ここ数年、日本はもとより、世界中で人気の「アドベンチャーバイク」。ホンダのCRF1100Lアフリカツイン・シリーズやヤマハのテネレ700、スズキのVストローム・シリーズなど、最近は各メーカーからさまざまなモデルが販売されており、排気量も250ccから1000ccオーバーまで多種多様。いずれも、オンロードだけでなく、オフロードでも高い走破性を誇り、長距離ツーリングにも対応する数々の装備が魅力のモデル群です。
でも、同様のツーリング向けモデルには、スタイルが非常に似ているスポーツツアラーやクロスオーバーといったモデルなどもありますが、アドベンチャーバイクとはどんな点が違うのでしょうか? ここでは、改めて、アドベンチャーバイクとは、一体どんなバイクなのかを検証してみます。
国産モデルにはどんなバイクがある?
アドベンチャーバイクには、前述の通り、さまざまな排気量のモデルが各メーカーから発売されていて、今や百花繚乱。その人気の高さがうかがえますが、実際にどんなモデルがあるのか、国内モデルの例を挙げてみましょう。
【ホンダ】
・CRF1100Lアフリカツイン<s>/DCT(1082cc・直列2気筒)
・CRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツES/DCT(1082cc・直列2気筒)
・XL750トランザルプ(754cc・直列2気筒)
・CRF250ラリー(249cc・単気筒)
・CRF250L(249cc・単気筒)
【ヤマハ】
・テネレ700(688cc・直列2気筒)
【スズキ】
・Vストローム1050/1050DE(1036cc・V型2気筒)
・Vストローム800/800DE(775cc・2気筒)
・Vストローム650/650XT(645cc・V型2気筒)
・Vストローム250/250SX(248cc・2気筒)
【カワサキ】
・ヴェルシス1000SE(1043cc・並列4気筒)
・ヴェルシス650(649cc・並列4気筒)
これらは、各メーカーが公式ホームページなどで「アドベンチャー」に分類しているモデルたちです。
ちなみに、ヴェルシス1000SEとヴェルシス650について、カワサキは「アドベンチャー/ツーリング」というジャンルに入れているので上のリストに入れています。また、Vストローム250もスズキはアドベンチャーのジャンルに入れているのですが、これらは、ある理由により、純粋なアドベンチャーバイクとは異なるかもしれません。メーカーにより分類の仕方も違うため、一概にはいえませんが、詳細については後述します。
ともあれ、ご覧の通り、1000ccから250ccまで、さまざまな排気量のモデルがあることが分かりますよね。また、一部を除き、ほとんどが2気筒か単気筒のエンジンを搭載。いずれも、低速からトルクフルなパワー特性を持つことと、市街地から高速道路まで、幅広いシーンで扱いやすい乗り味を持つことが魅力だといえます。
オンロードとオフロードの両方で楽しいバイク
これらモデルの共通点は、オフロードバイクのテイストを受け継ぎつつも、長距離ツーリングでも快適かつ利便性が高い装備を持つこと。高速道路などの高速クルーズで高い安定性を持ちながらも、荒れた悪路でも高い走破性を実現し、オンロードとオフロードの両方をこなせる走りが魅力です。
スタイル的な近年のトレンドは、ウインドプロテクション(防風性能)性能が高いフロントスクリーンの装備や、バーハンドルなどによるアップライトで長時間の走りでも疲れにくいポジションなどが挙げられます。
また、大容量の燃料タンクなどで、長い航続距離を実現するマシンも多いですね。加えて、サスペンションには、オフロード走行でも高い安定性を実現するロングストロークタイプを採用。なかには、悪路走行時にエンジン下部へ飛び石などがヒットした際のダメージを軽減する、スキッドプレートなどを装備するモデルもあります。
さらに、荷物が載せやすく安定するフラットで広い形状のリアシートも採用。リアキャリアを標準装備するモデルもあるほか、オプションに専用のパニアケースなどを用意するなどで、長旅やアウトドアのキャンプなどにも対応する積載性の高さも兼ね備えています。
ほかにも、タイヤの空転などを抑えるトラクションコントロールや、安定した制動性能を発揮するABSなど、最新の電子制御システムを採用するモデルも多いようです。
特に、大排気量のプレミアムなモデルでは、オンロードやオフロード、荷物積載時のクルージングなど、走行状況に応じて最適な特性が選べるライディングモードを搭載。より快適で、安定感の高い走りを堪能できる仕様も用意されています。
アドベンチャーバイクのルーツは?
