シリンダーヘッドカバーやクランクケースカバーなど、主にエンジンパーツのカスタムペイントに使われることが多いのが「結晶塗装」です。立体感のあるちぢみ模様は、他の塗装では表現できない個性があり、スペシャル感の演出に最適です。ここでは結晶塗料の特長や、この塗装を行うための結晶塗料に関して、実際の施工方法を通して説明します。

     

通常塗装とは正反対。凹凸ができて正解なのが結晶塗装

 

 

どんな場面でも、外装パーツに施工する塗装はいかに表面を滑らかに仕上げるかに神経を注ぐものです。流行のマットペイントでも、ツヤがないのと表面がザラザラなのは意味が異なります。
これに対して表面に凸凹がありザラザラとした仕上がりになって初めて本領が発揮されるのが結晶塗装です。シリンダーヘットカバーやクランクケースカバー、ハーレーダビッドソンの一部の機種ではクランクケース自体にも施工される結晶塗装は、ポリッシュ仕上げや他の一般的な塗装では出せない個性を与えることができます。
自動車の世界でも1970~80年代のスペシャリティモデルやスーパーカーのシリンダーヘットカバーは黒や赤の結晶塗装仕上げというのが定番で、高性能をアピールする象徴でした。
塗装の表面に無数のシワが寄るのは剥離剤を使うときに目にする光景ですが、結晶塗装は塗装直後はツルツルで滑らかな表面が、加熱することで縮れて、その状態で硬化します。ちぢみ模様はランダムで、模様の大きさは塗膜の厚さによって決まります。
加熱によって塗膜が縮む際、膜厚が厚いほど周囲の塗膜が集まって凸凹による陰影が大きくなりちちみ模様がはっきりと浮かび上がります。
塗膜が薄くても加熱すれば縮みますが、その際に集まる塗料が少なければ凹凸は小さく、どちらかと言えば平滑がちぢみ模様となります。
こうした特性があるため、ちぢみ模様の大きさを人為的にコントロールするのは簡単ではありません。大量生産を行う製造現場であれば、塗装用のスプレーガンの吐出量や塗装スピードによって膜厚を揃えることもできますが、部分的に剥がれてしまった結晶塗装を部分補修で塗装してちぢみ模様を揃えるのは奇跡に頼るしかありません。つまり結晶塗装されたパーツを補修する際はいったん全面的に剥離して、新たに結晶塗料を塗り直すという手段しかない、というわけです。

     

結晶塗料はなぜ縮むのか? ちぢみ模様の鍵を握るのは硬化温度

 

 

 

 

愛知県東海市のカーベック(https://www.carvek.jp/)が取り扱っている結晶塗料は硬化剤を使用しない一液性で、スプレー缶とガン塗装用の原液の2種類を販売しています。
色の種類は黒、赤、黄、青の4色で、ガン塗装用の原液は異なる色を混ぜ合わせて独自の色を作ることもできます。
他の塗料と違って結晶塗料が縮む理由は、塗料中に加熱によって収縮する樹脂が含まれているからです。はじめからそのように設計された塗料なので、加熱すれば必ずちぢみ模様が発生します。
ただし前述の通り、模様の大きさは塗膜の厚さに比例します。
「何度塗って焼いてもちぢみ模様が小さい」という場合、原因の大半は焼付乾燥前の塗膜の薄さにあります。焼付温度や焼付時間を変えても、そもそも塗膜が薄ければ「ちぢみ代」が限定されてしまうため、凹凸は大きくなりません。
焼付温度と焼付時間の関係も重要です。カーベックが販売している結晶塗料は、パーツ温度が120℃まで上昇してから20分の連続加熱でちぢみ模様ができるように設計されています。そのため、カーベックでは乾燥器も販売しています。
塗料を買った上で乾燥器まで揃えるのは難しいということで、段ボール箱にドライヤーを入れた乾燥箱で結晶塗料の硬化を試みた人や、塗装した部品をドライヤーで直接加熱した人もいますが、局所的に120℃に達した部分の塗膜はちぢれるものの、全体の模様を均一に仕上げることはできませんでした。
反対に、塗膜を厚くすればちぢみ模様は大きくなりますが、一度に厚く塗り重ねると結晶塗料に含まれている溶剤の揮発が阻害されることがあります。塗装後に120℃で加熱すると、塗料の硬化は表面から進行します。塗膜が厚すぎると内部の溶剤が揮発する前に表面の硬化が始まってしまい、表面は乾燥しているのに指で押すとずっとブヨブヨした状態が続いてしまうのです。
こうした塗装不良を予防するには、塗り重ねる途中で常温で溶剤が揮発するための時間を確保した上で3回程度重ね塗りを行うと良いでしょう。結晶塗料をスプレーしてからしばらく時間が経つと、表面のツヤは徐々に退いていきます。
しかし加熱しない限りちぢみを伴う硬化には移行しないので、ツヤが退ける=溶剤がある程度揮発するのを待って塗り重ねることで、120℃で本乾燥を行う際の溶剤閉じ込みを予防できます。

