フォーミュラEの「シーズン10」(2023/2024シーズン)が2024年7月20、21日のロンドン2連戦で終了し、ポルシェのパスカル・ウェーレインが初のドライバーズタイトルを獲得した。最終戦(第16戦)の優勝は日産のオリバー・ローランド。

◆日本初開催が実現したメモリアルシーズンのクライマックス

電動フォーミュラカーの最高峰シリーズ「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」。2014/2015シーズンをシーズン1とするフォーミュラEの歴史(世界選手権化されたのはシーズン7から)は今季(2023/2024シーズン=開幕戦は24年1月)、ひとつの節目であるシーズン10を迎え、日本にとっては待望の初開催が今年3月に東京で実現したという意味でも記念すべきシーズンになった。

フォーミュラEでは歴代、最後の最後にチャンピオン争いが劇的な決着を迎えることも少なくなかったが、今季は7人にドライバーズタイトル獲得の可能性が残された状態で最終のイギリス・ロンドン連戦(第15、16戦)へと突入。

ただ、現実的な可能性ということになると、上位の3人、ポイントリーダーのニック・キャシディ(JAGUAR TCS RACING)、12点差の位置で並んで追うミッチ・エバンス(JAGUAR TCS RACING)にパスカル・ウェーレイン(TAG Heuer Porsche Formula E Team)らの争いとみられていた(1戦あたりの個人最大得点は29点)。

◆第15戦でポルシェのウェーレインがランク首位に浮上

まずは20日の第15戦である。予選と決勝を同日開催するのが原則のフォーミュラE、予選では独特の方式が採られており、まず2組に分かれてのグループ予選を戦ったのち、各組上位4人ずつ計8人が1対1のトーナメント戦で上位グリッドを争う。東京大会でも大きな話題になった方式だ。

第15戦の予選では#9 エバンスが勝ち抜いてポールポジションを獲り、3点を追加、僚友のランク首位#37 キャシディに9点差と近づいた。一方の#37 キャシディは17番グリッド発進という苦境に。

そして第15戦決勝、難コース多きフォーミュラEのなかでもトリッキー感は最上級といった印象の特設コースにおける週末1戦目は予想以上に荒れた。

乱戦を制したのは3番グリッド発進の#94 ウェーレインで、ポイントランキング首位に浮上。ポール発進だった#9 エバンスは2位に敗れ、ランキングでも3点差の2位ということになった。#37 キャシディはスタート位置から10ポジションアップになる7位という決勝リザルトを獲得。ランキング3位に後退はしたものの、首位とは7点差の位置に留まっている。

翌日(21日)の最終第16戦には、この3人だけが王座獲得の可能性を残して進むこととなった。誰が王者になってもフォーミュラE・ドライバーズタイトル初戴冠という構図の最終決戦である。

◆変わり続ける形勢、キャシディが最終戦のポールを獲得

ポルシェの#94 ウェーレイン(180点)をジャガー勢の#9 エバンス(177点)、#37 キャシディ(173点)が追う構図となって迎えた最終第16戦の予選、ここで#37 キャシディが再び流れを逆転させるようなポールポジション獲得をやってのけた。

これでポイント首位#94 ウェーレインに4点差(176点)と迫ったことはもちろん大きいが、実は#37 キャシディ、予選の前のフリー走行ではマシントラブルが発生、ほとんど走れずになんとかマシンを修復しての予選参加だったという。苦境を覆してみせたことは、点差の縮小以上に大きいかもしれない。

でも、#94 ウェーレインと#9 エバンスも予選トーナメント準決勝まで進むさすがの力量を見せており、決勝グリッドはポールに#37 キャシディ、2番グリッドに東京戦ウイナーの#7 マキシミリアン・ギュンター(MASERATI MSG RACING)、3番グリッドに#9 エバンス、4番グリッドに#94 ウェーレインという緊張感みなぎる布陣となった。

◆3人の王座争いにフォーミュラE独特のルールが影響!?

王者候補3人、勝った者が無条件に新チャンピオンで、その3人がすべてグリッド2列目以内からのスタートという究極的な接戦状況で迎えた最終第16戦決勝は、比較的クリーンな幕開けをしたものの、すぐに後方でのアクシデントによるセーフティカー導入が連発。ただ、上位には大きな混乱がなく、序盤のうちに王者候補3人がトップ3を占める展開となる。

しかし、最高のシチュエーションで迎えたはずのチャンピオン決定戦は、現在のフォーミュラE特有の「アタックモード」という要素によって不穏な雰囲気を纏う流れになっていってしまう。

アタックモードは一時的に最大電力を上げられるモードなのだが、これを起動するには指定箇所、コース上のレコードラインより外の距離的に損する部分を通らなければならない(アタックモードはレース中に規定回数、時間を使い切ることも求められる)。そのため、接戦のレース展開においては起動時に順位を下げる可能性が高く、一概にはいえないがネガティブな“消化要件”的側面も有している。

ほぼ同条件のチャンピオン候補ふたりが最前線で走っているジャガーは、この状況ならではの難しさに直面しているようであった。キャシディとエバンスに不公平がないようにアタックモードを使わせなければならないが、ウェーレインも近くを走っているため、思惑通りにことが進むとも限らないからだ。

そのなかで、早めにアタックモードを(ピットからの指示で)使って3番手に控える格好になっていたポール発進の#37 キャシディが、未消化のまま直前を走るライバルふたりよりも有利に思える戦況でレースは後半に入る。

ただ、前のふたりのアタックモード使用はいつになるのか、僚友エバンスとの公平性は担保されるのか、ふたりの使用タイミングによっては自分がトップに出られない可能性もある、といった疑問を抱えて走っていたであろう#37 キャシディの胸中を考えると、決して彼が有利ともいえない微妙な戦況だったかもしれない。

◆混乱の末、タイトルは誰の手に…!?