では、なぜアドベンチャーバイクは、オンロードとオフロード両方の走行を考慮した作り込みになっているのでしょう? それは、アドベンチャーバイクのルーツに関連があります。
国産車でアドベンチャーバイクの代表格といえば、ホンダのCRF1000Lアフリカツイン・シリーズや、ヤマハのテネレ700が挙げられます。いずれも、1980年代から続くロングセラーモデルで、このジャンルを確立した立役者です。
各モデルの初代は、ヤマハのXT600テネレが1983年、ホンダのアフリカツインが1988年に発売。テネレが595cc・単気筒、アフリカツインが647cc・V型2気筒と、いずれもエンジンには、比較的大きめの排気量を採用。悪路をものともしないトルクフルな走りなどが魅力でした。
また、両モデルは、当時大きな人気を博していた「パリ-ダカールラリー(現在のダカールラリー)」に参戦し、大活躍したホンダやヤマハのワークスマシンをベースとするレプリカバイクとして登場したことも共通点です。
1978年から開催されているこの競技は、砂漠や泥濘地、山岳地帯など、あらゆる路面をバイクやクルマで走破することで、「世界一過酷なイベント」として知られています。
毎回、年末から年始にかけて2週間以上行われ、猛暑の中で1日の走行距離が800kmを超えるときもあるほどハード。ライダーやドライバーの体力はもちろん、車両にはさまざまな悪路に対応する幅広い走破性、長距離走行でも壊れない高い耐久性などが求められています。
そして、そうした過酷な競技で培った技術を市販車に投入したのが、アフリカツインやテネレなのです。
これらモデルがアドベンチャー(冒険)バイクと呼ばれるのは、そうした「世界一過酷なラリー」という、ある意味「冒険」ともいえる競技で鍛えられたワークスマシンたちの技術などがバックグラウンドにあるため。オン・オフ問わない高い走破性や長距離ツーリング時の安定性や利便性など、先述したアドベンチャーバイクが持つ特徴の礎(いしずえ)となっているのです。
ちなみに、パリ-ダカールラリーは、かつて、フランスのパリからアフリカ大陸へ渡り、サハラ砂漠を通過、セネガルの⾸都ダカールをゴールするルートをとっていました。その長くて険しいルートを称し、通称「パリダカ」と呼ばれ、世界中で広く親しまれたのです。
現在は、開催地域の政情不安により、中東・サウジアラビアでの開催となりましたが、大会名には「ダカール」の名前が引き継がれ、いまだに世界中で多くのファンを魅了しているモータースポーツのひとつとなっています。
スポーツツアラーとの違いは?
このように、元々は、ラリー参戦マシンをベースに、公道で走行できるように市販化したのがアドベンチャーバイクの始まりだといえます。
一方、スタイルは似ているのに、メーカーが「スポーツツアラー」など、別のジャンルに入れているモデルもあります。
例えば、ヤマハのトレーサー9 GTと上級モデルのトレーサー9 GT+。888cc・3気筒エンジンを搭載するネイキッドモデルの「MT-09」をベースに、電子制御サスペンションや高速道路などでアクセル操作をしなくても設定速度で走行できるクルーズコントロールなどで、長距離ツーリングでの快適性を高めたモデルです。
ほかにも、ホンダでは、CRF1100Lアフリカツインと同じ1082cc・直列2気筒エンジンを搭載するNT1100を「ツーリングモデル」に分類しています。
また、745cc・直列2気筒エンジン搭載のNC750Xをホンダは、「クロスオーバー」というジャンルに分類。さらに、998cc・直列4気筒を搭載し、2024年1月に発売された新型GSX-S1000GXも、スズキは「クロスオーバーバイク」と呼んでいます。
これらも、スタイル的には、大型のフロントスクリーンなど、かなりアドベンチャーモデルに近いことは確か。では、なぜ差別化されているのでしょうか?
ホイールサイズがジャンルの分かれ目!?
