2024年3月から販売が開始されたホンダ WR-V。インド市場で「エレベイト」として販売されているエントリーSUVの日本仕様車だ。正直期待せずに登場を待っていたクルマ好きたちも、意外と魅力的なWR-Vに興味を抱いている。

※本稿は2024年5月のものです
文/テリー伊藤 写真/平野 学
初出:『ベストカー』2024年6月26日号

■幸せなファミリーが思い浮かぶ手頃な3ナンバーサイズ

2024年3月から販売が開始されたホンダ WR-V

 先日、仕事仲間とサイゼリヤに行って、あまりの安さに驚いた。

 腹いっぱい食べて飲んで、ひとり1000円くらいなのだ。ワインだって一杯100円。もちろん味は最高で、なんの文句もない。

 ホンダ WR-Vに乗ると、サイゼリヤでドンチャン騒ぎしている家族の姿が思い浮かぶ。しこたま食べて騒いで、帰りに100円均一ショップで爆買い。タワーマンションには住んでいないかもしれないが、とても幸せなファミリー像である。

 今回乗ったWR-Vは中間グレードの「Z」で、価格は234万9600円。最も安い「X」なら209万8800円と軽自動車並みの価格だ。その金額で3ナンバーサイズの新型SUVが売っているというのはなかなかインパクトがある。

 個人的には扱いやすい5ナンバーサイズが望ましいが、堂々と見える3ナンバーを求める層も多いだろう。つまり、WR-Vは「一般大衆に、安く3ナンバー車を提供する」ためにインドから逆輸入しているクルマなのである。

 それだけに、ヘンに力が入っていないのがいいところである一方、「SUVの常識を変えてやる!」というような気概がないのは確かだ。長打は狙わず、まずは出塁。派手さはないが、大事なことである。

 エンジンは直4、1.5LのガソリンNAで118ps/14.5kgm。ハイブリッドではない普通のエンジンだが、走らせて不満などないし、モーターが絡んでこない分、逆に自然な感覚で走れるという利点もある。

 そもそも、ガソリンさえあればどこまででも走れるのはガソリンエンジンもハイブリッドも同じことだ。これで充分である。

 シートがよくて、後席の居住性もいい。若者が仲間とドライブするのに最高だし、冒頭に述べたとおり、家族で乗るのも似合う。無理をしてアルファードやランクルを買う人がいれば、割り切ってWR-Vにする人もいる。それがクルマ選びの楽しさだ。

■WR-Vは自由に描けるキャンバスだ

1.5Lガソリン+CVTの走りは特筆すべき点はないが、充分な実力。まったく不満なしだ

 この価格でこの出来なら文句のないクルマなのだが、少し「ハッピー」が足りないような気もする。WR-Vはちょっと上級な「エントリーカー」という位置付けなのだろうが、もう少しハジけてもいいんじゃないかと思うのだ。

 具体的には、SUVなのに海や雪山の匂いがほとんどしない。サーフボードやスキー、スノーボードを載せて走るイメージがないのである。

 さすがにそこはなんとかしたいところだ。別にアウトドアイメージにこだわらなくても、かつてホンダにはシビックカントリーというオシャレなワゴンがあったが、ああいう方向もいいだろう。

 また、2018年にスマートがミッキーマウスとコラボした特別限定車を出したこともあって、今、中古車市場で大人気だが、そういう方向でもいい。要するにWR-Vは「遊びの素材」に最適なのではないかということだ。自由に描けるキャンバスということなのだ。

 センスのいいドレスアップカーを連発しているホンダアクセスが本気を出せば、ノーマル車とはガラリと変わったWR-Vが作れるだろう。もとが安いから、多少高価になっても許容範囲のはず。ぜひ、オシャレでセンスのいいドレスアップカーを作ってほしい。

 吊るしで乗ってもいいし、ドレスアップモデルを待ってもいいし、もちろん、自分好みに仕上げていってもいい。WR-Vは遊び甲斐のあるクルマということだ。正直に言ってあまり気にしていなかったクルマだが、「掘り出し物」を見つけた気分である。

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