1985年の鈴鹿8耐は、ラスト32分でトップのケニー&平を悲劇が襲い、RVF750が1-2フィニッシュ。そんなファクトリー勢が大挙する中、ニンジャは10位でゴールしたのだ。

 

文:小川勤 写真:石村英治(PHOTOSPASE RS) Webikeプラス
取材協力:ケイファクトリー https://www.k-factory.com/

 

WGPライダーが大挙した1985年の鈴鹿8耐

 1985年、鈴鹿8耐の観客動員数は15万6000人(2023年は4万2000人)。レース展開もドラマチックで、その伝説は今も多くのライダーに語り継がれている。

 市販車においても世界は空前のバイクブーム。WGPは熱狂的に盛り上がり、バイクは凄まじい勢いでハイスペック化。鈴鹿8耐は1000ccから750ccになった2年目のシーズンで、TT-F1レギュレーションで開催され、ベースモデルの性能が大きく左右された。ホンダ、ヤマハ、スズキはファクトリーマシンを導入し、世界GPライダーも大挙して参戦していた。

 優勝はワイン・ガードナー&徳野政樹(ホンダ/RVF750)、2位はマイク・ボールドウィン&ドミニク・サロン(ホンダ/RVF750)、3位はケビン・シュワンツ&グレーム・クロスビー(スズキ/GSX-R750)。レースはケニー・ロバーツ&平忠彦(ヤマハ/FZR750)がコントロールするが、ラスト32分でマシンに異変が起き、ホームストレートでマシンを止めてしまったのだった。

チームグリーンとして初めて挑んだ鈴鹿8耐 #38は岡&日下、#39は齋藤&多田で参戦

 

 

 

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カワサキはファクトリーでのレース活動を1983年に中止

 そんなファクトリーマシンがひしめくなか、カワサキのチームグリーンは市販車であるGPZ750Rで参戦。2台体制で挑み、ゼッケン38の岡正弘/日下直一が16位で、ゼッケン39の齋藤昇司/多田喜代一が10位でチェッカーを受けた。実はチームグリーンにとってはこれが初めての鈴鹿8耐。この時代のカワサキのレース環境は少し複雑だった。

 カワサキは1978〜1981年まで世界GP250ccクラスを連覇し、その後は世界耐久選手権などでも活躍していたのだが、1983年にファクトリーでのレース活動を中止した。

 しかし、「二輪メーカーがレースを忘れてはいけない。ライムグリーンを走らせないといけない」という思いを持つ人々の力で1983年にチームグリーンが誕生。1985年にチームグリーンとチーム38は統合し、レースを走ることになったのである。

 チーム38とは、1975年に作られたカワサキの社内チーム。モトクロスチームとしてスタートしながら活動の場をロードに広げていくが、カワサキから資金的な援助を受けているわけではなく、社内にあるプライベートチームという位置づけだった。38の由来は、当時テストライダーと実験研究部が第38工場にあったからである。

 今回、トークに参加してくれた齋藤昇司さんは、チーム38の創設メンバー。当時は、チーム38とチームグリーンが統合されるという話を渋々受け入れたというが、チーム38は現在も社内チームとして活動。昨年、齋藤さんはカワサキOBとしてチーム38のメンバーと『もて耐』を楽しんだ。

 

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初代ニンジャ、GPZ900Rは1984年に登場!

 

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ほぼ量産状態で挑んだ85年の鈴鹿8耐

小川:まずは、当時のカワサキのレース環境について教えてください。

齋藤:カワサキレーシングチームがレースから撤退するという話を聞いたのは83年の初め。「え、ライムグリーンが世界から消えてしまうの?」と思いました。ショックでしたね。
ただ、販売会社(今のカワサキモータースジャパン)が「ロードレースがないのはまずい」となり、川崎重工業に掛け合ったんです。そして、チーム38がチームグリーンに統合される形で復活。それが85年です。鈴鹿8耐の前にもチームグリーンとして様々なレースに出ています。

石田:85年の鈴鹿8耐は、他社はファクトリーマシン参戦しています。その中で10位は立派ですよね。

多田:トップとバトルをしようというのは端からなかった。自分たちのペースで走ればリタイヤするチームが出る。でもウイリーしてたら監督に怒られました。「オイルラインにエアが入って焼き付いたらどうなるんだ」ってね。でも、お客さんが飽きないようにライダー交代の5周前からはシケインとヘアピンでウイリーしてました(笑)。

