CVT、ブレンボ、軽の64ps規制、電動スライドドア、カーナビ……今や当たり前になったクルマ界のトレンド11つの元祖を探ってみた(本稿は「ベストカー」2013年3月10日号に掲載した記事の再録版となります)
TEXT/渡辺陽一郎
■電動スライドドア
●元祖は?……電動スライドドアは、電車などには古くから採用されていたが、乗用車に使われるようになったのは、1989年に登場した4代目ハイエースワゴンあたりからだ。スライドドアは開閉時にドアパネルが外側に張り出さず、乗降性がいい。その半面、横開き式に対して操作に力を要する。そこで乗用車には電動式が採用されることになったのだ。
●現在の流行りっぷり……1990年代の中盤になると、ミニバンの新型車が続々と登場。全高が1700mmを超える背の高い車種では、電動式のスライドドアが常識になっている。
軽自動車では、2006年に登場した現行eKシリーズが左後部に電動スライドドアを採用。2007年にタント、2008年にパレットと装着車を増やした。ポルテも2004年に登場した先代型から設定している。
■フラットフロアのFFミニバン
●元祖は?……今では当たり前のように感じるフラットフロア構造と前輪駆動を最初に組み合わせたのは、1996年に登場した初代ステップワゴン。開発者は当時、「フラットフロアのミニバンは、後輪駆動だと、プロペラシャフトを避けて床が持ち上がる。走行安定性から居住性まで、すべての面で前輪駆動が有利だ」と語った。
国産ミニバンの歴史は1982年登場のプレーリー、1983年のシャリオから始まるが、背の高い車種はワンボックスワゴンの時代が長く続いた。3列目の快適なフラットフロア構造のミニバンは、1990年のエスティマが最初だが、エンジンを床下に搭載する後輪駆動。1992年のバネットセレナ、1995年のグランビアも後輪駆動だったのだ。
●現在の流行りっぷり……そんなワケで今はすべてのミニバンがFFベースなのだ。
■横滑り防止装置
●元祖は?……日本車で横滑り防止装置を最初に採用したのは、1995年に登場した2代目クラウンマジェスタ。V8、4Lエンジンを搭載する4WD仕様、Cタイプi-FOURが元祖だ。
●現在の流行りっぷり……今では相応に普及して、軽自動車のN-BOXやN-ONEも全車に標準装着する。その反面、プレミオのように最上級グレードだけにオプション設定される車種も残る。輸入車では大半が標準装着するが、日本車は車種による格差が激しい。
ちなみに横滑り防止装置は、すでに義務化されている。2012年10月1日以降に型式指定を受けた小型&普通車は、横滑り防止装置を標準装着せねばならない。軽自動車も2014年10月1日以降に義務化される。
まあ安全になるのはいいことなので、みんなで歓迎しよう。
■CVT
●元祖は?……無段変速ATのCVTを最初に採用した車種はスバルのジャスティ。初代モデルが1984年に登場し、1987年に量販車では世界初となるCVT装着車を設けた。この後、1997年に10代目ブルーバードがハイパーCVTを採用するなど、急速な広がりを見せた。
●現在の流行りっぷり…CVTはトルクコンバーター式のATに比べて駆動力の伝達効率が優れ、なおかつ無段変速だからエンジンの高効率な回転域を多用でき、燃費性能と動力性能を効果的に高められるという長所がある。
それゆえ今ではATの主流はCVT。軽自動車やコンパクト、2Lクラスのミニバン、さらに3.5Lのティアナなど、さまざまな車種がCVTを採用している。車両価格が250万円以下の車種は、大半がCVT装着車というのが現状だ。
■クラッチレスマニュアル
●元祖は?……マニュアルミッションではあるが、クラッチペダルを装着しない半自動変速のオートクラッチは、1964年にスバル360が搭載するなど歴史は古い。ただしDレンジによる完全な自動変速モードはなかった。
トルクコンバーターやCVTを使わず、マニュアルミッションをベースにしながら、完全なATとして機能するのはいすゞの「NAVi5」が世界で最初だ。1984年にアスカに搭載された。
電子制御ながら、初期の技術とあって加速感がギクシャクする面はあったが、30年も前の話。相当に先進的な機能だった。
●現在の流行りっぷり……この後、ナビ5は前輪駆動になった2代目ジェミニ、商用車にも採用されたが、乗用車の分野では廃れた。そして今ではVWのDSGなど、海外メーカーに先を越されている。日本車では一部のスポーツモデルが採用するのみで、さみしい状況だ。
■背の高い軽自動車
●元祖は?……一般には1993年登場の初代ワゴンRのイメージが強いが、背の高い軽自動車の真の先駆けは1990年に登場したミニカトッポ。全高が1700mmを超えるボディは「トールボーイスタイル」として注目され、売れゆきも好調だった。
●現在の流行りっぷり……初代ワゴンR登場後、1995年にムーヴ、1997年にライフと全高が1600mmを超えるモデルが続々と登場し、今では軽自動車の売れ筋となっているのはご存じのとおり。
