スポーツイメージもさることながら、女性向けの可愛らしいクルマというイメージが沸いてくる名車スターレット。単一車種で、これだけイメージが違うクルマも珍しい。今回は様々な顔を持つスーパーモデル、スターレットを振り返っていきたい。
文:佐々木 亘/画像:ベストカーweb編集部
■名車パブリカのスポーツモデル?スターレットの基盤を作った昭和の時代
スターレットが誕生したのは1973年。パブリカ・スターレットの名で歩み出した。以降、2代目・3代目と、スポーツ色の強いモデルとなり、ホットハッチとして愛される。国内外問わずレースへの参戦も多く、モータースポーツファンが人気を下支えしていた。
3代目モデルのカタログ表紙には「ぴりっと、イダテン」の文字と、ディフォルメされた唐辛子が走る様子が描かれている。最もスポーティなターボSを「辛口ターボ」と呼び、「快速、快感、かっとび」のSiリミテッド、キャンバストップが設定されたSOLEILは「甘口」と表現されているのも面白い。
1つのモデルの中に、スポーツ、コンフォート、ラグジュアリー、エコノミーという様々な顔を持たせたスターレット。どのモデルも中途半端ではなく、本気で作り込まれているから、老若男女問わず大人気となったのだろう。
■スポーツスターレットの集大成グランツァ
平成になってもスターレットの人気は衰えなかった。1989年に登場した4代目は、約7年間で69万台以上を販売している。そして国内スターレットの最終型となる5代目では、スポーツモデルを「スターレット・グランツァ」という単独モデルに格上げし、走りの生命を吹き込んだ。
最も刺激的なグランツァVには、6,400回転135馬力を叩き出す1.3Lターボエンジンが載る。このターボエンジンには、2モードターボシステムが搭載された。これは1速過給圧自動制御が備えられたもので、駆動系の保護とホイールスピンを防ぎ、安全性に配慮した機構だ。
ビスカスカップリングLSDはもちろんのこと、リアハッチを開けるとリアトライアングルパフォーマンスロッドを目視できる。駆動系からボディ剛性、サスペンションの動きまでを、妥協無く緻密に計算し尽くすのがスターレットの信条であろう。
エクステリアではリアスポイラーにエアフロー効果をプラス。ダウンフォース発生とリアガラスに水滴が付きにくくなっている。内装ではホワイトメーターが気分を高め、メーカーオプションでレカロシートも用意していた。
1.3Lのコンパクトスポーツにここまで本気だったトヨタ。GRヤリスもいいけど、グランツァのようなもっと身近にあるコンパクトスポーツを、また作り出してほしいものだ。
■甘口スターレットはルフレとカラットでより美しく機能的に
5代目スターレットの通常モデルには、ルフレ(REFLET)というサブネームが付けられた。安全性、快適性、運転のしやすさと、外も中も満点を目指すクルマづくりが特徴的だ。
FFモデルの最小回転半径は4.4mと驚異的な数値で、全長3,760mm・全幅1,625mmのコンパクトなボディをより引き立てている。抗菌防臭・防汚加工のシートを備え、燃費は10・15モードで19.8Lと立派な数値だ。隙のない作り込みは、方向性は違えど、グランツァと同様である。
また、廉価モデルも展開するコンパクトカーでありながら、上級モデルには電動式ムーンルーフをオプション設定するのも粋な考え。スターレットは、小さくても、安くても、我慢しなくていいクルマだ。最近、こういうクルマが減った気がする。
もっとオシャレに決めたい人には、少しレトロ調なカラット(Carat)も展開する念の入れよう。可愛らしさと美しさにも、スターレットは妥協しない。
スターレットの後継は、言わずと知れたヴィッツ(現在はヤリス)。GRヤリス、ヤリスクロスとスポーツ路線は継承されているが、甘口路線の引継ぎがまだ終わっていないのでは。
一口にスターレットと言っても、乗る人・使う人によって、様々なイメージが生まれてくるクルマだった。カメレオンのように色を変えられる、こういうクルマも今では珍しい存在であろう。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。