齋藤:第一スティントから15位、16位を走っていました。ライダーは身長180cmと160cmちょっと。ポジションも合わせていません。

大前:量産の万人向けポジションで走ったんです。アップハンドルにしてね。レーサーじゃないんです。だから身長差があっても乗れたんです。

多田:いやいや、そうでもない。やっぱり長いし、大きかった(笑)。

石田:後にそれがニンジャカスタムのトレンドになっていく。バーハンドルのブームを作ったのだと思います。

齋藤:カワサキは伝統的にアップハンドル。エディの時代からそう。Z1000Jはしんどかったはずだけど、気合いと根性で乗る。清原明彦先輩もアップハンドルのH2で一世風靡した。

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重たすぎて鈴鹿の車検場では重量を計測できなかった……

齋藤:最高速や馬力は900と同じくらい。エンジンもチューニングせず、エキパイは重たいノーマルで、マフラーはサイレンサーを変えただけです。

大前:ニンジャのダイヤモンドフレームというのはそもそもレースに出るようなレベルのマシンではない。サイドにアルミパイプをつけたけれど、デザイン的なイメージの方が大きかった。

多田:今、街で信号待ちしているニンジャの方が軽量化してある(笑)。

齋藤:車検場で重量を計測できなかったからね。鈴鹿は200kgまでしか測れないんですよ。計測しようとしたら針が振り切って「測れないから不合格だな」って冗談で言われました。

多田:市販車のGSX-Rが乾燥で180kgくらい。各社のファクトリーマシンは160kgくらい。GPZ750Rの乗り味はね、もうリムジン。フワフワ。目線も高いし、景色も見れる。だから8時間も大変ではなかった。

齋藤:唯一のトラブルはガス欠。スプーンに入ったらエンジンがストール仕掛けて「燃欠やん」って。130Rに入る手前から押して帰ってきました。

多田:名前の知っているライダーがたくさんいるのも楽しかった。ファクトリー勢は、予選からタイムを落として決勝を走っていたけど、チームグリーンは予選タイムと同じくらいで走行。だからそれほど離されなかった。

齋藤:ケニーが抜いてくれるのが、嬉しかった。ワインは勢いがあった。

多田:森脇さんがフレームをトライしていた時代。僕も80年の終わりにアルミフレームをテスト。翌年、それに乗る予定だったけど、背骨を折ってしまい、森脇さんは急遽オーストラリアでワインを探してきた。僕の背骨が折れてなかったらワインはモリワキに乗ってなかったかも(笑)。

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皆さんが思い描く理想のニンジャとは?

小川:この鈴鹿8耐の後もニンジャは生き続けます。GPZ750Rは86年に生産を終えますが、GPZ900Rは03年まで生産されます。

齋藤:ここまで引っ張るとは思わなかった。当時、GPZ900Rは開発にとても時間がかけられていましたね。

大前:水冷の効果って凄いと思いましたね。エンジンはリジットマウントなのに振動がこのレベルに収まっている。それが壊れないことに直結しています。

齋藤:GPZ900Rは、今でもノーマルに乗ると十分楽しい。カスタムも色々あるけど、これニンジャなの?と思うほどしっかりとした乗り味で、タイヤの接地感もとても高い。

多田:昔、ケイファクトリーのカスタムニンジャで筑波サーキットのコース1000を走ったけど、自然と寝かせられるバイクだった。

小川:皆さんの理想のニンジャはどんな姿ですか?

多田:みんながチョイスできるようになっているがベスト。自分好みになるバイクってありそうでない。これが俺のニンジャだって言えるのが楽しいと思う。GPZ900Rはカスタムする余地、手を入れる楽しさがある。

大前:少し話がズレるかもしれませんが、2サイクル……(笑)。軽くて速い、誰でも整備できるシンプルなマシンが良い。乗る楽しみと整備する楽しみがあるマシンが良いです。

齋藤:やっぱりGPZ900Rフォルムのニンジャいい。Z900RSのニンジャ版を出してくれたら面白い。

石田:ニンジャをもっと楽しんでいくために40周年を記念したイベントを8月25日に筑波サーキットのコース1000で開催します。この日までに40周年を記念したカスタム車も作りますから、レジェンドの皆さんにも見て、乗っていただきたいですね。

 

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