2024年6月28日に発売された新型フリードは、7月初旬の時点で、受注台数は約2万4000台と幸先のいいスタートを切ったようだ。さて、酷暑日が続いているさなかだが、今年2月に極寒の北海道・鷹栖テストコースで行われた新型フリードAWDの雪上試乗会のもようをお届けしよう。
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部、ホンダ
■酷暑日が続いているが極寒の雪上試乗会のもようをお届け!
2024年6月28日に発売された新型フリードは、7月初旬の時点で、受注台数は約2万4000台と幸先のいいスタートを切ったようだ。e:HEVの割合は85%、最も人気のグレードはフリードAIR EXで68%、フリードクロスターは27%とのこと。
さて、新型フリードは全長を4310mmに抑えたコンパクトミニバンで、パワーユニットは直列4気筒1.5LのNAのガソリンエンジンと、ハイブリッドのe:HEVを用意する。
ボディタイプは、従来の標準ボディに相当するエアーと、SUV風のクロスターがある。エアーは全幅が1695mmの5ナンバー車で、クロスターは1720mmに拡幅されて3ナンバーサイズになる。
駆動方式は、大半のグレードに前輪駆動の2WDと4WDを設定した。そこでフリードの4WDを雪上で試乗したので、メカニズムを含めてガイドしたい。
フリードの4WDシステムは、リアルタイムAWD(4WD)と呼ばれる。電子制御される多板クラッチを使って、前後輪に走行状態に応じた最適な駆動力を配分する。
多板クラッチの制御は、アクセルの操作状況、ホイールの回転速度、トランスミッションの作動状態、ステアリングの操舵角、車両が左右方向に回転しようとするヨーレートなどにより、総合的に行われる。
ちなみにハイブリッドの4WDには、後輪を前輪とは別のモーターで駆動するタイプも多い。この方式では、駆動力を前後輪に振り分ける多板クラッチ、駆動力を車両の前側から後輪へ伝えるプロペラシャフトなどが不要になるが、ホンダでは「走行性能を高める上で有利なシステムはe:HEVでもリアルタイムAWD」としている。後輪を別個のモーターで駆動する方式ではないから「余裕のある駆動力を後輪にも常に伝えられる」という。
■e:HEV×リアルタイムAWDの性能は?
雪上で試乗した新型フリードのグレードは、e:HEVクロスターの4WDであった。e:HEVでは、直列4気筒1.5Lエンジンは主に発電機を作動させ、その電気を使ってモーターを駆動する。駆動力は前述の通り、電子制御式の多板クラッチで前後輪に分配される。
リアルタイムAWDは、雪道の平坦路などでは、重量配分に合わせて前輪に60%、後輪に40%の駆動力を配分する。走行状態によっては、最大で50%の駆動力を後輪へ配分できる。先代フリードのリアルタイムAWDに比べると、新型では後輪に配分される駆動力を10%高めた。
試乗を開始すると、ハイブリッドのe:HEVとリアルタイムAWDの親和性が高いことに気付いた。先代フリードの1モーターハイブリッドが搭載した7速ATを使うi-DCDと、新型のe:HEVではメカニズムが大きく異なるためだ。e:HEVでは、主にモーターが駆動を担当するから、アクセル操作に対する加減速の反応が機敏になる。加速の仕方も滑らかに感じる。
このe:HEVの性格と、リアルタイムAWDの相乗効果で、新型の走行安定性は先代型以上に向上した。新型では、雪上の発進でアクセルペダルを踏むと、舗装路に近い感覚で安定して発進する。
この背景には、4WDシステムの制御変更もある。先代型は燃費のことも考えて、前輪が一瞬空転してから多板クラッチを強く締結させて、後輪へ駆動力を伝えた。それが新型では、発進時から4WDの状態を保つために前輪の空転も生じにくい。4WDの優れた安定性を常に発揮できる。
発進後の制御も異なり、先代型のi-DCDでは、2組のクラッチを使った有段式の7速ATが自動変速を行った。乾燥した峠道などでは、ダイレクト感のあるスポーティな運転を楽しめたが、滑りやすい雪道では状況が変わる。
Dレンジで走っていて、雪道のカーブを曲がっている最中に変速が行われると、駆動力の変化が安定性に微妙な影響を与える場合もあるからだ。その点でモーター駆動が基本のe:HEVは、無段変速だから、走行安定性がi-DCDのような影響を受けることもない。
4輪の制御では、アジャイルハンドリングアシストも走行安定性を向上させた。アクセルペダルを踏みながらカーブを曲がっている時でも、必要に応じて電子制御により4輪のブレーキを独立作動させ、ステアリング操作に対する走りの正確性を高める。
このほか新型フリードは、先代型に比べてボディ剛性も高まった。ステアリング操作に対する車両の動きが一層正確になり、4輪の接地性も向上したから、4WDによる走行安定性を高める効果もさらに際立つ。
