ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はホンダ クラリティPHEV(2019-2021年)試乗です!(本稿は「ベストカー」2020年4月26日号に掲載した記事の再録版となります)

撮影:西尾タクト

■国内販売台数2020年1月は1台、2月は6台の超低空飛行……

ホンダ クラリティPHEV(無段変速・598万9500円)…当初は法人向けのFCV(燃料電池車)だけだったクラリティだが、2018年7月にPHEV(プラグインハイブリッド)が登場、こちらは一般にも販売されている。日本車ではプリウス、アコードPHEV、アウトランダーに次ぐ4番目のPHEV

 撮影現場に行ってみると、見たことのないクルマが置いてあったので驚いた。なんだこれ? 聞くとホンダのクラリティPHEVだという。

 そういえば、そんなクルマがあったなぁ……。しかし、なぜ今この連載に登場するのか? さらに問い詰めると、当連載の担当者である飯干編集長はこうのたまったのだ。

「あまりに売れていないので、テリーさんにその理由を探ってもらいたいと思って」。

 クラリティPHEVは昨年1年間の国内販売台数が68台。今年1月には「1台」の金字塔を打ち立て、2月は6台だったという。絶望的である。ワングレードで価格は598万9500円。これは厳しい。

 だが、私はホンダの開発者でも営業担当でもなければ自動車評論家でもない。単なるクルマ好きに「売れない理由を探れと言われてもなぁ」と思いながら見て、触っていると、まったくドキドキしないことに気がついた。

 ホンダe、新型フィットが新しい世代のデザインに変えてきているなか、クラリティは旧世代と新世代のはざまに生まれてしまった匂いが凄くする。

 特にインテリア。プラグインハイブリッドという先端技術を投入しているクルマとは思えない普通さなのだ。

平成時代を引きずっているように見えるインテリア。PHEVという先端技術のクルマなのに、そういう雰囲気がまったくないのはいかがなものか?

 外観はユニークではある。奇形と言い替えてもいいかもしれない。未来的なイメージを強調したかったのだろうが、それだけで終わっている。

 ぶさいくでも、どこか心を惹かれるデザインというのはあるはずだが、残念ながらそういう雰囲気は皆無だ。

 これがもしSUVだったらどうだろう? クラリティを見ながら私はずっとそう考えていた。

 もしかしたらユーザーの評価も売れゆきも違っていたのではないか。少なくとも、この無機質な感じはなく、もっと楽しげなクルマに見えるのではないだろうか。

 走らせてみると、よくできたクルマであることがわかる。フル充電で60kmくらいは電池だけで走るから(WLTCモードでは101km)、毎晩充電しておけばEVとして使い続けることもできそうだ。

 乗り心地もいいし、室内には余裕があって快適。走りの性能については文句なしだ。

 これがSUVだったらな……。私は何度もそう考えた。そして、インテリアにもっと力を入れるべきだったのではないかとも思った。未来的感覚の主張は、外観とともに内装でもするべきだった。

 あるいはPHEVでありながら、本格的なクロカン四駆の性能を持つクルマにするというのも面白い。

 つまり、どうせ大量に売れる見込みがないのであれば「もっと大振りするべきだった」ということだ。

 たぶん、ホンダにしてみればこれでも「大振り」のつもりなのだろうが、ぜんぜん足りない。

 三振してもいいからホームランを狙うという勇気がないまま作って、三振してしまっているようにしか見えないのだ。

後席の広さにまったく不満はない。走りもスムーズだし、高級セダンとしての魅力はあるのだ

■俺は出たくない! という心の叫びが聞こえた気がする

 とまぁ、好きなことを言ってきたわけだが、一番言いたいのは「こんなところに引っ張り出されて、クラリティPHEVがかわいそうだった」ということだ。

 普通、ヒット車や話題の新車が出てくる連載なのに、わざわざ月に1台しか売れてないクルマを持ってきて傷口に塩を塗る。

 クラリティPHEVにしてみれば「俺はこんなところに出たくない。そっとしておいてくれ」と思っていたことだろう。

 出たくないと言っているのに引きずり出した飯干さんは悪魔だ。多忙な毎日の憂さをこれで晴らそうという悪魔の所業だ!

特に印象に残らないが、走りが上質で魅力的なのは認める。それだけにもったいないと思ってしまう

 クラリティはホンダ青山本社の駐車場から出たくなかったはずだ。発進する時に、おそらく4回はエンストしたに違いない。

 不倫がバレた芸能人の記者会見みたいなもので、「俺は出たくない、やりたくない!」と叫んでいたはずなのだ。

 あるいはまた、カラオケが苦手だと言っているのに部下に強要されて、内山田洋とクールファイブの『そして、神戸』を歌ってドン引きされた部長さんのようでもある。

「だからイヤだと言ったんだ」とつぶやいてももう遅い。黙り込んだ部下たちに下を向かれたまま席に戻る悲しさと寂しさ。

 これはもう、完全に飯干編集長が悪い。今度クラリティPHEVがベストカーの誌面に出てくるのは、きっと「生産中止車情報」だろう。

1.5Lエンジンを発電中心に使う2モーターi-MMD(現在はe:HEVに名称変更)ハイブリッドシステムを搭載し、フル充電時にはWLTCモードで101kmものEV走行を可能としているが、ハイブリッド走行でのWLTCモード燃費は24.2km/Lとなる

 その時にも今回の写真が使われるのだ。傷心のクラリティの隣でおどけているテリー伊藤。編集長に代わって、今からクラリティに謝っておく。こんなところに呼んですまなかったと……。

 最後にひと言。私なら、クラリティPHEVを買うならテスラを買う。未来のクルマには「大振りの精神」が必要なのだ。次のチャレンジでは、そこを忘れないでほしい。

●テリー伊藤 今回のつぶやき

 クラリティPHEVはかわいそうな被害者だ。この連載に引きずり出した編集長が悪い! 私が代わりに謝る……。

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