「2024年問題」を解決するための最も確実な方法は、トラックドライバーの給料を大幅にアップし、待遇を改善することだ。

 給料が良くなり労働環境が改善されれば、黙っていても人は集まるし、ドライバー不足も解消するはず。

 トラックドライバーの給料の原資は運賃であるから、運賃交渉・価格転嫁がその鍵になるが、このほど中小企業庁が行なった価格交渉・価格転嫁の実態調査の結果が発表された。果してトラック運送事業の結果はいかに?

文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、図版/中小企業庁

中小企業庁の「価格交渉促進月間」フォローアップ調査結果

トラック運送におけるコスト上昇にともなう価格転嫁の状況。約60%が転嫁できたと回答するいっぽう、コストを100%転嫁できたのは8%ほど

 中小企業庁では、毎年3月と9月の「価格交渉促進月間」に合わせ、中小企業がどの程度価格交渉・価格転嫁できたかを把握するための調査を実施している。

 「価格交渉促進月間」とは、原材料費やエネルギー費、労務費等が上昇する中、多くの中小企業が価格交渉・価格転嫁ができる環境整備のため設定されたもので、今年3月で6回目となる。

 今回の調査では、各産業別の中小企業に対し、1.アンケート調査、2.下請Gメンによるヒアリングを実施。

 アンケート調査は、2023年10月~2024年3月末までの期間に価格交渉・転嫁の状況を問うアンケート票を約30万社に送付。回答企業数は4万6461社で、回収率は15.5%となっている。

 また下請Gメンによるヒアリング調査は、2024年5月15日~6月28日に約2000社の中小企業に実施している。

 ちなみに下請Gメンとは、中小企業庁が2017年から設けた取引調査員(約300名)のことで、全国の中小企業から取引適正化に関する悩み等を聴き取り調査する人員である。

二極分化の兆しが見える価格転嫁状況

 今回の調査の結果、価格交渉が行なわれた割合は59.4%であることがわかった。発注企業から交渉の申し入れがあり、価格交渉が行われた割合が増加するなど、価格交渉できる雰囲気が更に醸成されつつある傾向が見られることが特徴だ。

 肝心の価格転嫁率は46.1%だった。コストの増額分を全額価格転嫁できた企業の割合が増加したが、「転嫁できた企業」と「できない企業」で二極化する兆しも見えている。

 価格交渉が行なわれた企業のうち、約7割が労務費についても価格交渉が実施されたと回答している。

 いっぽうで正当な理由のない原価低減要請等によって価格転嫁できず、減額されたケースが全体の約1%存在している。これは下請法違反が疑われる事例であり、これらの情報も端緒として下請法の執行を強化していくとしている。

依然厳しいトラック運送業界だが明るい兆しも

 では、トラック運送事業者の実態はどうだろうか? 今回の調査では、産業別に大聞く分けて27分野の中小企業がリストアップされているが、ちょっと長くなるがまずはそれを列記してみよう。

 まず発注企業としての価格転嫁の実施ランキングでは、

 化学61.0%/製薬53.5%/機械製造51.9%/飲⾷サービス51.5%/電機・情報通信機器51.2%/⾷品製造50.0%/繊維49.9%/造船49.1%/鉱業・採⽯・砂利採取48.6%/電気・ガス・熱供給・⽔道48.3%/情報サービス・ソフトウェア47.1%/⼩売47.1%/⾃動⾞・⾃動⾞部品47.1%/卸売47.0%/広告46.9%/建設46.9%/⾦属46.2%/紙・紙加⼯45.1%/建材・住宅設備44.4%/⽯油製品・⽯炭製品製造43.9%/印刷43.5%/不動産業・物品賃貸42.1%/通信40.8%/廃棄物処理39.1%/⾦融・保険35.3%/放送コンテンツ33.7%/トラック運送28.1%/(その他44.3%)。

 この順番は、価格交渉が行なわれ価格転嫁(値上げ)が認められた中で、どれくらいの割合で転嫁が認められたか高い方から列記した順位、あとに続くパーセンテージは価格転嫁率である。27分野中トラック運送は唯一の20%台で最下位となっている。

発注企業における価格転嫁率の業種別ランキング。トラック運送の下請け等への価格転嫁率は全業種中で最下位

 次に受注企業として価格転嫁してもらえたかのランキングでは、

 製薬60.0%/化学58.6%/卸売55.9%/機械製造54.2%/電機・情報通信機器51.0%/⼩売49.7%/繊維49.5%/⾷品製造49.3%/紙・紙加⼯47.7%/印刷47.4%/建材・住宅設備47.0%/⾦属46.4%/情報サービス・ソフトウェア46.3%/建設46.2%/広告45.8%/電気・ガス・熱供給・⽔道44.7%/造船43.7%/⾃動⾞・⾃動⾞部品43.2%/鉱業・採⽯・砂利採取41.2%/⽯油製品・⽯炭製品製造40.9%/通信38.5%/⾦融・保険37.1%/不動産業・物品賃貸36.5%/放送コンテンツ35.3%/廃棄物処理32.8%/トラック運送32.2%/飲⾷サービス25.9%/(その他42.7%)。

 となっており、前回調査から約4ポイント上昇したがトラック運送が低い傾向は変わらず。

 さらに哀しいデータもある。価格交渉が行なわれたものの、まったく転嫁できなかった企業の割合がトラック運送は19.7%と、これも27位で最下位なのである。

まったく転嫁できなかったトラック運送企業の割合は19.7%。前回よりも約9%減少し大きく改善したが、順位としての変動はなくこちらも最下位だ

 アンケートに回答したトラック運送企業からは、「受注企業から価格交渉の申し入れがあった。また、価格転嫁の対象も労務費、燃油サーチャージ等、項目ごとに設定してもらっている」「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する方針を発注企業側から提示してもらった。その結果、円滑に価格交渉を進めることができた」といった嬉しい声があがったいっぽうで、「10年以上価格が変わらず、何度も価格交渉を申し入れているが、返答がない」「労務費、エネルギー費以外に荷役業務の費用負担、待機時間、高速料金等についても価格交渉をしたが、聞き入れてもらえなかった。価格交渉の後、発注量を減少させられた」といった酷い話も聞こえてくる。

 ただ、運賃交渉・価格転嫁において厳しい状況に置かれているトラック運送業界だが、少しずつであるが改善の傾向が見え始めている。

 前述の通り中小企業庁の調査は半年ごとに行なわれているが、交渉に応じる発注企業は確実に増えているし、価格転嫁の実施状況も前回より約4%~7%増えている。さらに、まったく価格転嫁できなかったケースは9.2%も減っているのだ。

 つまり、聞く耳持たない発注企業は確実に減ってきているし、あとは下請GメンやトラックGメンも味方につけて粘り強く交渉するのみ。そこにはトラックドライバーの生活がかかっているし、日本の物流の未来がかかっているのだ。

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