以上のように新型フリードのリアルタイムAWDは、4WDシステム自体の進化に加えて、先代型のi-DCDからe:HEVというハイブリッドの発展、熟成されたアジャイルハンドリングアシスト、ボディ剛性の向上やサスペンションの新たなセッティングなど、車両全体の機能を見直したことで走行安定性を高めた。
そのためにテストコースのさまざまな場面で、新旧モデルの違いを実感できた。新型では、前述の通り発進時から空転が生じにくい。アクセルペダルを踏みながらカーブを曲がる時も、旋回軌跡を拡大させにくい。
雪上でも操舵角に応じて正確に回り込む。また危険を避けるために、ステアリングホイールを回しながらアクセルペダルを戻す操作をしても、後輪の接地性が高いから挙動を乱しにくい。
先代型の場合は、カーブに差し掛かってステアリングホイールを内側へ回しても、雪上では新型に比べて車両の進行方向が変わりにくかった。そこでさらに内側へ回すと、後輪が外側へスライドして、車両が内側に向きすぎてしまう。
その結果、ステアリングホイールを戻して修正操作を行ったが、新型ではステアリング操作通りに車両の進行方向が変わるため、先代型のようなムダな動きも生じにくい。
そして新型フリードは、前輪駆動の2WDでもドライバーの安心感を高めており、4WDではその特徴がさらに強まる。つまり4WD仕様を運転すると、新型フリードの良さを明確に実感できるわけだ。その優れた特性は、雪道に限らず舗装路でも発揮される。
■価格は2WDから23万1000円高でコスパもいい!
ちなみにライバル車のシエンタハイブリッドの4WDは、E-Fourと呼ばれるタイプで、後輪を前輪とは別のモーターで駆動する。リアモーターは駆動力が低く、雪上では後輪の接地性に差が生じる。もともとE-Fourは、雪道の坂道発進をサポートする4WDになるからだ。以前、シエンタE-Fourを雪道で試乗した際には、坂道発進で前輪が若干空転してから登り始めたことを覚えている。
その代わりシエンタのE-Fourは、燃費の悪化が少ない。試乗したフリードe:HEVクロスターの6人乗りは、2WDのWLTCモード燃費が25.3km/L、4WDは21.1km/Lだから、4WDは2WDに比べて17%悪化する。それがシエンタハイブリッドZは、2WDが28.2km/L、4WDは25.3km/Lだから10%の悪化に収まる。
つまりフリードe:HEVのリアルタイムAWDは走破力を重視しており、シエンタハイブリッドE-Fourは燃費に重点を置いているのだが、本場の雪国で使うユーザーの立場から見れば、フリードの高い4WD性能からくる雪道での安心感を考えると、燃費の差は相殺されるのではないだろうか。
価格にも触れておきたい。フリードe:HEVクロスター(6人乗り)の場合、2WDの価格は320万6500円で、4WDは343万7500円だ。4WDは2WDに比べて23万1000円高いが、4WDには、リアデフロスター、撥水ヒーテッドドアミラーなどをセットにしたコンフォートビューパッケージとPTCヒーターが標準装着される。
そうなると4WDの正味価格は約19万円だから、走行安定性の向上も考えるとかなり買い得だ。雪道を走る機会が少なくても、長距離を移動する機会の多いユーザーは、4WD車を積極的に検討することをお薦めしたい。
購入時には納期にも注意したい。2024年7月中旬に販売店に尋ねると「e:HEV AIR EXは人気が予想以上に高く、約10カ月を要する」としている。
一方「e:HEVクロスターは約6カ月で、ノーマルガソリンエンジンならAIR EXを含めて2~3カ月に収まる」という。ホンダでは「e:HEV AIR EXは増産を検討中」と述べたが、2024年7月中旬時点では、納期は短縮されていない。購入するなら納期もチェックしておきたい。
■フリードAWDのラインナップ
※2WDに比べて各23万1000円アップ
フリードe:HEV AIR 6人乗り 4WD:308万8800円
フリードe:HEV AIR EX6人乗り 4WD:327万8000円
フリードe:HEV クロスター5人乗り 4WD:339万3500円
フリードe:HEV クロスター6人乗り 4WD:343万7500円
フリードAIR(ガソリン)6人乗り 4WD:273万9000円
フリードAIR(ガソリン)6人乗り 4WD:292万8200円
フリードクロスター(ガソリン)5人乗り 4WD:304万3700円
フリードクロスター(ガソリン)6人乗り 4WD:308万7700円
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