さて、草分けのトッポだが1998年に一新されて2003年に生産を終了。が、市場の要望が強かったため2008年に同じ金型を使ったボディで復活した。ユニークな外観が魅力とされるが、機能的には「背の高いボディと低い着座位置」が特徴。全高が1600mmを超える軽自動車では、唯一小柄なドライバーでもペダルに足が届きやすいのだ。
■スポーツ車にブレンボ
●元祖は?……ショックアブソーバーのビルシュタインなどと並んで、ブレーキの名ブランドとされるブレンボ。日本車では、1992年登場のR32型スカイラインGT-R Vスペックから採用が開始された。当時、国産車メーカーが海外の部品メーカーと協力してブレーキを開発することなどなかっただけに、インパクトは大きかった。
●現在の流行りっぷり……今でもGT-Rのブレーキはブレンボ製。このほか国産車ではランサーエボリューションX、インプレッサWRX STI。輸入車も含めれば、実に多くの車種に採用されている。高熱によって制動力が低下するフェード現象が発生しにくく、制動力も安定して高いことから、ボディの重い高性能なスポーツモデルに用いられることが多い。
■軽自動車の64ps規制
●元祖は?……今度はちょっとうれしくない、現在まで続くトレンドの話。軽自動車は排気量の不足を補うため、大半の車種がターボ仕様を用意するが、その最高出力はみな64psで統一。なぜか。
きっかけになったのは、1987年にスズキの2代目アルトに設定されたワークスだ。軽自動車では最初のツインカムターボ搭載車で、総排気量が550ccの時代だったが、最高出力は64psに達した。型式指定は得たものの、「これ以上の高出力化は危険」と運輸省(現在の国土交通省)が難色を示し、自主規制となってしまった。
●現在の流行りっぷり……困ったことに現在までトレンドと化しているが、もはや形骸化した制度だ。時代は変わり、今は最高出力よりも燃費が重視される。馬力競争に走る心配はなく、自主規制をやめれば、660ccターボを小型車に積むという道も開けるのに……。
■LEDヘッドランプ
●元祖は?……最近はさまざまな分野に用いられるLED。大量生産されるクルマにおいて、世界で最初に採用したのは、2007年に登場したレクサスLS600hだ。当時はプレミアム装備的な役割も与えられていた感があった。
●現在の流行りっぷり……LEDヘッドランプは充分な光量があり、消費電力も少なく長寿命。数多くのメリットがあることから、採用車種は増えている。特にエコカーの代表とされるハイブリッドとは、イメージ的にも相性がよく、プリウスにも採用される。コンパクトカーでは、2012年12月に設定されたデミオの特別仕様車「13スカイアクティブ・シューティングスター」も採用した。
ただ、LEDは発熱量が少なく、付着した雪が溶けにくいというデメリットもあるが……。
■4WS
●元祖は?……4輪操舵の先駆けは、1985年に登場した7代目スカイラインのハイキャス。ただしリアサスペンション全体をハンドルの舵角と同じ方向に動かす仕組みだから、後輪の接地性を高める同位相の効果は得られるものの、厳密には4輪操舵とはいい難い。
となれば1987年の3代目プレリュードがやはり最初か。機械式を採用し、小さな舵角では後輪を同位相にステアして走行安定性を向上。大舵角では逆位相になって小回り性能を高めた。
●現在の流行りっぷり……今ではフーガやスカイラインの4輪アクティブステア、レクサスGSのLDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム)などに用いられる。GSのLDHには小回り性能を向上する逆位相の機能もあり、最小回転半径が5.3mから5.1mに小さくなる。
■カーナビ
●元祖は?……元祖は1981年登場の「ホンダエレクトロジャイロケーター」。目的地を専用のペンで記入した地図シートを画面に挟み、そこに自車位置が示される仕組みだが、ほとんど販売されなかった。
機能が本格的になったのは、1987年にクラウンが採用した「エレクトロマルチビジョン」。GPSを用いないので、相応の実用性は備えたものの、それでも画面の地図上で、クラウンが海の上を走るようなことはあった。
GPSを用いたのは、1990年に登場したユーノスコスモが最初。GPS通信衛星の電波を使って自車位置を測定できるため、不具合はほとんど解消された。
●現在の流行りっぷり……カーナビの機能は進化したが、最近はスマホのナビ機能など、新たな動きが見られる。
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以上、現在まで続くトレンドの元祖を紹介して参りました。いいトレンドも悪いトレンドも、やっぱり「元祖」はそれなりに偉い。本企画中で紹介している車種をもし街中で見かけたら、ぜひ最大限の敬意を持ってあたたかく見守ってあげてください。
(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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