電力消費も考慮したペース判断もあるなかで数珠つなぎの展開が続いた。そして、28周目にレースが大きく動く。

#37 キャシディが#22 オリバー・ローランド(NISSAN FORMULA E TEAM)に先行されて4番手に下がる。この局面、他の後続勢も一気に#37 キャシディを取り囲むように押し寄せてきており、最終コーナー付近の密集戦のなかで#37 キャシディは追突を受ける格好になってタイヤを破損、そのまますぐ近くのピットロードへ…。この段階で#37 キャシディの王座獲得の望みは事実上、絶たれた(下位に転落してレース復帰、最終的には再度ピットインしてマシンを止めている)。

様々な思惑が飛び交うなかで実に微妙な位置を走らされていたともいえる#37 キャシディ、最後の最後に再び彼から運が離れていってしまった、そんな印象の顛末だった。日本での活躍歴が長く、日本のファンも多いキャシディだが、日本初開催シーズンでのフォーミュラE世界王座初獲得はならなかった。

混迷深まるなか、#9 エバンスが王座に手をかけたようであった。しかし彼はアタックモードの起動がうまくいかなかったようで、今度は#94 ウェーレイン優位に転じる。結局、ジャガー勢はふたりそろってほぼ同条件で王座争いに参加していたことが仇となって、アタックモードに振りまわされて沈んでしまった、そんな展開であった。

最終戦の優勝は#22 ローランドがつかむ。そして2位でゴールした#94 ウェーレインがドライバーズタイトルを獲得することとなった。#9 エバンスは3位でゴール(ランキングは2位)。

レース表彰式の後のチャンピオンシップ表彰式、ランク2位エバンスと同3位キャシディの登壇は、まったくもって悲劇的でしかなかった。その心中は察するにあまりある。

フォーミュラEは科学とスポーツが融合したハイレベルカテゴリーだが、このところ、融合のバランスが少々うまくいっていないように思える面がある。そのことが最後の最後、最高の舞台が整ったところで少々興を削ぐことにつながったのではないだろうか。ルールづくり等々に再考が求められる、そんな気にさせられる終幕劇だった(あくまで私見)。

◆ウェーレイン初戴冠、最終戦の勝者は日産のローランド

もちろん王者には最大の賛辞が与えられて然るべきであり、実際、実質単騎でジャガー勢2台に立ち向かったウェーレインと陣営の戦いぶりは見事であった(単騎ゆえの有利さもあったとは思うが)。

フォーミュラE・シーズン10のチャンピオン、ドイツのパスカル・ウェーレイン(Pascal Wehrlein)は29歳。DTM王者になるなどしてF1まで上り詰め、高い評価を受けてはいたが、継続的なチャンスには恵まれず、戦場を移した。自身初のフォーミュラE世界王座獲得を果たし、喜びをこう語っている。

「どこから話を始めたらいいのか、わからないくらいだね。ハードなレースだった。(予選で自分より上位の)ジャガー勢の前に出なければならなかったわけで、アタックし続けなければならないことがハッキリしていたんだからね」

「ロンドンのコースは、我々のマシンに向いているとはいえないと考えていた。それだけに、我々はこの週末、我々のマシンにできる最大限以上のことができるように集中して取り組む必要があったんだ。そして我々はそれができたと思う。昨日、今日と、素晴らしいペースを発揮することができた。チームのみんなを誇りに思う」

最終戦の優勝は#22 ローランド。彼もチーム(NISSAN FORMULA E TEAM)も今季2勝目だが、前回の勝利はポディウムセレモニー後の繰り上がりであり、実質今季初勝利のような喜びを最終戦で味わうこととなった。日産自動車の内田誠社長が現地ロンドン特設コースに来訪しているなかでの勝利でもあった。

◆2025年の東京戦はダブルヘッダー、5月17日と18日

チーム部門タイトルはエバンスとキャシディを擁したJAGUAR TCS RACINGが獲得。NISSAN FORMULA E TEAMは4位だった。

また、今季途中から新設されたマニュファクチャラー部門タイトル、同じパワートレインを使うチームが“連合”して争う図式のタイトルもジャガーが獲得し、初代王者の座に就いている。2位はポルシェ、3位に日産。

そしてフォーミュラEの来季、ヤマハも参入する2024/2025シーズン(シーズン11)は2024年12月開幕予定となっており、全17レースが現段階でラインアップされている。

今年3月30日に初開催を実現した東京では2年連続の開催が2025年5月に予定されており、しかも今度は2レース実施(5月17日と18日)となる。大きな盛り上がりを見せた初回開催に続き、大会のさらなる隆盛はもちろんとして、環境問題等への理想的な波及効果も期待されるところだ。

(*本稿におけるリザルト等は日本時間2024年7月22日17時の段階での公示・情報等に基づく)

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