純正部品がカスタムパーツに変貌する結晶塗装の実例

 

 

結晶塗装にどれほどの効果と魅力があるのか、4気筒エンジンのシリンダーヘッドカバーをサンプルに実際の塗装工程を紹介します。
結晶塗装を行う際は、古い塗膜が残っていると結晶塗料の溶剤と反応して仕上がりに影響を与えるリスクがあるため、剥離剤やサンドブラストで古い塗装を剥離して下地を整えます。用意したヘッドカバーは表面に腐食痕があってあまり程度が良くないため、ウレタン塗料で塗装する場合は耐熱パテやサフェーサーで凸凹を埋めなくてはなりません。
しかし結晶塗装は仕上がり表面が凹凸模様になるため、素材表面のコンディションが良くなくてもあまり気にする必要はありません。ただしアルミパーツの腐食痕がシミのようになっている場合、下地が透ける傾向にある赤や黄色などでは硬化後もシミが見える場合もあるので、心配な場合は焼付硬化タイプのハイブリッドプライマーで隠しておくと良いでしょう。
またスピードメーターやタコメーターなどのプレス成形カバーが凹んでいるような、形状自体が変化しているものには対応できませんが、クロームメッキ仕上げのメーターケースがサビであばたになっているような場合、ボロ隠しとカスタムを兼ねた結晶塗装は最適な塗装方法と言えます。

 

 

サンドブラストで下地を整えたシリンダーヘッドカバーは、プライマーやサフェーサーなどの下地塗装を行うことなく、いきなり結晶塗料で塗ることができます。今回はスプレーガンを使用しましたが、これは缶スプレーでも同様です。
どんなパーツにも共通しますが、塗装には「塗りやすい部分」と「塗りづらい部分」があることを意識して作業することが重要です。このシリンダーヘットカバーの場合、カバー上面は塗料もよく付着しますが、プラグホールに面する内側の縁はスプレーが届きづらい部分になります。
したがって、塗装する際は縁の部分に塗料を載せておいてから上面を塗ることで、塗りムラや透けのない仕上がりとなります。特に結晶塗装の場合、塗膜の厚さのムラが結晶模様の大きさのムラに直結します。
4気筒エンジンのシリンダーヘットカバーの場合、上面のちぢみ模様がしっかり出ると単体での見栄えが良いのは確かですが、実際にエンジンに組み付けた際には両端の側面から左右それぞれ1気筒分ほどしか見えないことも多いので、側面や縁部分にも充分な膜厚になるよう塗り重ねます。

 

 

常温乾燥を挟みながら重ね塗りを行った表面はウェット状態で、徐々にツヤが退け始めたら120℃に設定した乾燥器に移動して本乾燥を行います。繰り返しになりますが、結晶塗装ならではのちぢみ模様は塗膜の厚みで決まるため、乾燥中に細工できることはありません。
ただし黒以外の赤、黄、青色に関しては、乾燥温度を高くすることで色味が濃くなる傾向があるため、120℃より高温で焼き付けると暗めに仕上がります。
昔から結晶塗装を知っている人にとっては黒か赤という印象が強いと思いますが、カーベックの4色の結晶塗料はカスタムペイントにも有効です。絶版車のレストアから現行車のカスタムまで、幅広いジャンルで活用してみることをお勧めします。

 

 

 

 

POINT  

 

  • ポイント1・結晶塗料は加熱によって収縮樹脂を使用することで独特の模様を描く
  • ポイント2・加熱前の塗膜が薄いと結晶模様が小さくなり、塗膜が厚いと陰影の深い大きな模様ができる
  • ポイント3・ちぢみ模様を均一に仕上げるには、パーツ全体の温度をムラなく120℃まで加熱することが重要

 

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/maintenance/383368/

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