これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、実力派のライバルに対して実直な姿勢で対決を挑んだ、ホンダのオルティアを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/ホンダ

■時はステーションワゴン戦国時代!

 ホンダといえばモデルチェンジしても作風を変え、同じ車名を使わないことがよくあり、一台限りで終わってしまった車種が多いことで有名である。たとえば、今も「オルティア」のことを覚えている人はいるだろうか。

 オルティアの登場は1996年。時代はクロカンブームの終わりが見えてきて、ステーションワゴンが流行り始めていた頃で、1992年のカルディナ、1993年に登場した二代目レガシィツーリングワゴンが大ヒット中。他にも、日産アベニールや三菱リベロワゴンなど、各メーカーがこぞってコンパクト~ミドルサイズワゴンを発売していた。

 そのような状況下で、シビックベースのコンパクトワゴンとして誕生したのがオルティアだ。車名の由来はギリシャ神話に登場する女神の名前ということで、ちょっと地味な雰囲気の実用的ワゴンのイメージとは合わない気もするが、フロントフェイスからどこか荘厳な雰囲気を感じられなくもない。

EK型シビックのシャシーをベースに開発されたコンパクトサイズのステーションワゴン。プリモ店とベルノ店で販売された

 なお、開発キーワードは「スポーツ・ユーティリティ・ワゴン」ということで、ワゴンらしく優れた使い勝手を活かして、レジャーにも日常生活にも使える便利な一台という位置付けだった。とはいえ、当時のステーションワゴンブームは“格好から入る”ユーザーも多く、機能性よりデザインが重視されていた部分も大きかった。

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■デザインも機能性も真面目な実力派

 そんなオルティアのデザインだが、ベースがEK型シビックということで、大型のヘッドライトによる潔い表情や、クリーンな雰囲気など共通したものが感じられる。フロントオーバーハングが短く、取り回しが良さそうにも見える。

 リアまわりもクセがなくプレーンなデザインにまとめられており、なんだか道具としていい仕事しそうな雰囲気がプンプンしている。逆にいえば個性がないとも言えるのだが、これは選ぶ人の好みであり、ホンダを支えてきたシビックというクルマが、それまでシンプルなデザインで評価を高めてきただけに、正当進化と言えなくもない。

ツートーンカラーがいい雰囲気のリアスタイル。強烈な個性は感じられなかったが、道具としては悪くない

 インテリアはホンダらしく使いやすさ重視でまとめられている一方、(当時としては)モダンでなイメージが強い。ピラーが垂直に近いことから荷室も広く、使いやすくなっているうえ、ガラスハッチのみ開けることもできた。

 搭載されたエンジンは、新設計の2.0Lエンジンで、最高出力145馬力を発揮(デビュー当初)。街乗りで使うには必要にして十分だ。さらに、リアルタイム4WDシステムはクラス最軽量のデュアルポンプシステムを採用するなど、機能性の高さは、いかにも道具として使われるステーションワゴンらしい、頼もしい部分でもあった。

■スポーティ路線への転向はありだったのか?

 1997年、誕生からわずか1年で運転席&助手席用のSRSエアバッグシステムと3チャンネルデジタル制御ABSを全車標準装備するなど、安全装備の充実化がはかられた。実用的なクルマだからこその措置だったが、現代ほど安全装備が重視されてなかったために、メーカーが期待したほどここでの評価は上がらなかった。

 1998年にはマイナーチェンジを敢行。フロントバンパーなど複数のスポイラー類が形状変更され、たくましい雰囲気を獲得している。インテリアにはカーボン調パネルなどを採用し、スポーティさがプラスされた。その他、高熱線吸収UVカットガラスを全車標準搭載、電動格納式ミラーの採用など、装備類も充実化されている。

 その効果が販売面で感じられなかったのか、翌1999年にもマイナーチェンジがなされている。イメージカラーを赤として、スポーティグレード「S」を追加。車高を15mm下げたサスペンションやリアスタビライザーなどを装備、最高出力を5馬力向上して、走行性能を高めている。

 このあたり、スポーティさが高く評価されていたレガシィへの対抗心か、はたまたユーザーからの要望もあったのか。当初の「使えるワゴン」から「スポーティワゴン」への方向転換がよくなかったのか、2002年に生産終了となる。

マイナーチェンジ後のスタイリング。「S」グレードで人気を獲得しようとする意図がみられた

 ホンダのコンパクトワゴンは数年後にエアウェイブが登場するまで空席となった。そしてオルティアの名称が受け継がれることもなかった。いま思えば、平均点の高い不満の出ないクルマだったオルティア。ワゴンブームが終わった現代になってみると、デザインに頼らない実力派のステーションワゴンは貴重な存在であった。

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