若狭と近江のそれぞれ1文字を取って若江線(じゃっこうせん)。JR湖西線の近江今津〜JR小浜線の小浜を結ぶ、西日本JRバスが運行するバス路線だ。

文・写真:中山修一
(西日本JRバス若江線の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■「鯖街道」の足を支える交通機関

西日本JRバス若江線。車種は2017年式いすゞエルガミオ(2KG-LR290J3)

 先日、琵琶湖を路線バスで一周(別記事で紹介)しようとして、ものの見事に負け戦を決め込んだその後。

 次の予定も特に決めていない中、ふと若江線の存在を思い出し、バスの時刻もちょうど良さそうだったため、湖西線で近江今津まで足を延ばした。

 JR線の新快速で行くと、近江今津は12両編成のうち後ろ8両を切り離す駅になっていて、敦賀方面まで行く前4両への乗客大移動を含めて、電車が到着するたび少々慌ただしくなる。

 電車のホームとは対照的に、近江今津駅前の若江線バス乗り場は至って穏やか。通し便は1日10本、10分ほどの待ち時間でバスがやってきた。中型路線車のいすゞエルガミオが使われている、見た目はごく普通の路線バスといったところ。

 このバスは、その昔に若狭(現在の小浜市周辺)で獲れた海産物を京(現・京都)まで輸送するための主要路で、運んだ魚の種類に鯖が多かったことから「鯖街道」と名の付いた街道に近い、現在の国道303号線と27号線をメインルートに小浜へと向かう。

 始発から乗車したのは3人くらいと、これまたローカル路線バス然とした様子で、緑豊かな景色の中を、張り詰め知らずな空気感にマッタリ包まれながら、約33.5kmの道のりを1時間ちょうどで走り小浜駅前に着いた。運賃は1,350円。

 バスの見た目や乗り味は、旅の足に使うと楽しいローカル路線バスそのもの。平均的と言えばそうなのだが、実はこの若江線、バス路線としては物凄く珍しい素性を持っていたりする。

■こんなところが珍しい(1):国鉄バスの直系

 西日本JRバス若江線のルーツを辿ると、元々は近江今津〜小浜方面(現在の上中駅)間に鉄道を通す計画があり、線路の着工に先立ってまずバス路線を仮の輸送手段として用意するところから始まっている。

 戦前の省営バス→戦後も国鉄バスが引き続き、鉄道と同等のバス路線「自動車線」の若江線として運行していた。ところが後に鉄道線の計画が立ち消えになり、自動車線の若江線のままバスが残った形だ。

小浜行きと近江今津行き、若江線同士がすれ違う

 JRになってからも、旧・国鉄自動車線の時代から大してお作法を変えない“直系”と言えそうなスタイルのまま、今日に至っているのが若江線の珍しいところ。

 国鉄の頃は、鉄道とバスを1枚の切符にまとめて発券する「連絡乗車券」というものが今よりずっと一般的であった。1枚の切符にすることで、全国の国鉄の鉄道/バスをスムーズに利用できたわけだ。

 国鉄がJRに変わり、鉄道とバスが別会社の関係になると、連絡運輸を解消したり、他の民営バス事業者に路線を譲ったり、路線自体が廃止されたりと、今やほぼ絶滅に近い制度になってしまった。

 そんな状況の中、若江線は2024年春現在も、条件が合えばJR線とバスを1枚の切符にまとめた連絡乗車券が作れる。これが出来る路線は希少中の希少だ。

 また、殊に近江今津駅では、狙えば10分ほどの連絡で電車→バス(その逆も然り)に接続できるよう、ダイヤの連携を維持しているのも注目すべきポイント。

 最近は、わざと繋がらないようにしている場所もあるくらいなので、ちゃんと利用者の使いやすさを考慮してくれているのが嬉しい。

■こんなところが珍しい(2):県境を越える

 一般道のみを走る普通の路線バスで、県境を越えて走る路線は今や例外扱いなほど少ない。若江線が結ぶのは若狭と近江、すなわち福井県と滋賀県だ。

シームレスな県境越えを実現

 民営事業者のバスなら、県境近くで分断していてもおかしくない。しかし若江線の場合、元が鉄道になる予定の国鉄線だったのもあり、そのまま県境を越えて通しで向かってくれる。

 前述の通り、若江線は一般道のみを走る路線バスで、車両も高速バスタイプではない、ごく普通の路線車が使われている。県境越え系一般路線バスの一面を持っている点も結構珍しい。

■こんなところが珍しい(3):電車より速い

 近江今津〜小浜を電車で行こうとする場合、一旦敦賀方面まで北上して大回りする必要がある。一方で若江線は同区間をショートカットする形で繋ぐ。

 バス vs. 電車で、バスが経路的にショートカットしていても、どうしても平均速度が遅くなるハンデのせいで、結局電車に負けるのは良くあるケース。

小浜駅前に直接バスが乗り入れる

 若江線はそのお定まりに入らず、純粋に速い。バスの便がある同時刻に近江今津を出たとすると、バスのほうが36分ほど早く小浜に着ける。電車に勝てるバスはちょっと凄い。

 ちなみに、若江線はICOCAほか交通系ICカードが利用できる。現在のところICOCAエリア外になっている小浜線の小浜駅まで、若江線を使うと大阪や京都方面から1枚のICOCAやSuica等で来られるメリットもある。

 表向きは素朴なローカル路線バスな顔をして、今日も静かに走り続ける若江線。真の姿を見出すと、その経歴は輝かしいものであり、なかなかの実力の持ち主だったりする。

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