさんは語っている。

 さらに「非常時の現場の判断は必ずしも、思う結果が得られないこともあります。そんな時には『次に行こう!』と言えるかどうかがリーダーの重要な役割になります」とも語っている。

 トヨタは翌日から救援物資を現地に運び入れたが、現場には協力会社がフォークリフトを持ち込んで受け入れ態勢を作っていたという。まさに現場の判断と行動力が素早い支援を可能にしたといえるだろう。

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