ベストカー本誌で連載中の「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」が、連載700回目を迎えた。しかし、700回記念の試乗車は新型ホンダ N-BOXという、ごくフツーのチョイス。「編集担当が700回に気付いてなかったんじゃないの?」というテリーさん。700回は単なる通過点ですから!(汗)
※本稿は2024年3月のものです
文/ベストカー編集部、写真/西尾タクト、HONDA
初出:『ベストカー』2024年4月26日号
■N-BOXは買い替えの説得が難しい!?
ベストカー本誌での当連載が今回、700回目の節目を迎えた。1994年12月10日号から始まったというから、2024年で31年目。毎月2回、一度も休んだことがないと聞いたが、私はこの仕事が大好きなので、休むわけがない。
で、700回記念の試乗車は新型N-BOX。記念の回という感じがあまりしない普通のクルマである。編集担当氏は「700回なんて通過点ですから」と言っているが、たぶん、700回であることに気づいていなかったのだろう(笑)。通過点であるのは事実だし、私もそれでいいと思う。
■N-BOXは買い替えの説得が難しい!?
さて、新型N-BOXだが、正直に言って、最後まで新型車であることがわからなかった。見ても、乗っても、旧型と新型の違いがわからない。デザインは代わり映えしないし、室内の雰囲気もさほど変わらない。
編集担当氏に「どこが変わったの?」と聞くと「走りが少しよくなっています」という。また室内も少し広くなっているそうだ。
軽自動車の限られたサイズで室内を広くすることなどできるのか!? と驚いたが、前席の片側肩周りが5mm、後席の片側肩周りが55mm、そして頭上スペースが5mm広がったのだという。
「そうですか」としか言いようがない。走りは従来型でも悪いところはなかったし、室内の広さも十分以上だったから劇的によくなったと感じるのは難しい。
N-BOXは今回の新型が3代目というから、おそらく初代から乗り換えた人は進化を感じられるのだろう。しかし、2代目ユーザーにとってはどうだろう。正直に言って、「新しいクルマに乗り換えた!」という喜びは少ないのではないだろうか。
N-BOXのデザインは初代から秀逸だったので、変えないという判断も悪くはない。BMW ミニなどデザインを変えないクルマはほかにもある。
しかし、家族に買い替えを説得しにくいという弱みもある。「頭のスペースが5mm広くなった」というのが買い替えの理由になるだろうか。
ましてや肩周りが何ミリか広くなったと奥さんに言っても「あんたが痩せなさい」と言われておしまいではないか。総額200万円を超える買い物を納得させる材料が少ないような気がするのだ。
■理想のN-BOXはこのあと登場!
そんな感じで新型N-BOXの普通すぎるモデルチェンジを嘆きつつ「アウトドアイメージのある仕様がほしい。シートをチェック柄などにした楽しいN-BOXを作ってほしいよね」と言ったら、なんと、まさしくそういうクルマが用意されているという。
編集担当氏によると、N-BOX JOYという車名で、2024年秋に登場予定なのだとか。ホンダもやはりわかっているのだ。それなら話は違ってくる。
N-BOX JOYはきっと楽しいクルマだろう。クルマというのは不思議なもので、ちょっと雰囲気を変えるだけで似合うシーンが変化する。N-BOXは日用品の買い物イメージなのに対し、N-BOX JOYは海や山、オートキャンプのイメージになる。それなら買い替える説得もしやすいというものだ。
また、そうなるとクルマの「使い方」も問われるようになる。N-BOXのようなクルマをどう使いこなすのか、その「技術」が重要になってくるのだ。
昔は運転が上手いとか、チェーンの脱着やタイヤ交換が早いとか、そういうことがモテるドライバーの条件だったが、今は愛車を趣味よくアレンジしたり、室内空間を上手く使いこなせる人がモテる時代になっている。パソコンやスマホの新しいアイテムを使いこなすのと同じことである。
自動車メーカーはユーザーにクルマを与えるまでが仕事で、そこから先はユーザーの裁量に任せるという時代になっているのかもしれない。つまり、メーカーはベース車を作っているだけということである。
まだ出ていないクルマのことばかり言うのも申し訳ないが、今回新型N-BOXに乗って、N-BOX JOYが気になるようになってしまった。2024年秋のデビューが今から待ち遠しい。
●ホンダ N-BOX ファッションスタイル(CVT・174万7900円)
2023年10月に登場した3代目。標準車は丸目+同色グリルでNAエンジンのみ、カスタムは角目+メッキ&ブラックグリルでNAとターボの設定。室内が若干広くなり、走りのクオリティも向上。
ボディサイズは全長3395×全幅1475×全高1790mm、ホイールベース2520mm、車重910kgで、ファッションスタイルはオフホワイトアクセントの塗装が施されている。
■祝・700回&31年目に突入! テリーさん、当連載をここで振り返る
1994年末から始まったこの連載が、今回700回目を迎えました。ベストカーは昔から愛読していた雑誌だったから、連載の声がかかってとても嬉しかったことを覚えています。
この連載で試乗して気に入り、買ったクルマもたくさんあります。ジープラングラー、ランエボワゴン、そのほかにもたくさん。最近ではアウトランダーPHEVもそのひとつです。
この連載を続けながら、ずっと考えていたことがあります。それは「太っちゃダメ」ということで、もちろん自分自身のことです。
例えば室内がタイトなクルマに乗った時、「室内が狭い」と評価しても「おまえが太ってるからだ」と言われたらおしまいです。自分の体が健全でなければ、クルマの正しい評価はできないという思いがずっとあるのです。
30年以上も続けていると、クルマの変化も感じます。最近は日産のパイクカーやトヨタのWiLLシリーズのような、デザインでチャレンジするクルマが少なくなったし、そもそも日本人のための日本車自体が減りました。ビジネスなのでしかたないですが、そこは寂しい気がします。
ベストカーは庶民的なスタンスを変えずに、いつまでもコンビニで気軽に買える雑誌でいてほしいし、私も庶民的な視点を忘れないようにしていきたい。それはとても大事なことだと思っています。
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