交通事故に巻き込まれた際に加害者側からと持ち掛けられる「個人間示談」が加害者側から提案されることがあります。しかし、個人間示談には大きなリスクが潜んでいるのです。今回は、筆者の実体験をもとに、自動車事故の個人間示談がもたらす問題点をふまえ、避けるべき理由を明らかにします。

文:佐々木 亘/写真:AdobeStock(トップ画像=SUPERMAO@AdobeStock)

■保険会社が警鐘を鳴らす! 個人間示談の危険性

どんなに些細なことでも、交通事故では警察を呼び、保険会社への事故報告を怠らないことが、我が身を守る一番の方法なのです(SUPERMAO@AdobeStock)

 個人間示談における大きな問題点は、自動車保険が適用がされないことにあります。次の事例は、筆者が実際に相談を受けたものです。

 被害者は20代のドライバー、加害者は60代のドライバーでした。被害者が駐車していたところへ、バックしてきた加害者が衝突。被害はバンパー損傷です。

 傷は大きくないと判断した加害者は個人間示談を持ちかけ、被害者はそれを了承。両者の間で、連絡先と名前、クルマのナンバー等を控え、被害者はクルマを修理工場へ入れました。

 数日後、修理の見積もりが出来上がり、12万円の修理費用がかかると加害者に伝えたところ、加害者は「高すぎる!」と激昂。以降、加害者とは連絡がとれなくなりました。

 事故から1か月後、困り果てた被害者は、自身が加入している自動車保険会社へ相談するも、正式な事故の記録がない上に加害者に連絡がつかないため、対応は難しいという回答がきます。結果、被害者は修理費用を全額自己負担して修理を終わらせることになりました。

 保険会社の対応が冷たく感じるでしょうが、個人間示談をしてしまうと、保険会社が入る術が無くなってしまいます。保険会社や警察を通さない個人間示談では、事故の正式な記録が残らないことが最大のリスクです。

 また、個人間示談で多い口頭での示談や、簡単な書面での合意では、後にトラブルが発生した際の証拠とするには弱く、たとえ証拠を保険会社に提出しても、保険会社が介入するには限界があります。

 特に被害者側にとって、個人間示談はリスクの塊でしかありません。どんなに些細なことでも、交通事故では警察を呼び、保険会社への事故報告を怠らないことが、我が身を守る一番の方法なのです。

■修理工場から見た個人間示談のリスクと問題点

 個人間示談は、修理工場にとってもリスクと問題点が山積みです。最悪の場合、いつまでも修理に着手できない可能性もあります。

 修理工場から見れば、最も不安視されるのは個人間示談における修理費用の不払いです。加害者が修理費用を支払う約束をすることになるのですが、支払いを担保する公的な書面や、第三者による確約がありません。

 実際、口約束だけで修理を受けた結果、加害側の支払いが滞ったり、支払わなかったりするケースもあります。

 そのため、修理工場によって違いはありますが、個人間示談の場合は、修理費用の先払いを求めることが多くあるのです。こうした先払いを加害側が嫌がるケースも多く、被害者のクルマの修理が難航することも。

 保険会社に加えて、修理工場にもソッポを向かれては、どうすることも出来なくなってしまいます。個人間示談は、百害あって一利なしの行動です。

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■個人間示談で被害者は守れない! 適切な手続きをして示談交渉を進めよう

事故報告をしただけ、示談交渉を行ってもらうだけでは、自身の自動車保険の等級がダウンすることはありませんので、特に被害者側になった時には、遠慮せず保険会社へ相談してください(jteivans@AdobeStock)

 事故が起きたら、まずは警察へ通報します。そして自身の加入する保険会社や保険代理店に、事故の発生を伝え、警察が到着してから相手と話を行い、互いの連絡先を交換するだけにし、その場での示談は行わないのが基本です。

 特に、自動車保険を使いたくない、使えないという人は、その場で示談にしようとする傾向があります。相手から事故に関連する話を持ちかけられても「保険会社に任せています」とだけ伝えて、相手のペースで話を進めないでください。

 その後は、相手のことを保険会社へ伝え、基本的に相手と自分の保険会社同士で話を進めてもらう(示談交渉を行う)といいでしょう。

 事故報告をしただけ、示談交渉を行ってもらうだけでは、自身の自動車保険の等級がダウンすることはありませんので、特に被害者側になった時には、遠慮せず保険会社へ相談してください。

 事故が発生した際は、冷静な対応と適切な手続きが重要なカギを握ります。「どんな小さな事故でも個人間示談をしない!」これが、自分の安全と権利を守ることにつながるのです。

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