おそらく、これらモデルは、長距離ツーリングでの高い快適性という点ではアドベンチャーバイクに近いけれど、よりオンロードでの走りに振った味付けであることが考えられます。
それが最も分かりやすいのが、ホイールの大きさ。
例えば、ヤマハのテネレ700やホンダのCRF1100Lアフリカツイン<s>では、フロント21インチ、リア18インチを採用。また、電子制御サスペンションを採用するCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツESでは、最新モデルでフロントを19インチ化しましたが(リアは18インチ)、いずれも後輪よりも前輪が大きいサイズ設定になっています。
ほかにも、前述したアドベンチャーバイクと呼ばれるモデルの多くが、前輪が大きく、後輪が小さいサイズのホイールを採用していることが多いのです。そして、こうした設定は、オフロードバイクの多くがそうであるように、悪路にあるギャップや凹凸を乗り越えやすくするなど、オフロードの走破性をより高めるためだといえます。
一般的に、バイクで悪路を走る場合、前輪の径が小さいとギャップなどにはまりやすく、ひどい場合は前転してしまうこともあります。逆に、大きい前輪の方が、少々路面が荒れていてもハンドルが取られにくいなどのメリットもあります。
特に、テネレ700やCRF1100Lアフリカツイン<s>などが採用するフロント21インチ、リヤ18インチというホイールは、オフロード競技用のエンデューロレーサーなどにもよく採用されるサイズです(モトクロッサーはフロント21インチ、リヤ19インチが多い)。
おそらく、長年のトライ&エラーから、比較的長距離を走るエンデューロレースでの最適解として採用例の多い前後サイズなのでしょう。そして、それをオフロードも走る公道向けのアドベンチャーバイクにも採用。つまり、アドベンチャーバイクは、オフロードバイクにより近い性格を持ったモデルであるといえるのです。
スポーツツアラーなどが前後17インチを採用する理由
対して、先述したスポーツツアラーやクロスオーバーバイクでは、多くのモデルに前後17インチのホイールを採用しています。
これは、スーパースポーツやネイキッドなど、ロードスポーツモデルの多くが採用しているサイズ。舗装路での旋回性やブレーキ性能、高速道路など高い速度で巡航する場合の快適性などに優れているサイズとして、こちらも今では一般的となっています。
そういった意味で、スポーツツアラーは、あくまでオンロードで走ることを最優先し、舗装路でより軽快なハンドリングや乗り心地の良さを追求しているといえます。
なお、クロスオーバーバイクの定義ですが、こちらは、各メーカーでちょっと考え方が違うようです。
例えば、NC750X。このモデルについてホンダは、ロードスポーツモデルとしてのハンドリングを維持しながらも、アップライトなポジションや大型フロントスクリーンなど、長距離ツーリングでの快適性を出すために、アドベンチャーバイクのスタイルを採り入れているといった感じのようです。つまり、ロードスポーツとアドベンチャーのミックスということで、クロスオーバーと呼んでいるといえます。
また、GSX-S1000GXについて、スズキは性能面でも「スポーツツアラーとアドベンチャーを融合させた」モデルだといいます。
GSX-S1000シリーズの高性能な998cc・直列4気筒エンジンを搭載しつつ、ツーリング性能を向上させる新技術と装備を採用したのがこのバイクです。
特に、スズキ車で初採用となる電子制御サスペンションシステム「SAES(スズキ アドバンスド エレクトロニック サスペンション)」や、凸凹路面を検知し、サスペンションの制御量を自動で切り替えるスズキ独自のプログラム「SRAS(スズキ ロードアダプティブ スタビライゼーション)」などは、オフロード走行にも対応。これらにより、未舗装路での振動を抑えたスムーズな乗り心地と、オンロードでのダイナミックなスポーツ走行を両立するといいます。
おそらく、前後17インチを採用するGSX-S1000GXは、オンロードはもちろん、例えば、フラットなダートなどでも高い走破性を持つといえます。対して、フロント21インチとリア18インチのテネレ700やCRF1100Lアフリカツイン<s>などは、よりハードな悪路走行にも対応。また、フロントが21インチから19インチとなったCRF1100Lアフリカツイン アドベンチャースポーツESでは、よりオンロードの快適性をアップしているため、ちょっとクロスオーバーバイクに近づいた仕様になったといえます。
ちなみに、カワサキがアドベンチャー/ツーリングに分類する前述のヴェルシス1000SEやヴェルシス650も、ホイールは前後17インチ。なので、どちらかといえば、スポーツツアラーやクロスオーバーに近いモデルであるといえるでしょう。
また、これも先述したスズキのVストローム250も、同様に前後17インチのホイール。アドベンチャーの要素を取り入れたVストローム・シリーズのなかでも、オンロードでの快適性や乗りやすさを重視したモデルだといえます。
どんな道も走破できる幅広い対応力が一番の魅力
いずれにしろ、アドベンチャーバイクは、どんな道でも走ることのできる幅広い対応力が一番の魅力です。長距離ツーリングはもちろん、例えば、最近人気のキャンプでも、アドベンチャーバイクに乗ったライダーを見かけることも増えました。
キャンプ場には、途中の道がぬかるんでいたり、未舗装路のダート道があるところもありますが、アドベンチャーバイクなら、そんな道でも楽に走ることができます。また、オフロード走行のスキルとその気さえあれば、例えばハードな林道なども走破可能。
こうした多様なタイプのバイク旅を楽しめるアドベンチャーバイクが、今後も世界的に高い人気を維持することは間違いないでしょう。
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/381750/
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